加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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遺言の意義、効力と種類

第1 はじめに

 相続を巡ってトラブルに発展することが多々あることから「相続」のことを「争族」と表現することがあります。争族を回避するための方策の一つとして、遺言があります。本稿では、遺言の意義と効力、種類について説明いたします。

第2 遺言の意義

 遺言とは、「遺言を行った人が亡くなった時に、相続等に関し、一定の効果を発生させることを目的とする行為」のことです。

被相続人の生前に話合いがまとまっていたとしても、相続人が被相続人の意向に逆らえず、表向き納得したような態度をとっているだけの場合があります。また、相続が開始されたとたんに気持ちが変わってしまい、もっと財産を相続したいと考える相続人もいるかもしれません。生前に行った話合いの結果を無駄にせず、そこで決めた内容をそのまま相続に反映させるためには、話合いの結果を遺言として残しておく必要があります。

 また、被相続人の生前から相続人同士の仲が悪く、そもそも話合いさえできないことも世の中には少なくないでしょう。このような場合には、話合いによって争族を回避することは困難です。

 遺言は、このように被相続人の生前に相続人間で話合いを行うことが困難な場合であっても、争続を回避するための有効な手段となります。遺言は、被相続人の生前に被相続人相続人間で話し合いができる場合であっても、話し合いができない場合であっても、争続回避の手段として非常に有効です。そのため、是非とも遺言を残しておくべきですが、簡単そうにみえて意外に難しいのが遺言です。せっかく遺言を残したにもかかわらず、その効力が認められないという事態を避けるために、遺言を作成する際には、弁護士等の専門家にご相談することをお勧め致します。

第3 遺言の効力

 では、遺言にはどのような効力があるのでしょうか。

 遺言は、遺言者の生前に作成するものですが、その効力は、遺言者が死亡した時に生じます(民法985条1項)。

 また、遺言が有効に成立している場合、遺言について利害関係がある人であっても、遺言の内容について、争うことができません。たとえば、父親が長男と次男について、財産を半分ずつ相続させるという遺言を残していたとします。この例で、次男が、生前父親の面倒を見ていた場合、自分の方が多く財産を相続すべきだと言いたいのが人情だと思います。しかし、父親が上記のような内容の遺言を残している以上、次男は自分が父親の面倒を見ていたことを理由に、遺言の内容を争うことはできません。

 さらに、遺言の効力が発生するために、特別な措置をとる必要もありません。もっとも、遺言によって定めることができる事項の中には、相続人廃除のように、たんに遺言に定めるだけではその効力が発生せず、さらに特別の手続(相続人廃除の場合には、家庭裁判所に対する廃除の請求と家庭裁判所による廃除の審判)が必要となるものもあります。

 どういう事項が、特別の手続をとることが要求されることになるのかや、死亡後にどのような手続をとれば良いのかを知っている方は少ないと思いますので、一度弁護士等の専門家にご相談した上で、遺言執行者として弁護士等の専門家を指定することをお勧めします。

 遺言執行者については遺言執行者の必要性とその役割、選任方法をご覧ください。

第4 遺言の種類

1 自筆証書遺言

 自筆証書による遺言とは、自分自身で遺言書を作成する方法で遺言を行うことです。

 自筆証書による遺言は、以下のような方法で行う必要があります。まず、①遺言者は、遺言の全文を自書する必要があります。その  ため、パソコンを使用したり、ワープロによって作成した遺言書については、遺言としての効力が認められません。ただし、平成30年民法改正によって、自筆証書遺言の方式が緩和され、自筆証書遺言と一体のものとして相続財産の全部または一部の目録を添付する場合には、その目録については自署である必要がなくなりました(民法968条2項前段)。本条項は平成31年1月13日に施行されています。

 次に、②遺言書を作成した日付と氏名について遺言書に自書する必要があります。

 最後に、③遺言書に、自分の印鑑を押すことで遺言が完成です。

 この①から③の要件のうち、どれか一つでも欠けてしまうと、せっかく遺言書を作成しても、その効力が認められないことになりますので、注意して下さい。

2 公正証書遺言

 公正証書による遺言とは、公証人に遺言を伝え、これを公正証書として作成してもらう方法で遺言を行うものです。公正証書による遺言は、以下のような方法で行う必要があります。

 まず、①二人以上の証人の立ち会いが必要となります。

 次に、②遺言者から遺言の内容を知らされた公証人は、その内容を筆記し、これを遺言を行う人や証人に読み聞かせ、または見させる必要があります。

 その上で、③遺言者と証人が、公証人が行った筆記が正確であることを承認し、それぞれこれに署名し、印鑑を押します。

 最後に、④公証人が、筆記によって作成した証書が、以上のような方法で作成されたものであることを記載して、これに署名し、印鑑を押すことで、遺言が完成です。

3 秘密証書遺言

 秘密証書による遺言とは、遺言者が作った遺言書を封書にして、これを公証人に提出する方法で遺言を行うものです。秘密証書による遺言は、以下のような方法で行う必要があります。

 まず、①遺言者は、遺言書を作成して、これに署名し、印鑑を押します。なお、遺言書の作成は自筆で行わなくても大丈夫ですので、パソコンやワープロで作成することもできます。

 次に、②署名押印した遺言書を封筒に入れ、遺言書に押した印鑑と同じ印鑑で封印します。

 そして、③公証人一人と証人二人以上の面前で、封書を提出し、これが自分の遺言書であることならびにその筆者の氏名と住所を述べることとなります(遺言者の申述)。

 最後に、④公証人が、その証書を提出した日付と遺言者の申述を封書に記載した後に、遺言者と証人がともにこれに署名し、印鑑を押すことで、完成です。

 なお、この秘密証書による遺言についても、①から④の要件のうちの一つでも欠いてしまうと秘密証書による遺言としての効力が認められないことになりますが、自筆証書による遺言としての要件を満たしている場合には、自筆証書による遺言としての効力が認められることになります(民法971条)。

4 三つの遺言方式の比較

 以上のように、遺言を行う方式として三つの方式があります。しかし、どの方式を選べば良いかわからないと思われる方も多いと思います。そこで、三つの方式のメリット、デメリットについて見ていくことにしましょう。

⑴ 自筆証書による遺言のメリット、デメリット

 まず、自筆証書による遺言の場合、他の方式による遺言に比べて簡単に作成することができます。

しかし、遺言書の保管に十分な配慮を行っていないと、遺言者の知らないうちに、相続人等によって遺言書が破棄、あるいは改変されてしまう危険があります。さらに、被相続人の遺言能力の有無をめぐって紛争が生じる危険もあります。それだけでなく、記載事項についての理解が不十分であったために、形式不備や内容不明瞭を理由に遺言の効力が認められなくなってしまう危険もあります。

 加えて、自筆証書による遺言の場合、公正証書による遺言とは異なり、遺言の執行に家庭裁判所の検認が必要となるのが原則である(民法1004条1項)ため、この点で手続が面倒となります。

 もっとも、平成30年民法改正によって法務局における遺言書の保管等に関する法律(以下、「法」といいます。)が制定され、自筆証書遺言の保管制度が設立されました。制度の施行期日は令和2年7月10日です。制度が施行されるまでは、遺言書の保管の申請ができませんので注意してください。

 同制度の下では、遺言者は、自己の住所地、本籍地、又は所有する土地建物の所在地を管轄する遺言書保管所(法務局)に対し、自筆証書遺言の保管を申請することができるようになります。この際、遺言者本人が遺言書保管所に出頭することが求められています(法4条6項)。申請を受けた法務局の遺言書保管官は,遺言書が自筆証書遺言の方式を具備しているかどうかについて審査するものとされており(法務局における遺言書の保管等に関する政令2条2号、法1条、民法968条)、明らかな形式的不備があった場合には、申請の際に補正を促されることとなります。

 申請が受理されれば、遺言書保管官が、遺言書保管所の施設内において遺言書の原本を保管するとともに,その画像情報等の遺言書に係る情報を管理することとなります(法第6条第1項,第7条第1項)。したがって、遺言書の現状や保管状況について確認する必要がなくなるため、遺言書保管所に保管されている遺言書については、検認手続きを経なくてよいものとされています(法11条)。

 このように、遺言書保管制度を利用すれば、遺言書の形式的不備について審査を受けることができます。また、遺言書が相続人に破棄、隠匿される可能性はなくなります。そして、検認手続きを経る必要もありません。この制度は、従来の自筆証書遺言のデメリットを補うものといえるでしょう。

 しかし、この制度は、遺言が有効であることを保証するものではありません。特に、法務局における遺言書の保管等に関する政令2条の申請却下事由の中に、遺言者に遺言能力がないことは挙げられていないことから、遺言書保管の申請の際に、遺言者の遺言能力について十分なチェックがされない可能性があります。(申請の際に遺言者本人の出頭が求められている(法4条6項)ことから、遺言者に明らかに遺言能力がない場合に申請が受理されない運用がされることは考えられます。)。

 また、遺言書の内容について十分な審査がされるかどうかについても疑義があります。

 遺言書の有効性に争いが生じる可能性があるというデメリットは、制度の施行後もなお残存するといえます。

⑵ 公正証書による遺言のメリット、デメリット

 公正証書による遺言の場合、証人の立会いが要求されているため、遺言の存在が知られることなく、遺産分割が行われるという危険は低いです。また、遺言の内容を記載した公正証書が、破棄、あるいは改変されるおそれもありません。さらに、遺言能力の有無をめぐって紛争となる危険も低いです。それだけでなく、公証人が作成しますので、形式の不備や内容不明瞭を理由に遺言が無効となることもありません。

 加えて、公正証書による遺言の場合、遺言の執行のために家庭裁判所の検認はいりませんので(民法1004条2項)、この点における手続きは簡単です。

 ただし、公正証書による遺言の作成には、手数料がかかります。

 また、基本的には公証役場に出向いて作成する必要があり、この点で手間がかかります。ただ、病気や施設で公証役場まで行くのが困難な場合には、公証人に病院や施設に来てもらって作成することも可能です。この場合には別途出張費用がかかります。

⑶ 秘密証書による遺言のメリット、デメリット

 秘密証書による遺言の場合、公正証書による遺言と同様、遺言書が破棄されたり、改変されたりすることを防ぐことができます。また、パソコンやワープロを使って作成することができる点もメリットといえるでしょう

 一方で、自筆証書による遺言の場合同様、記載事項についての理解が不十分であったために、形式不備や内容不明瞭を理由に遺言の効力が認められなくなってしまう危険があります。

 また、遺言の執行には、家庭裁判所の検認が必要とされていますので(民法1004条1項)、この点で公正証書による遺言よりも手続が面倒となります。

 

第5 まとめ

 遺言書保管制度を利用すれば、相続人によって遺言書が破棄、隠匿される可能性はなくなり、検認の手続きをとる面倒さからも解放されると見込まれます。しかし、遺言能力を巡ってトラブルが生じたり、遺言の内容不明瞭によって遺言が無効となることを避けるために、多少費用がかかったとしても、公証人が作成する公正証書遺言の方式によることをおすすめします

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