加藤&パートナーズ法律事務所

加藤&パートナーズ法律事務所

相続

相続

相続における弁護士の役割

親にとって,自らの死後とはいえ,いずれも大切な子どもたちが,相続財産を巡って相争うことは,本当に悲しむべきことです。親であれば,誰もが避けたいと思っているにも拘わらず,実際には,相続を巡って争いとなってしまうことがしばしばあります。しかも,相続争いは年々増加しています。

このように,大切な子どもたちが相争うのを防ぐためには,被相続人が事前に相続対策を行っておく必要があります。事前に相続対策を行うためには,後に相続を巡る紛争が生じた場合のリスクを事前に想定しておく必要があります。

また,既に相続財産を巡って争いとなってしまったケースなどもあるかもしれません。

そのような場合,遺産分割調停や遺産分割審判,民事訴訟等の法的手続きに備え,できるだけ早期に弁護士に相談することが不可欠です。

以下では,紛争を未然に防ぐための弁護士の活用と紛争が生じ,又は生じる恐れがある場合の弁護士の活用とに分け,弁護士に依頼するメリットについて簡単にご説明させていただきます。

紛争を未然に防ぐための弁護士の活用

遺言がない場合には,相続人全員が関与する遺産分割協議を行い,相続人全員が合意に至る必要があります。遺産分割協議の場では,些細なことで感情的になり争いに発展し,合意に至らない例が多々あります。

他方,被相続人が生前遺言を行っている場合には,遺言が無効であるなどとして争われない限り,遺言書の内容のまま相続財産が分割されますので,遺言書がない場合と比べて,後に紛争となる余地が少なくなります。
したがいまして,紛争を未然に防ぐためには,遺言書を作成することが必要です。

遺言書を作成するに当たっては,弁護士に依頼するのがお勧めです。以下,ご説明いたします。

まず,普通方式の遺言には,自筆証書によるもの,公正証書によるもの及び秘密証書によるものの3つの方式があります(民法第967条)。

いずれの方式の遺言であっても,法が定める形式さえ守れば,作成した内容のまま遺言の効力が生じます。

しかしながら,法が定める形式は厳格であり,形式の一つでも欠けていたりした場合には,原則として,そのような遺言は無効となります。

また,作成された遺言が被相続人において認知症に罹患した状態で作成されたものであるとか偽造されたものであるなどとして,被相続人の真意に基づいて作成されたものであるか否かが後に相続人間で争われる例も数多く存在します。

そのため,弁護士に依頼し,弁護士の関与のもと,遺言書を作成することによって,法が定める形式違反や真意に基づかないものであるなどといった理由で,無効となってしまうことをあらかじめ防ぐことができます。

これに加え,後述するように,相続人には遺留分という権利が法律上認められているところ(民法第1028条,改正民法第1046条),遺留分減殺請求権又は遺留分侵害額支払請求権の行使という形で,相続人間で紛争が生じる例も数多存在します。

そのため,遺言の内容を検討するに当たっても,弁護士に依頼することで,各相続人の遺留分に配慮した内容とし,紛争を未然に防ぐことができるメリットがあります。

紛争が生じ,又は紛争が生じた後に弁護士に依頼するメリット

相続の事例で弁護士に依頼する主な場合としては,主に遺産分割協議が開催されない場合又は開催されても分割に関する具体的な話合いが進まない場合,一部の相続人にのみ不利な分割案が提示されており,これに納得できない場合,相続人の一部が相続財産を隠匿している場合,相続財産を私的に流用している疑いがある場合,相続財産の範囲及び評価や遺留分の有無・程度で争いが生じている場合,並びに遺言能力の有無で争いが生じている場合などが考えられます。

この点,遺産分割協議が開催されない場合又は開催されても分割に関する具体的な話合いが進まない場合については,第三者であり専門家である弁護士が後見的な立場から介入することで,一気に話合いがスムーズに進むことがあります。

また,他の相続人と比較して,不利な分割案が提示されている場合については,弁護士が介入することによって,相続財産の範囲を調査し,又は開示させたうえで,交渉を行い,適切な分割を図るよう要求していくことが可能です。交渉段階から弁護士に依頼しておくことで,遺産分割協議中における他の相続人の発言等を踏まえた調停及び審判対応も可能となるため,早期に弁護士に依頼しておくことは極めて重要です。

相続人の一部が相続財産を私的に流用している疑いがある場合や相続財産の範囲に争いが生じている場合についても,弁護士が金融機関や各種公官庁への照会,証拠の検討等を通じて,流用の事実を明らかにし,相続人の一部が固有財産であると主張している財産を相続財産に含めさせることができる場合もあります。また,相続財産中に非上場株式や不動産がある場合には,その評価額を巡って争いとなることもあります。この場合には,評価方法が適切,又は不適切であることを資料等に基づき説得的に主張して,より有利な解決を図ることができる場合もあります。また,当該資料として使用するために,場合によっては鑑定を利用することも有用です。

同様に,遺留分の有無・程度に争いが生じている場合についても,遺留分算定の基礎財産の額を明らかにし,遺留分の主張を認めさせ,又は遺留分の主張を排斥することが可能となる場合もあります。

さらに,遺言能力の有無に争いが生じている場合にも,医療記録や介護記録,要介護認定に係る記録などの客観的な証拠・資料を取り寄せ,また,関係者から聴き取りを行うなどして被相続人における遺言書作成時の遺言能力の有無を明らかにすることができます。保管期間が存在する資料もあることから,遺言の有効性が争いとなっている事例については,早期に弁護士に依頼することがお勧めです。

このように,相続で争いが生じ,又は争いが生じる可能性のある場合には,弁護士に依頼することで,納得の得られる解決を図ることが可能となります。

相続における一般的な手続きの流れ

被相続人が死亡した場合には,相続が開始します(民法第882条)。

相続が開始した場合においては,ただちに次の手続を行い,又は行う必要があるか否かを検討する必要があります。

死亡届の提出

戸籍法第86条では,死亡の届出は,死亡の事実を知った日から7日以内に行うべき旨定めています。

また,上記届出については,①同居の親族,②その他の同居者,③家主,地主又は家屋若しくは土地の管理人の順に届出義務があると定められています(同法第87条第1項)

したがいまして,これらに該当する者は,被相続人の死亡を知った時から7日以内に死亡届を提出する必要があります。

預貯金に係る取引の停止

金融機関は,名義人の死亡を関係者から連絡されない限り,基本的には死亡の事実を知る機会がありません。

そして,被相続人が死亡した場合,被相続人名義の預貯金については相続財産となります(最高裁平成28年12月19日決定・民集70巻8号2121頁)。

そのため,相続人の一人が被相続人の死亡後引き出すことによって預貯金が逸失してしまうのを防止するため,被相続人が死亡した場合には,すぐに金融機関に連絡する必要があります。

他方,金融機関に連絡した場合,被相続人の預貯金に関し,引き出し等の取引が一切行えないことになるため,医療機関に対する治療費の支払いや葬儀費用の支払い資金の捻出に困ることがあります。

この場合には,次の方法を執ることが考えられます。

まず,金融機関に連絡する前に,まとまった預貯金を引き出しておくことが考えられます。なお,後に相続人間で紛争が生じるのを防ぐために,預貯金を引き出す前にあらかじめ相続人全員の承諾を得ておくことが望ましいです。

また,相続人全員から承諾を得られない場合や既に口座が凍結されてしまった場合には,相続法改正(令和元年7月1日施行,以下同じ。)で新たに創設された仮払い制度を利用することが考えられます(改正民法第909条の2)

仮払い制度を利用することで,各相続人は,相続財産に属する預貯金債権の3分の1に対し各自の法定相続分を乗じた金額について,単独で権利を行使することができます。

生命保険の受取

被相続人が生命保険契約を締結していた場合,受取人として相続人が指定されている場合があります。

そして,受取人として相続人が指定されている場合における生命保険契約に基づく保険金請求権は,原則として,相続人の固有財産と解されており,相続財産に含まれるものではないと解されております(最高裁昭和40年2月2日・民集19巻1号1頁)。

そのため,受取人として指定されている相続人は,遺産分割協議の成立を待つまでもなく,被相続人の死亡後ただちに生命保険金を受け取ることができます。

したがいまして,被相続人が死亡した場合には,被相続人が生前生命保険契約を締結していたか否かを確認し,締結していることが確認された場合には,当該契約に係る保険証券を確認し,受取人として誰が指定されているかを確認のうえ,生命保険金の受取申請の手続きを行う必要があります。

遺言書の有無の確認

遺産分割協議を行うに当たって,遺言書の有無を確認することは不可欠です。なぜなら,遺言が存在する場合,各相続人は,原則として遺言の内容に従って相続財産を承継することになる一方,遺言がない場合には,相続人が協議して遺産分割を行う必要が生じるからです。

相続人の調査

遺産分割協議を行うに当たって,相続人の調査を行うことも必要不可欠となります。

なぜなら,被相続人に相続人が関知していない他の相続人が存在していた場合には,その者も含めて遺産分割協議を行う必要があるところ,仮に当該相続人を除外して一部の者のみで遺産分割協議を行ったときには,当該遺産分割協議は無効となるからです。

相続人の調査は,被相続人が生まれてから死亡するまでの戸籍謄本を取得して行うことになります。

相続財産の調査

相続財産の調査は,遺産分割協議を行う準備のためのほか,限定承認又は相続放棄を行うか否かを判断するためにも必要不可欠となります。

ここで,限定承認とは,被相続人が債務を負担しており,相続財産によりこれを弁済した場合であっても,なお残余財産が生じる場合にのみ相続をする旨の申述をいい(民法第922条),相続放棄は,被相続人を一切相続しない旨の申述をいいます(同法第915条第1項)。

限定承認や相続放棄に係る申述には期間制限があり,相続の開始があったことを知った時から,3か月以内に行う必要があります(同)。

限定承認や相続放棄を行うか否かは,相続財産の中に債務があるかどうか,債務があるとしても,相続財産のみで支払うことができるかどうかを確認しなければ,適切な判断を行うことが困難です。

したがいまして,遺産分割協議を行う場合はもとより,限定承認や相続放棄を行うか否かを検討するためにも,被相続人が死亡した後,速やかに相続財産の有無及び内容を調査する必要があります。

限定承認,相続放棄

相続財産の調査を行い,被相続人を相続したとしても,債務を負担することが明らかである場合には,特段の事情がない限り相続放棄を行うことになります。

前記のとおり,限定承認や相続放棄の申述については,相続の開始があったことを知った時から,3か月以内に行う必要があります。

また,限定承認や相続放棄の申述は,家庭裁判所に対して行います(民法第924条,同第938条)。

なお,これらの申述を3か月以内に行わなかった場合には,単純承認をしたものとみなされ(民法第921条第2号),債務を含めて,相続財産の全てを相続してしまうことになりますので注意が必要です。

検認

遺言書の保管者又はこれを発見した相続人は,遺言者の死亡を知った後,遅滞なく遺言書を家庭裁判所に提出して,検認を請求しなければなりません(民法第1004条第1項)。

検認とは,相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに,遺言書の形状,加除訂正の状態,日付,署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして遺言書の偽造・変造を防止するための手続です。

なお,公正証書遺言の場合,及び相続法改正で新たに創設された保管制度を利用した場合については,検認の手続は不要です(改正民法第1004条第2項,遺言書保管法第11条)

遺産分割協議の開始

以上,相続人の範囲や相続財産の有無及び内容を確認し,限定承認又は相続放棄をしないと判断し,かつ遺言もない場合には,相続人全員により相続財産をどのように分割するか協議する必要があります。

無事相続人同士で合意ができた場合には,遺産分割協議書を作成し,当該合意に従って,遺産を分割する手続きを行っていくことになります。

他方,相続人全員で合意ができなかった場合には,家庭裁判所に対して遺産分割調停を申し立て,又は遺産分割審判を申し立てて解決を図ることになります。

相続税の申告

相続税の申告は,相続の開始を知った日の翌日から,10か月以内に行う必要があります(相続税法第27条第1項)。

相続人間での協議がまとまらない場合など,遺産分割がまだ未了のケースにおいては,一旦法定相続分で相続したと仮定して申告・納税を行うこととなります。

遺言

遺言の役割

遺言は,被相続人が有する意思を後世に残すという役割があります。

相続財産との関係では,相続人間では,遺産分割に関する話合いがまとまらず,紛争になることがまま見られるところですが,遺言がある場合,遺言に従って相続財産が承継されることになることから,遺産分割に関する話合いを通じて紛争が生じることはありません。

また,相続人ら間での話合いではまとまらない事項であっても,被相続人の意思には従おうとする相続人もいるでしょう。

したがいまして,被相続人が遺言を通じて意思を明らかにしておくことで,相続財産を巡って相続人間で生じうる紛争を未然に防ぐことができるという役割があるといえます。

遺言の種類・方式

前記のとおり,普通方式の遺言には自筆証書によるもの,公正証書によるもの及び秘密証書遺言によるものの3つの方式があります(民法第967条)。

①自筆証書遺言

自筆証書遺言とは,被相続人自らが直筆で書き上げる遺言のことをいいます(民法968条第1項)。

具体的には,被相続人が遺言書の全文,日付及び氏名を自署し,かつこれに印を押さなければなりません。自筆証書遺言中の加除その他の変更についても,厳格なルールが定められています(同条)。

なお,相続法改正により,遺言者が遺言書の全文を書き上げる必要があるものと定められていたものに関し,例外的に,自筆証書に相続財産の全部又は一部の目録を添付するときは,その目録については自署しなくてもよいこととなりました(改正民法968条第2項)。

②公正証書遺言

公正証書遺言とは,公正証書として公証人によって作成される遺言のことをいいます(民法第969条)。

第三者である公証人が被相続人の意思確認を行ったうえで作成するものであることから,被相続人の真意に基づくものではないなどとして法的有効性が争われる余地が少ない遺言です。

作成する場合の方式については,民法第969条以下が定めておりますが,公証人が主導して行うので,被相続人が自ら方式違反について注意を行う必要が特になく安心して作成できるという点もメリットの一つと考えられます。

③秘密証書遺言

秘密証書遺言は,遺言の内容を秘密にしたまま,遺言の存在のみを証明してもらう遺言のことをいいます(民法第970条)。

秘密証書遺言を作成する場合には,公正証書遺言の場合と同様,公証人の関与が必要となりますが,公正証書遺言の場合と異なり,公証人による口授の手続がないため,公証人等に対しても遺言の内容を伏せて作成できるという点にメリットがあります。

他方,秘密証書遺言は,被相続人となる者自らが作成する必要があり,方式に違反し無効となるデメリットがあります。

もっとも,秘密証書遺言としては,方式に欠ける場合であっても,自筆証書遺言に定める方式を具備している場合については,自筆証書遺言として扱われることになります(民法第971条)。そのため,可能な限り自筆で作成するべきです。

遺言事項

遺言事項は,相続分や遺産分割方法の指定,遺贈等財産に関する事項に限られません。身分に関する事項として,例えば,推定相続人の廃除(民法第893条),子どもの認知(民法第781条第2項),未成年後見人の指定(民法第839条第1項本文),さらに,遺言執行に関する事項として,遺言執行者の指定(民法第1006条第1項)を行うこともできます

遺言執行

前記のとおり,遺言執行者は,遺言により定めることができます。

遺言執行の対象は,法令で遺言事項として定められている事項(法定遺言事項)に限られます。

この点,身分関係に関する事項について遺言が行われている場合,認知の手続など法的手続きが必要となり,相続人自ら行うのは一般的に困難であると思われます。そのため,法的手続きに精通した弁護士を遺言執行者として指定しておくことが適切です。

一方,財産に関する事項についても,相続人が遺言執行者である場合,執行手続きの実施を通じて,他の相続人とトラブルになるケースが多いため,第三者であり中立的な立場であって,かつ相続法に精通した弁護士に依頼することが執行手続をスムーズに進めるために必要です。

死因贈与

死因贈与とは,贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与のことをいいます(民法第554条)。

死因贈与については,特段の事情がない限り,遺贈に関する規定が適用されるので(同条),遺言と同様,特定の相続人に対し承継させたい相続財産を承継させることが可能となります。

遺言と異なり,厳格な形式が要求されていないため,形式不備により無効となるリスクは低いといえます。他方,遺言と異なり,あくまで贈与であるため,受贈者との間の合意が必要となります。

遺産分割

遺産分割事件の概要

遺産分割協議とは,相続財産をどのように分けるかを相続人全員で協議する場のことをいいます。

前記のとおり,この協議がまとまらなかった場合には,家庭裁判所において遺産分割調停又は遺産分割審判を行い,家庭裁判所に分割方法を決定してもらうことになります。

なお,離婚の場合と異なり,遺産分割審判には,調停前置主義が適用されません。

そのため,遺産分割調停を行わずに,いきなり遺産分割審判を申し立てることも法律上は可能です。

ただし,この場合であっても,裁判所の判断により調停に付せられる場合もあります。

遺産分割に付随する問題

遺産分割に付随する問題としては,相続財産の範囲,相続財産の価値・価格が主に上げられます。

例えば,ある相続財産に関し,他の相続人が相続財産ではなく,当該相続人自らの固有の財産であると主張した場合には,遺産の帰属性を巡って,相続人間で激しく争われることとなります。この場合,ある財産が相続財産であるかが遺産分割調停又は審判で確定した場合であっても,これに不服がある者は,後に民事訴訟を提起することで,紛争を蒸し返すことが可能であると考えられております。そのため,この点に関して激しく争われている事案の場合には,蒸し返しを防ぐべく,遺産確認の訴えという民事訴訟を提起することを検討する必要があります。

さらに,例えば,市場価格のない非上場株式や不動産の価格等については,価値や価格を評価することが難しく,専門的な知見に基づく算定,場合によっては,公認会計士や不動産鑑定士による鑑定も必要となります。

このように,遺産分割においては,民事訴訟提起の検討や相続財産の評価方法に関する主張立証,場合によっては,鑑定評価の必要性について検討しなければならず,これらを適切に判断するためには,争訟に精通した弁護士の関与が必要となります。

特別受益

特別受益とは,被相続人の生前において同人から相続人に対して贈与があった場合のその贈与,及び被相続人から遺贈を受けていた場合のその遺贈をいいます(民法第903条第1項)。具体的には,推定相続人が,被相続人の生前,被相続人から居住用の不動産を買い与えてもらっていた場合や海外留学の費用の援助を受けていた場合などの場合,不動産の価値や海外留学費用が特別受益に該当しうることになります。

特別受益に該当する贈与又は遺贈がある場合,相続人の相続分を算定するに当たっては,被相続人が相続開始時の時において有していた財産の価格に贈与の価格を加えたものが相続財産とみなされることになります(同)。

例えば,相続財産が2000万円であり,妻,子が2人いる場合を想定すると,法定相続分に従った場合,妻が1000万円,子が500万円ずつ相続することになります。

ところが,妻に対して200万円の遺贈がある場合,次の計算により,妻が900万円,子がそれぞれ550万円ずつ相続することになります。

妻:(2000万円+200万円)×2分の1-200万円=900万円
子:(2000万円+200万円)×4分の1=550万円

このように,仮にある相続人に関し特別受益に該当する贈与等がある場合,その他の相続人に係る相続分が増加することになりますので,特別受益の有無及びその額については,相続人間において強く争われることがあります。

不動産の生前贈与など,登記の記載から明らかとすることがある程度容易なものもあります。しかしながら,金銭の生前贈与などの場合には,そもそも贈与の事実自体が強く争われることがあり,その場合には,被相続人に係る預貯金口座の取引履歴や被相続人及び特別受益があるとされる相続人の生活状況等を踏まえた丹念な主張立証が必要となる場合があります。

寄与分

寄与分とは,相続財産の維持又は増加に特別の寄与した相続人に関し,協議によって定めた金額を当該相続人の相続分とするものです(民法第904条の2第1項)。具体的には,被相続人が経営する事業に対し資金援助を行っていた場合や被相続人に対し特別な貢献と言える程度の療養看護を行っていた場合に,これらを行った相続人には寄与分が認められる場合があります。

協議が整わないときは,家庭裁判所が諸事情を考慮して寄与分を定めます(同第2項)。

寄与分が認められた場合,相続財産の価格から寄与分を控除したものを相続財産とし,寄与分があるとされる者の相続分を算定するときには,その者の相続分に寄与分の額を加算されます。

例えば,相続財産が2000万円であり,相続人に妻,子2人がおり,妻に600万円の寄与分があることが協議ないし審判により定められた場合を想定すると,各人の相続分は次の計算により妻が1300万円,子がそれぞれ350万円となります。

妻:(2000万円-600万円)×2分の1+600万円=1300万円
子:(2000万円-600万円)×4分の1=350万円

このように,仮にある相続人に関し寄与分がある場合,各人の相続分が変わることになりますため,寄与分の有無及びその額については,相続人間において強く争われることがあります。

この点,長年被相続人の介護を行ってきたとして寄与分が主張されることがあります。しかしながら,前記のとおり,寄与分は相続財産の維持又は増加に特別の寄与をした相続人に認められるものですので,単に扶養義務を果たしていたことをもって認められるものではなく,それが相続財産の維持又は増加に影響するものでなくてはなりません。

また,寄与分に該当するとなった場合でも,その寄与を評価する基準もないため,寄与分を主張する相続人は,自身が相当と認める金額に関し根拠を示して説得的に主張立証し,他方,他の相続人から寄与分を主張される相続人は,そもそも寄与分に該当しないこと,及び仮に該当するとしても,額が過大であることなどについて根拠を示して主張立証を行っていく必要があります。

このように,前項において述べた特別受益や本項において述べた寄与分が問題となる事案については,争訟に精通した弁護士に依頼することが必要です。

特別寄与者

特別寄与者とは,相続法改正により,新たに創設された制度です。これは,相続人ではない親族が被相続人の相続財産の維持に貢献した場合であっても,寄与分が認められていなかったところ,特別寄与者に該当する場合には,相続人のみならず,被相続人の親族についても「寄与分」に相当する特別寄与料を請求できることとなりました(改正民法第1050条)。

遺留分

遺留分とは

遺留分とは,相続人に法律上確保された最低限度の財産のことをいいます。

具体的な遺留分の額は,直系尊属のみが相続人である場合については,相続財産の3分の1,その他の場合には相続財産の2分の1が遺留分として確保されることになります(民法第1028条)。

遺留分減殺請求権(遺留分侵害額支払請求権)

相続をする場合,相続人が法定相続分に従って相続財産を承継するのが原則です。しかしながら,特定の相続人に関して,一切財産を相続させない方法による遺言も可能であることから,遺言の内容次第で,相続財産を一切取得できない相続人が生じる場合があります。

そのような場合,当該相続人は,他の相続人に対して,遺留分減殺請求権を行使して,遺留分を取り戻すことができます(民法第1031条)。

遺留分減殺請求権を行使できる者は,兄弟姉妹以外の相続人,すなわち配偶者,子及び直系尊属です(民法第1028条,同第887条,同第889条,同第890条)。

行使できる遺留分の範囲は,相続財産に2分の1を乗じた額に対して,自己の法定相続分をさらに乗じた額となります(民法第1028条第2号)。なお,直系尊属のみが相続人である場合は,相続財産に3分の1を乗じた額に対して,自己の法定相続分をさらに乗じた額となります(同条第1号)。

例えば,相続財産が2000万円であり,相続人に妻,子A,子Bがおり,子Aに2000万円を相続させる内容の遺言が存在する場合を想定すると,子Aに対して妻,子Bが請求できる遺留分減殺請求権の額は,次の計算により,妻が500万円,子Bが250万円となります。

妻:2000万円×2分の1×2分の1=500万円
子B:2000万円×2分の1×4分の1=250万円

遺留分減殺請求権を行使できる対象は,遺贈及び相続開始前の1年間になした贈与です(民法第1030条第1文)。贈与を受けた者が相続人である場合には,1年前に限られません(同条第2文)。

遺留分減殺請求権の行使については,相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間という短期消滅時効が定められています(民法第1042条)。

遺留分減殺請求権の行使については,法令上特に定めがありませんので,訴訟を提起するほか,訴外で減殺請求権を行使する旨の文書を送付する方法が考えられます。

実務上,遺留分減殺請求権を行使したことを明らかにする趣旨で,内容証明郵便が用いられることが多いです。

遺留分減殺請求権を行使した場合,当該行使者は,侵害されている遺留分額に応じて,対象となる財産の持分を取得することとなります。

なお,相続法改正により,遺留分減殺請求権が遺留分侵害額支払請求権となり,持分を取得するものではなく,金銭の支払いを求める権利に変更されました(改正民法第1046条)。改正前では,前記のとおり,贈与を受けた者が相続人である場合には1年前に限られず,遺留分を行使することができましたが,相続法改正により,10年という期間制限が設けられることになりました(同法第1044条第3項・同第1項)。さらに,遺留分減殺請求権が金銭の支払いを内容とする遺留分侵害額支払請求権となったことから,急に多額の現金を用意することができず,支払いに窮する相続人が発生することを踏まえ,裁判所により,相当の期限を設けて支払いを猶予する制度が設けられております(改正民法第1047条第5項)。

経営承継円滑化法

経営承継円滑化法とは,遺留分に関する民法の特例や事業承継税制等を定めた法律のことをいいます。

特に,事業者・経営者が被相続人となる場合において,経営承継円滑化法における遺留分に関する民法の特例は極めて重要です。

相続人の中から被相続人の後継者となる者を選択する場合,遺贈や死因贈与,あるいは生前贈与等を用いて,株式や事業用資産を承継させることが考えられるところ,これら株式や事業用資産は,評価額が高額になる例が多いです。

前記のとおり,相続人(但し,兄弟姉妹を除く。以下同じ。)には遺留分が認められていますので,仮に株式や事業用資産を一人の後継者に承継させた場合,相続人の遺留分を侵害することがあります。

また,前記のとおり,遺留分減殺請求権を行使した場合,当該行使者は,侵害されている遺留分額に応じて,対象となる財産の持分を取得することになります。

そのため,被相続人の死後,遺留分減殺請求権を有する相続人から後継者に対して遺留分減殺請求が行使された場合,後継者に対してせっかく承継した株式や事業用資産が相続人間で分散されることになります。

他方,相続法改正により,遺留分減殺請求権は,遺留分侵害額支払請求権という金銭支払請求権に変更されていることから,遺留分の行使によって直ちに株式や事業用資産が相続人間で分散されることはなくなりました。もっとも,前記のとおり,株式や事業用資産の評価額が高額化する例が多いことから,多額の遺留分の支払い義務を負担することによって,場合によってはその支払いのために,株式や事業用資産を処分して金銭を捻出しなければならない場合も想定されます。

このように遺留分を巡って円滑な事業承継が阻害されることを防止するために定められたのが,上記「遺留分に関する民法の特例」(以下「民法特例」といいます。)です。

民法特例を活用した場合,後継者を含めた推定相続人全員の合意のうえで,被相続人となる者から後継者に対して贈与等が行われた株式や持分(以下「株式等」といいます。)について,①遺留分算定基礎財産から除外(経営承継円滑化法第4条第1号)(除外合意),又は②遺留分算定基礎財産に参入する価格を合意時の時価に固定(同条第2号)することができます(固定合意)。

また,③①又は②の合意をする際に,併せて,株式等以外の事業用資産についても,①と同様に遺留分算定基礎財産から除外する旨の合意をすることもできます(経営承継円滑化法第5条)。

①及び③により,他の相続人は,株式等及び株式等以外の事業用資産について,遺留分の主張ができなくなります。そのため,相続に伴って株式等及び株式等以外の事業用資産が相続人間で分散化されることが防止できます。また,相続法改正がなされた後では,遺留分額減殺請求権となったことから,持分が分散化されることはなくなりました。もっとも,民法特例を利用することにより,後継者において予想外の多額の金銭債務を負担することを防止できます。

また,②により,株式等の価値が急激に変動した場合でも,予期しない多額の出費を負担することを防止できます。例えば,現時点では1株5万円の株式があり,これが被相続人の死亡時点では15万円に値上がりする場合を想定すると,固定合意を利用しない場合,1株15万円として遺留分の算定を行う必要があるのに対し,固定合意を利用する場合,1株5万円として遺留分の算定を行うことで足りることになります。そのため,遺留分減殺請求権(遺留分侵害額支払請求権)を行使された場合に不測の債務を負担するリスクを防止することができます。

このように,民法特例を利用することで,遺留分減殺請求のリスクを軽減し,事業承継を円滑に進めることが可能となりますので,事業承継を検討している事業者・経営者の方は,是非とも活用を検討するべき制度です。

もっとも,民法特例を利用するためには,以下の要件を充たしたうえで,推定相続人全員の合意(経営承継円滑化法第4条第1項本文,第5条)と経済産業大臣の確認(第7条第1項,第8条第1項)及び家庭裁判所の許可(第8条第1項)を受ける必要があります(第9条)。
  1. 中小企業者(第2条)であり,かつ合意時点において3年以上継続して事業を行っている非上場企業であること(第3条第1項)
  2. 被相続人となる者が過去において会社の代表者であったか又は合意時点において会社の代表者であること(同第2項)
  3. 後継者が合意時点において会社の代表者であり,かつ現経営者からの贈与等により株式を取得したことにより,会社の議決権の過半数を保有していること(同第3項)

実務上大きく問題となるのは,推定相続人全員の合意です。

そのため,民法特例の利用を検討する場合には,あらかじめ推定相続人間で不公平が生じないようなスキームを構築し,かつ納得の得られる十分な説明を行い,理解を得ることが重要となります。

このようなスキーム構築や説明については,事業承継に精通した弁護士に相談することが必要です。

親族内における事業承継に関する詳細は,「親族内承継をお考えの経営者様へ」もご覧ください。

当事務所所属弁護士が執筆に参加した関連書籍・論文

トップへ戻る