加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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新型コロナウイルス感染症対策とイベント中止②

はじめに

 本稿では,前稿に引き続き,新型コロナウイルス感染症の影響によるイベントの中止,延期等により,生じうる法的問題及びその対応についてお話しします。

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イベント主催者がイベントを中止した際に,イベント会場の運営会社との関係で生じうる法的問題

 イベント主催者は,新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のためにイベントを中止した場合であっても,イベント会場の運営会社に対し,イベント会場のレンタル料を支払わなければならないのでしょうか。

 まず,イベント主催者とイベント会場の運営会社との間でイベント会場の利用に関して締結した契約に,イベント中止の際におけるレンタル料の支払いに関する定めがある場合には,その条項に従うことになります。

 イベント会場の利用契約の中に,そのような定めがない場合には,イベント主催者がイベント会場の運営会社に対し,レンタル料を支払わなければならないかは民法の規定により判断されるとこととなります。

 上述のとおり,改正前民法536条1項は,当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは,債務者が反対給付を受ける権利を有しないと定めています(旧民法の規定を前提としています,危険負担)。

 まず,新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のためにイベントを中止する場合に,イベント会場の利用契約上の運営会社の債務,すなわち,イベント主催者にイベント会場を利用させる義務が履行不能に陥っているといえるかが問題となります。確かに,今回のような場合,運営会社は,イベント会場を利用させることが物理的に不可能となっているわけではありませんが,新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため,緊急事態宣言の下,イベント開催の自粛が政府や自治体から強く要請されている状況下においては,イベントの開催は事実上不可能です。そのため,運営会社の債務は社会通念上履行不能となっているといえます。

 また,政府や自治体からの強い自粛要請,新型コロナウイルス感染症の世界規模での感染拡大等の状況に鑑みれば,イベントの中止について,当事者双方に帰責事由がないといえるでしょう。

 以上のことから,改正前民法536条1項により,イベント会場の運営会社は,イベント主催者からレンタル料金の支払いを受ける権利を有しないと判断されます。そのため,イベント主催者は,イベント会場の運営会社に対し,イベント会場のレンタル料を支払う必要はありません。


イベント参加予定者自らがイベント参加をキャンセルした場合に生じうる法的問題

 イベント主催者は,イベント参加予定者が自らイベントへの参加をキャンセルした場合に,違約金,キャンセル料等の支払いを求めることができるのでしょうか。

 上述のとおり,イベント主催者は,イベント参加予定者から,イベント申込時等にイベントに関する規約への同意を得ているであろうことから,まず,当該規約に違約金等に関する定めがあるか否かが問題となります。

 ただし,イベント参加予定者がイベントのキャンセル時に違約金等を支払う旨の定めがあったとしても,その違約金の額によってはその一部が無効となる可能性があります。消費者契約法9条1号が,消費者契約の解除に伴う損害賠償額の予定,違約金の定めが,契約解除に伴い事業者に生ずる平均的な損害の額を超える額となっている場合には,その超過部分については無効となると定めているためです。

 消費者契約法9条1項のいう「平均的な損害」とは,同一事業者が締結する多数の同種契約の事案について算定される平均的な損害の額をいいます。具体的には,解除事由や時期等により同一の区分に分類される複数の同種の契約の解除に伴い,当該事業者に生じる損害の額の平均値であり,解除事由や時期の他,当該契約の特殊性,逸失利益・準備費用・利益率等損害の内容,契約の代替可能性・変更ないし転用可能性等の事情に照らし判断されます(参照:消費者契約法改正に向けた専門技術的側面の研究会報告書)。


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