加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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会社法裁判例―株主総会において、株主の事前の届出印と持参書類の印影の同一性の不一致や議決権行使を委任された代理人が株主でないこと等を理由に会社が株主の出席を拒絶した事案において、決議の取消し及び将来の株主総会における妨害予防が認められた事例

株主総会において、株主の事前の届出印と持参書類の印影の同一性の不一致や議決権行使を委任された代理人が株主でないこと等を理由に会社が株主の出席を拒絶した事案において、決議の取消し及び将来の株主総会における妨害予防が認められた事例

札幌高判令和元年7月12日 金融・商事判例1598号30頁

(原審:札幌地判平成31年1月31日 判タ1467号253頁)

第1 判決の概要

本件は、Y社の株主であるXらが、Y社代表者により定時株主総会(本件総会)への出席を拒絶され、議決権行使を妨げられたことを理由に、同総会の決議方法が法令に違反し、著しく不公正であるとして、決議の取消しを求めるとともに、今後も議決権行使の拒絶が予測されるとして、株主権に基づく妨害予防請求を行った事案である。原審はXらの請求をいずれも認容し、本判決も同様の結論を判示し控訴を棄却した。

(参照条文)

第831条(株主総会等の決議の取消しの訴え)

1 次の各号に掲げる場合には、株主等・・・は、株主総会等の決議の日から三箇月以内に、訴えをもって当該決議の取消しを請求することができる。

一 株主総会等の招集の手続又は決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なとき。

第2 事案の概要

X1社とX2社は、Y社の株主である。

Y社は、Xらを含む株主に対し、Y社本社において定時株主総会(本件総会)を開催する旨の株主総会招集通知並びに議決権行使書と出席票が一体となった書面を送付した。なお、当該出席票には捺印欄がなかった[1]

X1代表者から本件総会の議決権行使の委任を受けた代理人であるA弁護士は、本件総会当日、Y社本社に赴いた。

A弁護士は、本件総会の受付の際、X2社に送付された出席票、X2社の当時の代表印が押印された委任状、同社の商業登記簿謄本及び同社の印鑑証明書を持参し、Y社代表者に示した。しかし、Y社代表者は、当時X2社の代表印としてY社に届け出られていた印影と委任状の印影との不一致を理由に、A弁護士の本件総会への出席を認めなかった。

また、X1社代表者は、本件総会の受付の際、X1社の当時の代表印が押印された議決権行使書兼出席票を持参し、Y社代表者に示した。しかし、Y社代表者は、当時X1の代表印としてY社に届け出られていた印影と、議決権行使書兼出席票に押印された印影との不一致を理由に、X1社代表者の本件総会への出席を認めなかった。

なお、受付の際、Y社代表者は、Xらの印影の不一致を問題にする発言をしていたが、A弁護士がX2社の議決権を代理行使できる資格を有さないといった発言をしなかった。

本件総会においては、Y社の計算書類等の承認決議及び役員の選任決議がなされた(本件各決議)。

Y社の定款には、「株主...又はそれらの法定代理人はその氏名住所及び印鑑を当会社に届け出るものとする。その変更があったときも同様とする。」、「株主は当会社の議決権を有する出席株主1名を代理人として議決権を行使することができる。この場合に株主又は代理人は、株主総会ごとに代理権を証明する書面を当会社に提出しなければならない。」との各規定がある。

X1社とY社の間では、本件総会より前から株主権の存否を巡る争いがあり、その際の訴訟等を通じて、Y社代表者は、X1社代表者及びA弁護士と面識があった。

Y社は、本件総会より前にXらが書面による議決権行使をした際には、本件総会の受付の際にA弁護士及びX1代表者が提示した印影が顕出された議決権行使書兼出席票を有効なものとして取り扱っていた。

このような状況において、①Xらが、Xらの出席を拒絶してなされた本件各決議は、決議方法が法令に違反し、著しく不公正であるとして、会社法831条1項1号に基づき本件各決議の取消しを求めるとともに、②Y社による株主総会へのXらの出席拒絶が今後も予測されるとして、Xらが、株主権による妨害予防請求権に基づき、その妨害禁止を求めた。原審がXらの請求を認容し、Y社が控訴したが、控訴審である本判決もY社の控訴を棄却した。

第3 判旨

1 本件各決議の瑕疵について

株主の資格審査

本判決は、株主総会の受付においては、受付に出頭した者が株主であることを確認する必要があるが、会社が送付した議決権行使書等を提示した者を株主として入場させる取扱いが比較的多いとされている。」と述べた上、「出頭者と株主との同一性確認の方法が法定されているわけではなく、議決権行使書等による確認の方法は飽くまで事務の効率化の観点からの1つの手段にすぎず、株主権の重要性に鑑みれば、議決権行使書の提示以外の方法により株主本人であることを立証したにもかかわらず、株主総会への入場を拒絶した場合には、不当な出席の拒絶になり得るというべきである。」と判示した。

そして、本件でY社代表者は、面識あるX1社代表者が本件総会において議決権を行使し得る立場にあることを認識していたということが明らかで、書面による議決権行使では問題視していない印影の不一致を理由にX1代表者の株主総会への入場を拒絶したことは、決議方法の法令(会社法308条1項)違反とした。

 代理人資格の制限

また本判決は、定款において株主の代理人を株主に限定している点について、「株主総会が株主以外の第三者により攪乱されるのを防止し、株式会社の利益を保護しようとする趣旨に出たものと認められ、合理的な理由による相当程度の制限として有効であると考えられる」として最判昭和43年11月1日民集22巻12号2402頁を参照した上、Y社代表者はA弁護士と面識があり、同人が総会を攪乱するおそれがないことを容易に判断できたとし、「議決権行使の重要性に鑑みると、本件のように代理人が弁護士である等株主以外の第三者により攪乱されるおそれが全くないような場合であって、株主総会入場の際にそれが容易に判断できるときであれば、株式会社の負担も大きくなく、株主ではない代理人による議決権行使を許さない理由はない。」と判示した。

その上で、印影の不一致を理由にA弁護士の入場を拒絶したことは決議方法の法令(会社法310条1項)違反とした。

2 妨害予防請求について

本判決は、Y社が上記のとおりX1代表者やA弁護士の代理人権限を認識していたにもかかわらず、必要性のない変更届の提出や、届出印と出席票等の印影の同一性、その他変更届の遅延理由書等の提出を強硬に要求していた等の対応に照らせば、今後Xらが有効な議決権行使書を提出した場合でも、Xらの議決権行使を妨げる高度の蓋然性が存在すると判示し、株主権による妨害予防請求権に基づきXらの妨害予防請求を認容した[2]

第4 実務上のポイント

1 株主資格の審査について

株主総会の出席株主の資格審査については、法に明文規定はなく、実務上、議決権行使用紙等を持参させることにより受付で資格審査を行うことが一般的である[3]。また、本件のように、事前の届出印との印影の同一性を確認するケースもあると思われる(ただし本件は、出席票に捺印欄は存在しなかった事案である。)。

しかし、これらの確認方法は、事務効率の観点から合理的な範囲で肯定されるものであるため、他の方法による確認が否定されるべきではなく、株主資格が明らかであるにもかかわらず入場を拒絶する場合には、本件のように決議方法の法令違反ないし著しく不公正として取消事由になるものと解される。

本判決は、過去にY社はXらの議決権行使を認めており、Xらが株主であることはY社にとって明らかな事案であったことを前提に、印影の同一性を理由に出席を拒否することが取消事由に当たると判断したものである。

本件では、X1社とY社はかねてから紛争状態にあったとの経緯もあるが、株主総会を開催する会社側としても、不当ないし不合理な理由により株主の出席を拒絶することには慎重になる必要がある。

2 議決権行使の代理人の資格制限について

議決権の代理行使は会社法310条1項により認められているが、実務上多くの会社においては、定款によって代理人資格が株主に限定されている。

このような定款の規定につき、判例は、株主総会が株主以外の第三者により攪乱されることを防止し、会社の利益を保護する趣旨と解した上(最判昭和43年11月1日民集22巻12号2402頁)、法人の従業員や職員の議決権行使も肯定している(最判昭和51年12月24日民集30巻11号1076頁)。

本判決も、上記趣旨を踏まえ、具体的事案において定款の規定の効力が及ぶか否かを判断した一事例としての意義を有するものである。また、議決権行使を委任された者が非株主の弁護士である事案において、議決権の代理行使を認めた事例は少ないところ(肯定例として、神戸地裁尼崎支判平成12年3月28日判タ1028号288頁)、この点に関する肯定事例を追加するものである。

ただし、本件は、Y社が非上場企業で株主数が上場企業に比して少ないと思われる事案において(事務効率の観点から例外を認めないという要請が減退すると思われる。)、Y社代表者が、A弁護士と過去の訴訟等で面識があった等の特殊な事情もあることには留意する必要がある。

3 妨害予防請求において

また、本判決は、株主権に基づく妨害予防請求として、本案訴訟において、今後の株主総会において一定の理由によりXらの株主としての入場を拒んではならない旨を認容した判決という点でも、比較的珍しいものである。

株主総会の事前に株主やその代理人の入場が拒絶される蓋然性が高いことが判明している場合には、仮処分申立ても考えられるところであるが、それらの場合も含め、判決主文の記載方法の一例としても、本判決は参考となるものである。



[1] もっとも、X1社は代表印の押印を行ったことは後述のとおりである。

[2] X1に関する主文は、「Y社は、X1が有するY社株式3万8000株について、X1が株主総会において議決権行使書を提示した場合には、提示書類の印影とY社に届出されている印影に不一致があること、Y社定款13条に基づく変更届出が未提出であること、変更届遅延理由書が未提出であることを理由として、株主としての入場を拒否してはならない。」というものである。

[3] 中村直人編著『株主総会ハンドブック〔第5版〕』(商事法務・2023)416頁

弁護士 佐野 千誉

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