加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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平成30年相続法改正の概要③

第4 遺留分制度に関する見直し

1 はじめに

 遺留分制度については,①遺留分減殺請求権の効力及び法的性質,②遺留分の算定方法,③遺留分侵害額の算定における債務の取扱いに関して,改正されることとなりました。遺留分制度に関する新たな規定は,令和元年7月1日に施行されます。

2 遺留分減殺請求権の効力及び法的性質の見直し

 遺留分減殺請求権については,遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求する遺留分侵害額請求権へと効力及び法的性質が変更されました(改正相続法1046)。

 現行法では,遺留分減殺請求権の行使によって株式や事業用不動産の共有状態が生じることから,円滑な事業承継に支障が生じるとして改正されました。

 金銭債権化したことから,金銭を直ちに準備できない受遺者又は受贈者の利益を図るため,受遺者等の請求により,裁判所は,負担する全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することができるとされました(改正相続法1047⑤)。裁判所がどの程度の期限を許与することになるのか,実務上の運用が注目されます。

 遺留分侵害額請求権は,遺留分権利者が,相続開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年で時効消滅します。また,相続開始時から10年経過したときも同様です(改正相続法1048)。

3 遺留分の算定方法の見直し

(1)遺留分を算定するための財産の価額

ア 相続人に対する生前贈与の範囲

 相続人に対する贈与については,相続開始前の10年間にされたものに限り,その価額を,遺留分を算定するための財産の価額に参入するものとされました。算入する贈与は,婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与,すなわち特別受益(改正相続法903①)に限られます(改正相続法1044③)。相続開始前の10年間の贈与に制限されたため,贈与した被相続人の意思が尊重されることになります。

 なお,当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与したときは,相続人以外は1年前の日より前にされたもの,相続人は10年前の日より前にされたものについても算入されます。

<遺留分を算定するための財産の価額に算入される贈与>

 

死亡前1年以内

死亡前1~10年

死亡前10年以上

相続人以外の者に対する贈与(改正なし)

全て

加害の認識があるもの

相続人に対する贈与(改正)

特別受益に該当する贈与

特別受益に該当する贈与であって,加害の認識があるもの

イ 負担付贈与

 負担付贈与がされた場合の遺留分を算定するための財産の価額に参入する価額は,目的財産の価額から負担の価額を控除した額となります(改正相続法1045①)。

ウ 不相当な対価による有償行為

 不相当な対価をもってした有償行為は,当事者双方が遺留分権利者に損害を与えることを知ってしたものに限り,当該対価を負担の価額とする負担付贈与とみなします(改正相続法1045②)。

(2)遺産分割の対象となる財産がある場合の算定方法

 既に遺産分割が終了している場合も含めて遺産分割の対象財産がある場合には,遺留分侵害額の算定をするにあたり,遺留分から900条ないし904条の規定により算定した具体的相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額を控除します(改正相続法1046②)。計算式は以下のとおりとなります。

 ・遺留分=(遺留分を算定するための財産の価額)×(1028条各号に定める遺留分率)

                        ×(遺留分権利者の法定相続分)

 ・遺留分侵害額=(遺留分)-(遺留分権利者が受けた特別受益)

    -(遺産分割の対象財産がある場合には具体的相続分に応じて取得すべき遺産の価額

                      (ただし,寄与分による修正は考慮しない))

    +(899条の規定により遺留分権利者が承継する相続債務の額) 

(例)被相続人が,長男に土地建物(評価額1億円),長女に預金1000万円を相続させる旨の遺言をしていた場合の長女の遺留分侵害額

(1億円+1000万円)×1/2×1/2-1000万円=1750万円

4 遺留分侵害額の算定における債務の取扱いに関する見直し

 遺留分侵害額請求を受けた受遺者又は受贈者は,遺留分権利者が承継する債務について弁済等債務を消滅させる行為をしたときは,消滅した債務の額の限度において,遺留分権利者に対する意思表示によって遺留分侵害債務を消滅させることができます(改正相続法1047③)。

第5 相続の効力等に関する見直し

1 はじめに

 共同相続における権利の承継の対抗要件,相続分の指定がある場合の債権者の権利の行使,遺言執行者がある場合における相続人の行為の効果等,相続の効力等に関する規定も見直されました。これらの規定は,令和元年7月1日に施行されます。

2 共同相続における権利の承継の対抗要件

 相続による権利の承継は,遺産分割によるものかどうかにかかわらず,法定相続分を超える部分については登記,登録その他の対抗要件を備えなければ,第三者に対抗することができないものとされました(改正相続法899の2①)。不動産について,相続させる旨の遺言による権利の承継は,登記なくして第三者に対抗できるとされていましたが(最判平成14年6月10日判決),平成30年改正により登記が必要となります。遺言の有無及び内容を知り得ない相続債権者等の利益を重視したものです。

 債権を承継した場合,法定相続分を超えて当該債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容(遺産分割により承継した場合は遺産分割の内容)を明らかにして債務者に通知したときは,共同相続人全員が債務者に通知したものとみなされます(改正相続法899の2②)。

  

3 相続分の指定がある場合の債権者の権利の行使

 被相続人が相続開始時に有した債務の債権者は,遺言による相続分の指定(改正相続法902)がされた場合であっても,各共同相続人に対し,法定相続分に応じてその権利を行使することができます。ただし,債権者が共同相続人の一人に対して指定された相続分に応じた債務の承継を承認したときは,この限りではありません(改正相続法902の2)。

4 遺言執行者がある場合における相続人の行為の効果等

 遺言執行者がある場合,遺言執行の妨害の禁止(改正相続法1013①)に違反する行為は無効となります。ただし,これをもって善意の第三者に対抗することができません(改正相続法1013②)。

 相続債権者を含む相続人の債権者は,上記にかかわらず,権利を行使することができます(改正相続法1013③)。

第6 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策

1 はじめに

 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策として,特別寄与者による特別寄与料の支払請求等の規定が定められました。これらの規定は,令和元年7月1日に施行されます。

2 特別の寄与

 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策として,特別寄与者による特別寄与料の支払請求が認められるようになりました。

 すなわち,被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族(特別寄与者)は,相続開始後,相続人に対し,特別寄与者の寄与に応じた額の金銭(特別寄与料)の支払を請求することができます(改正相続法1050①)。親族であっても,相続人,相続の放棄をした者及び相続人の欠格事由(改正相続法891)に該当し又は廃除によってその相続権を失った者は特別寄与者にはなり得ません。

 例えば長男の妻が被相続人の介護に尽くした場合に,その貢献に報いることができ,実質的公平を図ることができるようになります。

 

3 特別の寄与に関する審判事件

 特別寄与料の支払について,当事者間に協議が調わないとき,又は協議をすることができないときは,特別寄与者は,家庭裁判所に対して協議に替わる処分を請求することができます。ただし,特別寄与者が相続開始及び相続人を知ったときから6か月を経過したとき,又は相続開始時から1年を経過したときは,請求することはできません(改正相続法1050②)。

 家庭裁判所は,寄与の時期,方法及び程度,相続財産の額その他一切の事情を考慮して,特別寄与料の額を定めます。特別寄与料の額は,相続財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることはできません。相続人が数人ある場合には,各相続人は,特別寄与料の額に法定相続分(又は指定相続分)を乗じた額を負担することになります(改正相続法1050②ないし⑤)。

 実務上は,寄与分(改正相続法904の2)についての運用に準じるものと予想されます。

 管轄は,相続が開始した地を管轄する家庭裁判所になります(家事事件手続法216の2)。家庭裁判所の審判に対しては即時抗告が可能です(同216の4)。

 特別の寄与に関する審判事件を本案とする保全処分も可能です(同216条の5)。

<参照>

平成30年相続法改正の概要①

平成30年相続法改正の概要②

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