加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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「会社内部紛争を防止するための非上場会社の株主管理・株主対策」種類株式2

【目次】

 1 種類株式とは

 2 株主の同意に基づく無議決権株式の利用

➡3 全部取得条項付種類株式を利用した権利内容が異なる株式への変更

 4 拒否権付種類株式や役員選任権付種類株式の利用

 5 取得条項付種類株式の利用

 

3 全部取得条項付種類株式を利用した権利内容が異なる株式への変更

Ⅰ 全部取得条項付種類株式とは

会社法は、会社が株主総会特別決議によって特定の種類株式をすべて取得することを認めています(会社法108条1項7号)。この株式を全部取得条項付種類株式といいます。

会社が全部取得条項付種類株式を取得する場合、その取得対価は金銭に限らず、当該会社が発行する普通株式、他の種類株式、社債、新株予約権等を利用できます。

Ⅱ 全部取得条項付種類株式の利用方法

全部取得条項付種類株式を利用すれば、取得対価として無議決権株式を交付することによって、全株主の同意なしに、特定の株主に議決権を集中させることが可能です

例えば、発行済株式の全てが普通株式である会社において、後継者株主のみに議決権を与えたい場合、①発行済の普通株式全部を取得対価を無議決権株式とする全部取得条項付種類株式に変更する旨の定款変更を行い、②後継者株主に対し、新たに普通株式を第三者割当ての方法により発行した上で、③株主総会の決議により全部取得条項付種類株式を取得することにより、後継者株主のみが議決権を有する状態にすることができます。

Ⅲ 議決権を集中させるために全部取得条項付種類株式を利用する意義

全部取得条項付株式を利用すれば、後継者株主に議決権を集中させる場合にも、無議決権株式の回で解説した方法と同様、後継者株主への株式譲渡を伴わないため、後継者株主に株式買取りのための資力は必要ありません。この点、当該特定株主は、新たに発行するための普通株式を引き受けるための出資が必要ですが、発行する株式数を少なくすることで、その負担を軽減できます。

また、定款変更、第三者割当てによる新株の発行、全部取得条項付種類株式の取得はいずれも株主総会の特別決議(出席議決権の3分の2以上の賛成)により行うことができるため、株主全員の同意がなくても実現可能な点で大きなメリットがあります。

Ⅳ 全部取得条項付種類株式を利用して、議決権を集中させるための手続

全株式譲渡制限会社において、全部取得条項付種類株式を利用して、議決権を集中させる場合、手順の概略は以下のとおりです。

 ①  本店での書面等の備置き(会社法171条の2第1項)

 ②  株主に対する全部取得条項付種類株式への定款変更する旨の通知・公告(会社法116条3項、4項)

 ③-1 無議決権株式導入のための定款変更を行う株主総会特別決議

 ③-2 普通株式を全部取得条項付種類株式に変更するための株主総会特別決議及び当該普通株式の株主により構成される種類株式総会の特別決議

 ③-3 全部取得条項が付されていない普通株式発行のための定款変更を行う株主総会特別決議及び全部取得条項が付された普通株式の株主により構成される種類株式総会の特別決議

 ③-4 第三者割当てにより普通株式(全部取得条項付でない)を発行するための株主総会特別決議(会社法309条2項5号、199条1項、2項)

 ③-5 全部取得条項付株式を取得するための株主総会特別決議(会社法309条2項3号、171条1項)

 ④-1 株主に対する全部取得条項付種類株式の全部を取得する旨の通知・公告(会社法172条2項3項)

 ④-2 取得日(株券提出日)までに株券を提出しなければならない旨の公告及び各株主への格別の通知(会社法219条1項3号、171条1項)

 ⑤ 本店での書面の事後備置き(会社法171条の2項1号)

Ⅴ 注意点

(1)株式買取請求権の行使、または取得価格決定の申立てがなされる可能性

特定の株式を全部取得条項付種類株式に変更する定款変更を行う場合、当該定款変更に反対の株主には、株式買取請求権が認められます(会社法116条1項2号)。株式買取請求権が行使された場合、会社と反対株主との間において買取価格についての協議が調わなければ、会社または反対株主は、裁判所に対して、価格決定の申立てができる(会社法117条2項)ため、買取価格を巡る紛争が生じる可能性があります。

また、全部取得条項付種類株式の取得に反対する株主についても、当該種類株式の取得日の20日前から取得日の前日までの間に、裁判所に対して全部取得に係る株式の取得価格決定の申立てをすることができます(会社法172条1項)。会社の業績、経営状態によっては価格が高額となることもありますが、事前に裁判所が決定する価格を専門家に依頼して予想するべきでしょう。

(2)全部取得条項付種類株式の取得に対する説明義務違反を理由とした差止請求の危険性

取締役には、株主総会において、全部取得条項付種類株式の全てを取得する理由を説明する義務があります。説明義務を果たしていない場合、株式取得の手続に瑕疵があるとして、取得の差止請求(会社法171条の3)がなされるおそれがあります

 

(3)著しく不当な決議該当性を理由とする決議取消請求や差止請求の可能性

全部取得条項付種類を発行する定款変更決議やその取得決議について、少数株主の排除を目的とすることを理由に「特別利害関係人の議決権行使による著しく不当な決議」に該当するとして、株主総会決議の取消訴訟が提起される可能性があります。

裁判実務上は、他に少数株主に交付される予定の金員が対象会社の株式の公正な価格に比して著しく低廉であるとの事情等がない限りは、会社側が勝訴する可能性が高いと思料されますが、無用な紛争を避けるためには、取得対価として交付する無議決権株式については配当優先株式としての性質を併有させる等、少数株主への配慮を検討すべきです。



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