加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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コーポレート・ガナバンス入門19 -資産所得倍増プランと資本コスト-

参議院選挙に突入しましたが、今一歩盛り上がりに欠ける状況です。

ロシアのウクライナ侵攻で、我が国を取り巻く安全保障環境の現実を多くの国民が認識しましたから、野党第一党の躍進はあまり考えられないでしょう。

岸田内閣の支持率は相変わらず好調ですが、その岸田内閣は令和4年6月7日、「経済財政運営と改革の基本方針2022 新しい資本主義へ~課題解決を成長のエンジンに変え、持続可能な経済を実現~」(骨太方針2022)を閣議決定しました。

そこで言及されている「資産所得倍増プラン」が注目を集めています。

2022_basicpolicies_ja.pdf (cao.go.jp) 
 

この「資産所得倍増プラン」とは、NISA(少額投資非課税制度)の抜本的拡充や、高齢者に向けた iDeCo(個人型確定拠出年金)制度の改革、国民の預貯金を資産運用に誘導する新たな仕組みを創設するなどして、貯蓄から投資へのシフトを図ろうとするものです。

自民党総裁選では金融所得課税の強化を打ち出し、市場を冷えさせ投資家の批判を集めていた総理の変心と捉えることもできます。

日本国内の金融資産のうち現預金は1000兆円を超え、全体の54%を占めるとされます(令和3年3月)。これに対し、米国は13%、欧州は34%とのことです。

どれだけ日本人が貯蓄好きか分かります。

国民性はあるでしょうが、バブル崩壊の記憶が残っていること、平均寿命が延びたことによる将来への不安が拍車をかけているのかもしれません。

このいわば眠っている巨額の貯蓄が、その一部であったとしても株式市場へ流れ込むとすれば、当然のことですが株価の上昇を見込むことできます。

そうすると、株価の代表的な指標であるPBR(株価純資産倍率)PER(株価収益率)から見て欧米企業と比較して割安と言われている日本企業の株式に外国人投資家も注目し、海外からの投資が増えるかもしれません。

それらの総合効果で日本企業の株価が上がれば、日本企業の資金調達が円滑となり、さらなる成長のための投資促進が期待できます。

企業の成長は、さらなる株価の上昇や配当により投資家の利益を生みます。

このような好循環が期待される「資産所得倍増プラン」ですが、テレビのニュースを何気なく見ていると、国会で野党議員が「金持ち優遇であって格差を広げるものだ」と批判していました。

確かに、日々の生活をやりくりするのが精一杯で貯蓄がほとんどない家庭も相当数あるのが残念ながら我が国の現実だと思います。その方々は投資する資金がないのですから、(投資の成果が出るのであれば)格差を広げるものであることは否定できません。

しかし、株価の上昇は自ら投資ができない日本国民にとっても無縁ではないのです。第4回でも説明したとおり、公的年金や企業年金などの資金運用として日本株が投資対象となっており、株価の上昇は年金の運用にとって有利になるのです。

また、投資で利益が出た方々がその一部を消費に回してくれれば、景気にとっても良い話です。

「金は天下の回り物」と古くから言われています。

何の施策も打たないよりは、チャレンジする方が遥かに良いのではないでしょうか。

心配するべきは、年末に策定される「資産所得倍増プラン」が、政府自民党お得意の各方面の顔色を窺った玉虫色の中途半端なものになってしまい期待した効果が発揮されないのではないかという点だと思います。


仮に政府の施策が大胆なものであったとしても、日本株の株価上昇のためには、投資対象である日本企業の魅力を高める必要があります。

そのためには『稼ぐ力』が求められます。

アベノミクス下のコーポレート・ガバナンス改革に大きな影響を与えた"伊藤レポート"「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクト最終報告書では、資本コストを上回るROEを上げ続けることが企業価値を生み出す大原則とされています。

Microsoft Word - 20140806伊藤レポート.docx (meti.go.jp)
 

資本コストについては、コーポレートガバナンス・コードにおいても自社の資本コストを把握することが求められています(原則5-2)。

資本コストの具体的な算出方法はコーポレートガバナンス・コードに定めはなく、上場会社それぞれで考えることになります。

資本コストには、株主資本コスト負債(他人資本)コストがあり、両者を加重平均したものが加重平均資本コスト(WACC)です。WACCは企業価値を算出するDCF法において使われますのでご存じの方も多いのではないでしょうか。

ここで言う資本コストは投資家との関係における文脈で用いられていますから、株主資本コストが主に問題になると考えて良いと思います。

株主資本コストは、乱暴に言ってしまえば、投資家は株式に投資してもその額が返ってくることが保証されるわけではないのだから、そのリスクを考慮して必要な利回りということです。

ROE(自己資本利益率)はすっかりポピュラーになりましたが、一般に次の式で算出されます。

 純利益÷自己資本×100

日本企業はROEが欧米企業と比較して相当低いと言われており、伊藤レポートではROE8%が最低限の目標とされていました。

経産省資料001_05_00.pdf (meti.go.jp)によると以下のとおりです。

表COPO.png

伊藤レポート後、ROEが上昇していますが、株主還元の一環として自己株買い、増配をするとROEが向上するため、自己株買い、増配が増えたとも言われています。

企業の経営者は売上、利益といった伝統的な指標を重視する傾向にあります。また、経営者も人間ですから会社の規模や売上高の拡大を求める傾向もあります。

経営者と投資家の意識のギャップがいつも興味深いのですが、生命保険協会が実施している企業と投資家に対するアンケートの比較結果では、機関投資家はROE以外にもROAROICに注目していることが分かります。

https://www.seiho.or.jp/info/news/2022/pdf/20220415_4-5.pdf
 

ちなみに、ROA(総資産利益率)は、

 純利益÷総資産×100

ROIC(投下資本利益率)は、

 税引後営業利益÷(株主資本+有利子負債)×100

でそれぞれ算出します。

これらの分母を見ると分かる通り、投資家は会社がその資産を使ってどれだけ効率よく利益を上げることができているかという点を重視しているのです。

投資家にとって投資先の会社の株式というのは数多い投資対象のうちの一つにすぎません。効率よく儲けている会社に投資し、効率よくリターンを得たいのです。

機関投資家の力はどんどん強くなっています。

自己株式の取得や増配による株主還元の増加が今後も予想されます。

一方、預貯金の金利はほとんどゼロです。

コロナ禍、ロシア・ウクライナ戦争、円安により我が国でもインフレが現実化しつつある今、貯蓄から投資への流れは必然ではないでしょうか。


投資家の期待を背負う企業経営者の責務は大きなものがあります。

しかも、短期の利益ではなく「持続的成長と中長期な企業価値の向上」やサステナビリティが求められています。

企業経営者に多くを求めるコーポレート・ガバナンス改革は政府主導で進められています。

政治家も、目の前のことばかりに傾注するのではなく、10年、20年、50年先のことまで見据えて真摯に政策に取り組んでもらいたいものです。

食料・エネルギーを含めた安全保障、少子高齢化、教育といった国の根幹に関わる問題を放置してもらいたくはありません。

加藤真朗

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