加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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会社法裁判例―権利行使者の指定・通知がないまま議決権が行使された場合において、当該議決権行使が民法の共有の規定に従ったものではないことを理由に、株主総会決議取消しの訴えを認容した例―

権利行使者の指定・通知がないまま議決権が行使された場合において、当該議決権行使が民法の共有の規定に従ったものではないことを理由に、株主総会決議取消しの訴えを認容した例

最判平成27年2月19日 民集69巻1号25頁

原審:東京高判平成24年11月28日 金判1464号36頁

原々審:横浜地裁川崎支判平成24年6月22日 金判1464号37頁



第1 判決の概要

本判決は、XがY社に対し会社法106条本文の規定に基づく指定・通知を欠いたまま行われたことなどから、決議方法の法令違反があるとして、株主総会決議の取消しを求めた事案である。

本件では、会社法106条本文の規定に基づく指定・通知を欠いたままされた議決権行使が、同条但し書のY社の同意により適法なものとなるか否かが争点となったところ、本判決は、民法の共有に従った議決権行使がなされておらず、Y社が同意しても適法となるものではないとして、Xの請求を認めた。

(参照条文)

会社法106条

株式が2以上の者の共有に属するときは、共有者は、当該株式についての権利を行使する者1人を定め、株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができない。ただし、株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない。


第2 事案の概要

Y社は、青果物の販売を業とする発行済株式3000株の特例有限会社である。

Xは、Y社の株式を2000株保有していたAの妹であり、A死亡後、同じくAの妹であるBとともに、上記2000株の株式を持分2分の1ずつ準共有することとなった(本件共有株式)。

その後、Y社は、X宛てに発せられた臨時株主総会招集通知を送付したが、Xは、臨時株主総会には都合により出席できない旨、及び臨時株主総会を開催しても無効である旨伝えた。

Y社は、上記招集通知に記載のとおり、臨時株主総会を開催し、①Cを取締役に選任する旨、②Cを代表取締役に選任する旨、③定款を変更して、本店を移転する旨の決議(本件決議)を行った。なお、本件決議では、B作成の委任状に基づき、本件共有株式の議決権が行使されている。

これを受けて、Xは、Y社に対し、本件共有株式について会社法106条本文の規定に基づく権利行使者の指定・通知を欠いたまま議決権が行使されているなどとして、決議方法の法令違反があると主張し、本件決議の取消しを求めて提訴した。

原々審は、Y社が本件共有株式についてBが議決権を行使することに同意していることを認定し、会社法106条但し書により、議決権の行使自体に瑕疵はないとして、Xの請求を棄却した。

原審は、会社法106条但し書の規定は、準共有状態にある株式の準共有者間において議決権の行使に関する協議が行われ、意思統一が図られている場合にのみ、権利行使者の指定・通知を欠いていても、会社の同意を要件として、権利行使を認めたものと解することが相当であると判示して、原判決を取消し、本件決議の取消しを認めた。

これを受けて、Y社が上告受理申立てを行った。



第3 判旨

1 会社法106条の意義

本判決は、会社法106条本文について、「共有に属する株式の権利の行使の方法について、民法の共有に関する規定に対する「特別の定め」(同法264条ただし書)を設けたものと解される」と判示し、他方会社法106条但し書については、「株式会社が当該同意をした場合には、共有に属する株式についての権利の行使の方法に関する特別の定めである同条本文の規定の適用が排除されることを定めたものと解される」と判示した。



2 権利行使者の指定・通知を欠く場合の議決権行使の方法について

以上の会社法106条の解釈から、共有に属する株式について会社法106条本文の規定に基づく権利行使者の指定・通知を欠いたまま当該株式について権利が行使された場合における議決権行使について、「当該権利の行使が民法の共有に関する規定に従ったものでないときは、株式会社が同条ただし書の同意をしても、当該権利の行使は、違法となるものではないと解するのが相当である」と判示した。



3 民法の共有に関する規定に従った議決権行使とは

いかなる場合に民法の共有に関する規定に従った議決権行使といえるかにつき、本判決は、「共有に属する株式についての議決権の行使は、当該議決権の行使をもって直ちに株式を処分し、又は株式の内容を変更することになるなど特段の事情のない限り、株式の管理に関する行為として、民法252条本文により、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決せられるものと解するのが相当である」と判示した。



第4 実務上のポイント

1 はじめに

本判決は、共有株式に関する議決権行使の方法について、会社法106条の規定から、権利の行使が準共有株式の変更又は処分に該当する場合には準共有者の全員の同意を必要とし(民法251条)、管理行為に該当する場合には準共有者の持分の価格に従いその過半数によって決し(民法252条本文)、保存行為に該当する場合には各準共有者が単独ですることができる(同条但し書)ことを初めて明らかにした最高裁判決として重要な意義を有する。



2 権利行使者の指定・通知を欠く場合における扱い

また、民法の「特別の定め」(同条264条但し書)に該当することの帰結として、会社法106条本文に規定されるように、権利行使者の指定・通知がない場合には、準共有株式について権利行使を行うことができないことも導かれる。

そして、会社法106条但し書は、会社の同意がある場合には、同条本文の適用を排除する旨定めているにすぎず、民法の共有に関する規定を排除することまで定めているものではないから、結局のところ、権利行使者の指定・通知を欠く場合における準共有株式の議決権の行使については、会社の同意があり、かつその権利の行使が民法の共有の規定に関する規定に従ったものである場合に限り適法となる。

したがって、会社の株式の中に準共有株式がある場合において、当該株式に関し権利行使がなされたときには、その権利行使が共有規定に従っている場合を除き、権利行使者の指定・通知を欠くことを理由に、議決権行使を認めない判断をするべきである。



3 準共有株式の議決権行使の決定方法

本判決からすると、株式会社の同意がある場合に当該権利の行使が適用であるというためには、問題となる権利行使が①保存行為、②処分又は変更行為、③管理行為のいずれの場合に該当するのかを判断し、それぞれの場合における所定の要件を満たすのかによって決せられることになる。

この点について、本判決は、議決権の行使をもって直ちに株式を処分し、又は株式の内容を変更することになるなど特段の事情がない限り、③管理行為として民法252条本文により、持分の過半数で決せられるものと述べる。

議決権は、株主が株主総会に出席してその決議に加わる権利であるから、本来、その行使自体が直接、株式の処分や株式の内容の変更をもたらすものではない。また、議決権の行使が株式の保存行為となる場合も通常は想定しがたい。したがって、基本的に議決権行使は、管理行為となると考えられると思われる。

もっとも、例えば、全部取得条項付株式の取得を決定する議案(会171条1項、309条2項3号)、会社の発行する全部の株式を譲渡制限株式とする定款変更の議案(会107条1項1号、309条3項1号)等、議案の内容や準共有株式の数等によっては、直ちに準共有株式の処分や変更をもたらすものもあり、常に持分の過半数を有する者のみの意思で決定することができるとするのは妥当でないと考えられる。

このような観点から、本判決は、準共有株式の議決権の行使は管理行為に当たるとするのが原則としつつも、議案の内容、準共有株式の数等によっては、当該準共有株式についての議決権の行使が、株式の処分や株式の内容の変更に直結する行為といえる場合もありうることを考慮して、特段の事情がある場合の例外を設けたものと解される[1]

そのため、議案の内容、準共有株式の数等に鑑み、特段の事情があるとされる場合には、議決権行使の場合であっても処分行為又は変更行為に該当するとして、準共有者間における全員の同意が必要となる。



4 協議の要否

さらに、権利行使に当たり、準共有者間において協議を要するかという問題についても議論がある。裁判例では、共有者間の協議や協議に参加する機会を重視するものがある[2]

もっとも、協議の有無という存否を確定することが困難な要件をもって権利行使の適法性の要件とすることが妥当でないとの見解[3]や結論が変わることがおよそ考えられない場合にまで協議の実施を求めることの必要性に疑問を呈する見解[4]もあり、今後の議論が待たれる。



5 本判決以降の実務上の対応

以上で述べたように、権利行使者の指定・通知を欠いたまま準共有者による議決権行使が行われた場合、準共有株主の間で民法の共有に従った手続が行われているかという会社側において関知することが容易でない事情により、権利行使が不適法とされる場合がある。ゆえに、会社側としては権利行使者の指定・通知を求め、指定・通知がない限りは権利行使を認めないという対応を行っておく方が無難である。

また、権利行使者の指定・通知を欠くにも拘わらず、会社側としてやむを得ず共有株式の権利行使に同意を行わざるを得ない場合にあっては、後に決議が取り消されるリスクを可及的に防止するため、準共有株式の権利行使に関し、準共有者間において協議が行われ、持分の過半数の同意(前記特段の事情に該当する場合にあっては、全員の同意。)を経たことがわかる資料、例えば共有者全員の署名捺印のある各共有者の賛成、反対の意見がわかる協議書等の資料の提出を求めることが望ましいと考えられる。



[1] 冨上智子『判解』法曹時報69巻5号185頁、197頁

[2] 例えば、大阪高判平成20年11月28日金判1345号38頁

[3] 冨上・前掲注1)205頁

[4] 大阪地方裁判所判事井澤大介「準共有株式の権利行使をめぐる諸問題―最判平成27年2月19日民集69巻1号25頁の検討を中心として―」判例タイムズ1443号5頁、21頁

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