加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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会社法裁判例―特例有限会社において、増資に係る履行につき出捐を行った者が社員と認められた事例―

特例有限会社において、増資に係る履行につき出捐を行った者が社員と認められた事例

東京地判平成27年2月18日 判時2267号114頁

第1 判決の概要

本件は、Ⅹ1及びⅩ2が特例有限会社Y1社及びY2に対し、それぞれY1社の株式5100株を有する株主であることの確認を求め、さらにY1社の総会決議が存在しないにもかかわらずY1社の取締役を解任されたとして、X1がY1社の代表取締役の地位にあることの確認等を、X2が取締役の地位にあることの確認等を求めた事案である。

本件では、増資に係る持分の帰属、及びXらを取締役から解任する決議(本件解任決議)の存否が争点となったところ、本判決は、増資に係る持分が名義株であるとのXらの主張を認め、これを前提にXらを解任する総会決議が不存在であると認めて、Xらの請求を全部認容した。


(参照条文)

会社法830条

1 株主総会若しくは種類株主総会又は創立総会若しくは種類創立総会(・・・)の決議については、決議が存在しないことの確認を、訴えをもって請求することができる。



第2 事案の概要

1 Y1社設立から資本増加に至る経緯

Y1社は、夫婦であるAとBが持分150口(1口当たり1000円)ずつ計300口を出資し、設立された特例有限会社であり、Aは、設立時から、Y1社の代表取締役であったが、実質的な経営は、Bが行い、Bが資金調達等の経営全般を担っていた。

A及びBの子であるY2は、Y1社の代表取締役に就任した。

かかる就任の数日後、Y1社の資本の総額は、30万円から1530万円に増加しているところ(本件資本増加)、これによりY1社は、発行済株式1万5300株の会社となった。本件資本増加時の社員総会議事録には、増加した持分1万5000口のうち、Y2が9000口、X1が2000口、X2が2000口、Cが2000口引き受ける旨の記載がある。なお、本件資本増加に係る持分のうち、少なくともX1、X2及びC名義のものにつきBが出捐したものであることについては当事者間に争いはない。


2 本件資本増加の原資に関する事情

なお、本件資本増加に関して本件訴訟で明らかとなった事実は次のとおりである。

①本件資本増加の前々日、金融機関において、Xら及びC名義で各200万円、Y2名義で900万円の手形貸付が実行され(本件貸付金)、同日、口座番号が近接する同人ら名義の普通預金口座(本件各口座)がそれぞれ開設されたうえ、金融機関より本件貸付金が入金された。本件貸付金の入金の翌日、上記口座から本件貸付金が支払われ、上記口座はすべて解約された。

②Aを被相続人とする相続税に関する税務署の担当官は、「修正事項一覧」と題する書面(本件税務署書面)を作成しており、そこには「13、910、560→借入金の返済へ(増資分)」との記載がある。

③Y1社の顧問会計事務所の担当者が作成した「A氏相続税修正額」と題する書面(本件会計事務所書面)には、「13、910、560 BY1社増資借入返済」との記載がある。

④税務署に提出されたAを被相続人とする相続税に関する修正申告書(本件修正申告書)には、Aの相続人らにつき、相続開始前3年以内に贈与を受けた財産の明細として、本件会計事務所書面と同額が記載されている。


3 Aの遺産分割

その後、Aが死亡し、遺産分割協議の結果、BがAの保有していた持分を相続することとなった。

しばらくして、Xらは、Y1社の取締役又は代表取締役に就任した。


4 紛争に至る経緯

その後、Y1社は、本件資本増加時にXら及びC名義とされている持分についてはBが持分を取得し、その後BからY2に対しB名義の持分全部について贈与があり、他方で、本件資本増加時にY2名義とされた持分についてはそのままY2が取得したものであるとして、Y2を一人株主として扱い、株主総会(本件総会)を開催し、Xらを取締役から解任する決議(本件解任決議)を行い、Xらを取締役から解任した。

これを受けて、Xらは、本件資本増加が全額Bの出捐によるものであり、Y2名義の持分についても、Bが出捐し保有していたものであり、その後B持分については、BからX1、X2及びY2に対し1万5300口を平等に5100口ずつ贈与が行われたものであるから、それぞれ発行済株式総数の3分の1に当たる5100株の株式を有する株主であることの確認、並びに、本件解任決議が無効であることを前提として、X1がY1社の代表取締役であることの確認、及びX2がY1社の取締役であることの確認等を求め、本訴を提起した。

第3 判旨

1 Y2名義の持分の帰属

本判決では、まず本件資本増加により増加した1万5000口のうちY2名義の持分がB又はY2のいずれに帰属するものであるかが争われた。

この点に関して、本判決は、まず本件資本増加当時、①BがY1社の金銭管理や帳簿作成等を担当していたこと、②本件貸付が実行され、同日、口座番号が極めて近接した本件各口座が開設され本件各口座に本件貸付金が入金されたこと、③その翌日本件各貸付金が支払われ、本件各口座が解約されたこと、④その翌日に本件資本増加がされたこと、⑤本件税務署書面には、Aの財産から1391万0560円が増資分に係る借入金の返済に充てられた旨記載されていること、⑥本件会計事務所書面には1391万0560円が「BY1社増資分借入返済」である旨記載されていること、⑦本件修正申告書には、相続開始前3年以内に贈与を受けた財産の明細として、本件会計事務所書面に記載された金額と同額が記載されていることを指摘する。

そのうえで、本判決は、Bが、Xら、Y2及びC名義で本件各貸付金を金融機関から借入れ、その際に開設された本件各口座に本件貸付金が入金され、その翌日に本件各口座を解約し、本件貸付金をもって本件資本増加に係る出資全額を払込み、その後、Aの財産から1391万0560円を本件貸付金の返済に充て、同金額をAからの贈与として税務上の処理を行ったとの事実を認定した。

そして、かかる事実から、本件資本増加に係る出資の履行は、その全額がBの出捐によるものであると認定して、Xら及びC名義の持分のみならず、Y2名義の持分についてもBが保有していたものと判断した。

2 解任決議の存否について

本判決では、前記のとおり、本件資本増加に係る持分について全てBが保有していたものと認定した。

そして、Y1社における持分1万5300口について全てBが保有していたものとなると判断したうえ、その後BからXら及びY2に対してY1社持分5100口ずつ贈与された事実を認定した。

これらを前提に、本判決は、Bから贈与を受けた「Xらに対して本件総会の招集通知が発せられた事実を認めることはできないから、本件総会に際してはY1社の発行済株式総数(注:1万5300口)の3分の2に当たる株式を保有する株主(注:5100口×2=1万0100口)に対する招集通知がされていなかったこととなる。」と判示し、「本件総会の招集には重大な手続的瑕疵があるから、本件解任決議は、法的には不存在であるといわざるを得ない。」と判示した。


第4 実務上のポイント

1 はじめに

本判決は、名義株の株主権の帰属について、名義人ではなく、実質的な引受人に帰属することを前提として(実質説)、引受持分の原資の出捐者が誰であるかという点が争点となった事案であり、実質的引受人に関する主張立証を検討するうえで参考となる裁判例である。


2 出捐者の認定

出捐者の認定では、手形貸付に係る銀行口座の開設・入金・支払い・解約の状況、借入金返済に関して税務署書面・会計事務所書面の記載、相続税修正申告書の記載などの証拠に基づいて、金銭の流れが詳細に認定されたうえ、出捐者はBであると判断されている。この点に関して、金銭の流れを形式的に捉えると出捐者はBではなく、Aであると認定する余地もあるが、AとBが夫婦であり、Y1社の設立以来Bが実質的な経営を行ってきたこと、及び税務上もAからBへの贈与があったとの処理がなされているという事情から、本判決では、実質的には出捐者がBであるとの評価が下されていると指摘されている[1]


3 実質的な引受人の認定判断の方法

本判決では、出捐者がBであるという事実から、直ちに本件資本増加によって増加したY1社持分がBの名義株であることを認めている。

この点、名義株の株主権の所在について判示した最判昭和42年11月17日民集21巻9号2448頁は、「他人の承諾を得てその名義を用い株式を引き受けた場合においては、名義人すなわち名義貸与者ではなく、実質上の引受人すなわち名義借用者がその株主となる」と判示しており、出捐者が株主となるとは判示していない。前掲最判昭和42年11月17日の立場では、実質的な引受人が誰であるかが名義株の所在を決定する上での決め手となるものであって、実質的な引受人が誰であるかの分析は、実際に申込み・払込みをした者の意思又は関係当事者間の合意を探求する作業であり、ここでの認定では、経済的出捐をしていない名義貸与者が株主であるとされる場合もありうる[2]。現に、裁判例でも、名義借用者による出捐は、あくまで名義貸与者のために払込義務を履行したものであり、名義貸与者が株主であると認定したものもある(札幌地判平成9年11月6日判タ1011号240頁等)。

したがって、本判決は、出捐者であることのみから直ちに株主であると判断している点で、前掲最判昭和42年11月17日の立場とは異なる見解を採用した判決であるとみることが可能である。

なお、前掲最判昭和42年11月17日の立場に立って本件事案を分析すると、Y2がAとBの子であること、本件資本増加と同時期にY1社の代表取締役に就任していることなどの事情がある。そのため、Bは、Y2を後継者とするべくY1社の代表取締役及び過半数持分の名義人としたと解する余地があり、このことからBの意思としては、Y2を実質的な引受人とする意思を有していたとみる可能性もあり、判断の分かれ得る事案であったと考えられる。

今後同種の事案処理に当たる場合には、実質的な引受人の認定判断について重要となる出捐者について、本判決から主張立証のてがかりを見つけつつ、前掲札幌地判平成9年11月6日等のように、申込み・払込みを実際に行った者又は関係当事者の意思が重要であることに留意しながら、主張立証の構造を組み立てていく必要があると思われる。



[1] 高橋陽一「判批」重判平成27年度(ジュリ臨増1492号)93頁、94頁(2016)

[2] 神作裕之「判批」岩原紳作=神作裕之=藤田友敬編『会社法判例百選(第3版)』22、23頁(2016)

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