加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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会社法裁判例--遺留分減殺請求権の行使によって準共有状態となった株式について、準共有者の一部の者のみに対して売渡請求をすることを認めた事例--

遺留分減殺請求権の行使によって準共有状態となった株式について、準共有者の一部の者のみに対して売渡請求をすることを認めた事例

東京高判平成24年11月28日 資料版商事法務356号30頁(上告棄却、上告受理申立て棄却)

原審:東京地判平成24年9月10日判決 資料版商事法務356号34頁


第1 判決の概要

本件は、Y社が、会社法175条1項の規定に基づき、Xが相続によって取得し、他の相続人と準共有しているY社の株式について売渡しの請求をする旨の株主総会決議をしたことから、Xが、Y社に対し、同決議の内容は会社法及びY社の定款に違反すると主張して同決議の取消しを求めた事案である。

本件では、準共有者の1人に対して、株式売渡請求をすることができるか否かが争点となったところ、会社法上準共有者の一部の者に対して売渡請求をすることが禁止されていないことなどを理由に、Xの請求を認めなかった。

(参照条文)

会社法174条(相続人等に対する売渡しの請求に関する定款の定め)

株式会社は、相続その他の一般承継により当該株式会社の株式(譲渡制限株式に限る。)を取得した者に対し、当該株式を当該株式会社に売り渡すことを請求することができる旨を定款で定めることができる。

会社法175条(売渡しの請求の決定)

株式会社は、前条の規定による定款の定めがある場合において、次条第1項の規定による請求をしようとするときは、その都度、株主総会の決議によって、次に掲げる事項を定めなければならない。

一 次条第1項の規定による請求をする株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)

二 前号の株式を有する者の氏名又は名称

会社法176条(売渡しの請求)

1 株式会社は、前条第1項各号に掲げる事項を定めたときは。同項第2号の者に対し、同項第1号の株式を当該株式会社に売り渡すことを請求することができる。ただし、当該株式会社が相続その他の一般承継があったことを知った日から1年を経過したときは、この限りでない。



第2 事案の概要

Xは、Y社の株式17万8000株を有していたところ、夫であるAが死亡したことにより、同人が有していたY社の株式88万株(本件株式)を遺言によって取得した。

XとAの子であるBは、Xに対し、遺留分減殺請求を行った。

その後、Y社は、臨時株主総会を開催し、Xに対して同人が有する本件株式全部をY社に売り渡すことを請求する旨の決議(本件決議)を行った。

なお、Y社の株式は、すべて譲渡制限株式であり、Y社の定款9条2項には「相続や合併等の一般承継により株式を取得した者に対し、本会社は当該株式を本会社に売り渡すことを請求できるものとする。」との規定(本件規定)がある。

これを受けて、Xは、Y社に対し、本件規定によって売渡の請求をすることができる相手方は、Y社の株式を単独で有している者又はY社の株式を準共有している準共有者全員であり、本件規定上、Y社の株式を準共有している者の一部に対して売渡しの請求をすることは認められないと主張し、本件決議の取消しを求めて提訴した。


第3 判旨

本判決は、本件規定の文言上、準共有者の一部の者は含まれないと解すべき必然性はないと述べる。そのうえで、本判決は、本件規定が会社法174条の規定に基づくものであることに触れたうえで、他の株主にとって好ましくない一般承継人を会社から排除することを可能とするという売渡請求の制度趣旨からすると、常に相続人全員に対して売渡請求をする必然性がないこと、相続発生後に遺産分割協議等によって株式の準共有状態が解消された場合には、株式会社が相続人のうちの一部の者に対してのみ売渡しの請求をすることが可能とされていることとの均衡、売渡請求に1年の期間制限があることに言及して、会社法上準共有者の一部の者のみに売渡請求をすることは会社法上制限されないと判示し、Xのみに対して売渡請求をすることは本件規定に違反しない旨判断した。

また、控訴審では、Xから、①売渡請求をする場合には「株式の数」を定めなければならないが、準共有状態において持分割合が確定していない場合には「株式の数」のみならず持分割合を定めることができないこと、②売買価格の決定申立て(会177条2項)をしたとしても、「株式の数」も持分割合も定まっていない株式については、裁判所が売買価格を決定することは不可能であるとして、本件規定上、Xのみに対する売渡しの請求は認められないと解すべきであるとの補充主張が行われた。

かかる補充主張に対して、本判決は、持分割合が決定していない準共有者の一部の者に対して売渡請求をする場合の「株式の数」は、最終的に確定した持分の割合の限度で有効なものとして定めることができると解されることや、株式の売買価格の決定申立てでは、裁判所は1株当たりの価格を定めれば足り、これに最終的に確定した持分割合を乗ずることにより売買価格が確定するとして、Xの補充主張も排斥した。


第4 実務上のポイント

1 本判決の意義

本判決は、準共有株式に関して、準共有者の一部の者に対し売渡請求を行うことを認めたものとして重要な意義を有する。


2 売渡請求と「株式の数」

(1)遺産共有状態の株式の取得

会社法は、売渡請求に当たり、売渡請求を行う「株式の数」を定めなければならないと規定しているところ(会175条1項1号)、株式が遺産分割前の遺産共有の状態にある場合には、法定相続分による持分割合が明らかとなれば、「株式の数」を定めることが可能である。したがって、会社としては、「株式の数」として、持分割合に従った共有持分を定めて売渡請求を行うこととなる。売渡請求の結果、会社は、共有持分を取得することになり、当然には共有状態が解消されない。共同相続人の一部から遺産の共有持分を譲り受けた第三者が共有関係解消のために取るべき手続としては、遺産分割ではなく共有物分割であるとするのが最高裁の立場である(最判昭和50年11月7日民集29巻10号1525号)。

したがって、売渡請求の後は、会社は、他の準共有株主に対して共有物分割請求を行っていくこととなる。


(2)遺留分減殺請求後の準共有株式の取得

以上に対し、各準共有者の準共有持分が定まっていないケースがある。本判決の事案も、相続人の一人からの遺留分減殺請求によって準共有状態に至ったものであるところ、遺留分減殺請求は、遺留分を保全するのに必要な限度で認められているものであることから(民法1031条)、遺留分侵害額が確定されない限り、具体的に取得する持分割合は定まることがない。

本判決は、このような場合でも売渡請求権の行使を認めた。

ただし、本判決も、「株式の数」との関係について「持分割合が確定していない準共有者の一部の者に対して売渡しの請求をする場合の「株式の数」(注:会175条1項1号)は、最終的に確定した持分割合の限度で有効なものとして定めることができると解され」ると判示している点には注意が必要である。

以上の判示に照らすならば、実務上具体的な持分割合を定めることができない事案では、株主総会決議では、売渡請求の対象が準共有株式の一部に限られる旨を明示し、株主総会で定められた株式数が売渡請求に基づく取得株式数の上限を画するものであることを明らかにすることが望ましいと考えられる。

本判決が準共有者の一部の者に対する売渡請求を認めたことにより、例えば会社の支配的株主の相続人の一部の者について会社から排除することが可能であることが明確になった。

今後、会社の支配権争いが問題となっている事案等では、キャッシュアウトの一手段として、売渡請求の活用を積極的に検討することが有益である。

なお、平成30年7月に成立した民法改正により、遺留分減殺請求権は、遺留分侵害額に相当する金銭の支払請求権に代わり、遺留分減殺請求権(遺留分侵害額請求権)の行使により、準共有状態が生じることはなくなった。そのため、本判決において争点化した準共有者の一部の者に対する売渡請求の可否という問題は、上記民法改正の施行後においては、少なくとも遺留分減殺請求権(遺留分侵害額請求権)の行使によっては生じないことを付記しておく。

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