加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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会社法裁判例--特例有限会社において、取締役選任に関する株主総会決議が行われたところ、決議に参加した株主は名義株主であり、株主権を有しないとして株主総会決議不存在確認の訴えが認められた事例--

特例有限会社において、取締役選任に関する株主総会決議が行われたところ、決議に参加した株主は名義株主であり、株主権を有しないとして株主総会決議不存在確認の訴えが認められた事例

東京高判令和元年9月4日 ウエストロー2019WLJPCA09046004(確定)

原審:東京地判平成31年3月22日 ウエストロー2019WLJPCA03226007


第1 判決の概要

本件は、Y社において、A社を一人株主として、Bを取締役及び代表取締役に選任する決議が行われたところ、Y社の株主であると主張するX1及びX2がY社に対し当該決議の不存在確認を求めた事案である。

これに対し、Y社は、原審では、①Y社設立時に、X1から名義を借りたに過ぎないと主張し、控訴審においては、②議決権を有するのは、原始定款に記名押印を行ったA社であるとの補充主張を行って、Xらの請求を争ったため、本件訴訟では、Y社の株主がA社であるか、Xらであるかが争点となった。

本判決は、設立時の株主がX1であるとして、Xらの請求を認めた。


第2 事案の概要

1 Y社設立の経緯

A社は、Bが全株式を保有し、唯一の取締役を務める特例有限会社である。

X1の夫であるCは、D社からゴルフトーナメントの前夜祭へのプロゴルファー招聘等の費用及び報酬の支払いを受けていたところ、Bとの間で、その対価の支払いをA社名義の普通預金口座(本件口座)で受け、Cがその一部を使えるようにする旨の合意をした。

その後、Bは、CからD社からの入金が増えることを聞き、法人税が高額となるなどの理由から、Cとの間で、新会社を設立して同入金を受けることを合意した。その際、BとCとの間では、出資金について本件口座から支出すること、及び株主名義をX1とすることで合意し、X1は、Cから上記合意を聞いてY社の株主となることを承諾した。その後、Cは、Bに対し、X1が株主となることを合意した旨伝えた。

そして、Bは、平成16年3月、社員の氏名及び出資口数をA社60口とし、A社の記名押印のあるY社定款を作成し、Y社設立時の出資金を本件口座から支出するなどして、Y社を設立する手続をした。


2 X1からX2へのY社株式の一部譲渡

Cは、平成28年6月、Y社を清算してX2の夫を代表者とする新会社に金銭を引き継がせようと考え、Bに対しY社名義の通帳の引渡しを求めたところ、Bは、Y社で経理を引き続き行うので、X1からX2に株式を譲渡することを提案した。そして、Bは、Cに対し、X1がY社の出資持分60口を保有すること、そのうち30口を代金150万円で譲渡することなどを内容とする持分譲渡契約書の案文とともに、Y社からA社が売上又は粗利の10パーセントを業務委託料などとして受け取ることを確認するメールを送信した。

X1は、平成28年10月31日、X2に対し、上記持分譲渡契約書の氏名欄等を記入するなどして、同契約書を作成し、Y社株式を譲渡した。


3 本件訴訟に至る経緯に関する事情

Xらは、平成29年10月、BをY社の取締役から解任する旨の株主総会決議を行った。そのうえで、Y社は、Bに対し、取締役を解任した旨、キャッシュカード等の引渡しを求める旨などを内容とする通知をした。

そのうえで、Y社は、平成29年12月、Bに対し、Y名義の預金口座の預金通帳等の引渡し、及び同口座から金員を正当な理由なく領得した不法行為に基づく損害賠償を求め、訴訟提起を行った(別件訴訟)。

Bは、平成30年2月5日別件訴訟第1回口頭弁論期日において、本件訴訟のXら代理人弁護士に対し、A社がX1に対しY社株式の全部を譲渡した旨述べたほか、同期日後、同弁護士に対し、Y社名義の通帳を引渡し、A社がX1に対してY社株式を譲渡する旨内容とする契約書の画像を自ら見せた。

ところが、Bは、平成30年3月22日、A社を株主として、BをY社の取締役及び代表取締役に選任する旨の書面による株主総会決議をした旨の株主総会議事録を作成し、その旨の登記申請をした。

そして、Y社は、平成30年3月28日、Bを代表取締役として、別件訴訟を取り下げた。

なお、Bが作成し、税務署に提出されたY社平成18年12月期から平成27年12月期までの同族会社等の判定に関する明細書にはX1が60株の株主である旨の記載がある。


第3 判旨

1 Y社設立時の株主

本判決は、まずY社設立に関し、BとCとの間で資本金を本件口座から支出すること、Y社の株主の名義をX1とすることの合意がされたことの限度ではB及びCの間で争いがない旨述べたうえで、Y社の実質的な株主をX1とする合意がされたかが問題となる旨述べる。

そのうえで、まず本判決は、Y社を設立した主たる目的が、Cのプロゴルファー招聘等の事務に関する費用及び報酬の入金先を新設することにあり、かかる目的からすると、Y社への入金から生ずる利益の最終的な帰属者である株主に関し、Bが支配するA社が株主となる合理的理由はない旨述べる。

そして、Y社設立当時の資本金の原資となった本件口座内の残金については、A社に係る入金とCに係る入金が混在していることから実質的にいずれに帰属しているのかが明らかでない旨指摘する。

加えて、本判決は、Y社設立後のBの行動として、①Bは、平成18年12月期から平成27年12月期までの同族会社等の判定に関する明細書にX1を株主として記載していたこと、②X1に対しX2にY社株式を譲渡することを提案し、その契約書の作成事務を行い、報酬の支払いを求めるだけでY社の株主であることを主張していないこと、③Bが解任された後も、自らが株主であるなどとして解任を争っておらず、別件訴訟に至っても、当初、A社がX1にY社株式を譲渡した旨主張し、自らそれに沿う契約書の画像を本件訴訟のXら代理人弁護士に見せていたことなどの事情を指摘して、Bが、A社がY社の株主であることを主張しなかったと述べる。そのうえで、本判決は、本件決議から6日後に別件訴訟を取り下げていることを併せ鑑み、Y社からの請求を回避する目的でA社がY社の株主である旨主張するに至ったものであると判断した。

そのうえで、本判決は、Y社定款のA社の記名押印は、BとCとの間におけるY社の実質的な株主をX1とする合意に基づいて、X1の使者として行われたものであると認定し、Xらの請求を認めた。


2 株主権が名義株主であるA社に帰属するか否か

Y社は、控訴審において、原始社員はあくまで形式で判断すべきであり、議決権を有するのは実質株主ではなく名義株主であるA社である旨の補充主張を行っていた。

これに対し、本判決は、最判昭和42年11月17日民集21巻9号2448頁等を参照し、「他人の承諾を得てその名義を用いて株式の引受等がされた場合においては、名義貸与者ではなく、実質上の引受人が株主となるものと解すべきである」と判示した。

そのうえで、Y社設立の目的や資本金の原資等から、Y社の実質的な株主をX1とする合意の存在が認められることから、原始定款にA社の記名押印があることをもって、A社を株主として扱うべきであるとはいえないとして、上記Y社の補充主張を排斥した。


第4 実務上のポイント

1 本判決の意義

本判決は、特例有限会社における設立時発行株式に関して、会社設立の目的や会社設立後の関係者の行動等から、株主権がいかなる者に帰属するのかについて判示したものとして、今後の類似事例において参考となる裁判例である。


2 本件における主張構造

本件では、BとCとの間において、Y社設立当時、Y社の株主の名義をX1とする旨の合意がされていることに争いがなく、かかる合意が名義を貸借する旨の合意にとどまるのか、それともY社の実質的な株主をX1とする旨の合意まで含むものであるのかという契約解釈が問題となっている。

他方で、控訴審におけるY社の補充主張に関しては、原始定款にはA社が社員として記載されていることから、A社を名義貸与者として、名義貸与者であるA社に株主権が帰属するのか、それともX1が実質株主に当たり、実質株主であるX1に株主権が帰属するのかが問題となっており、複雑な主張構造を採用している。

この点、他人の承諾に基づき名義を借用して別の者が出捐して株式の引受けが行われた場合、その株式の株主となるのは実質上の引受人すなわち名義借用主であると解されている(最判昭和42年11月17日民集21巻9号2448頁)。

特例有限会社における社員権の帰属について、かつての裁判例では、原始定款に社員として署名した者のみが社員となり、事実上会社の設立に参画し、出資金を拠出した者であってもこれに署名しない者は法律上有限会社の社員ということはできないとして、形式的に定款に署名した者のみが株主権を有すると判断したものがあった(福岡高裁宮崎支判昭和60年10月31日判タ591号73頁)。ところが、近時の裁判例では、前掲最判昭和42年11月17日民集21巻9号2448頁と同様に、特例有限会社であっても、実質上の出資払込人が株主となると解されている(東京高判平成16年9月29日判タ1176号268頁大阪高判平成29年12月21日金判1549号42頁【裁判例1】等)。

そして、ここでいう実質上の出資払込人の認定判断においては、実際に申込み・払込みをした者の意思又は関係当事者間の合意が決め手となると解されている[1]

したがって、近時の裁判例の見解を採用する限りは、原審におけるY社の主張のように、合意に関する契約解釈を問題とする主張を行う場合、又は控訴審におけるY社の補充主張のように、原始定款の記載に着目して株主権を主張する場合のいずれの場合であっても、結論には差は生じないのではないかと考えられる。


3 主張立証のポイント

実質上の株主の認定に当たっては、「株式取得資金の拠出者、名義貸与者と名義借用者との関係及びその間の合意の内容、株式取得の目的、取得後の利益配当金や新株等の帰属状況、名義貸与者及び名義借用者と会社との関係、名義借りの理由の合理性、株主総会における議決権の行使状況などを総合的に判断するべき」であるとの指摘があり[2]、本判決も、同様の判断基準に照らして検討を行っている。

本判決においては、特にY社設立後に代表者であるBがX1に株主権が帰属していることを前提とした行動をとっていることについて子細な事実認定を加えており、今後の類似事案の検討に当たっては参考となる。



[1] 高橋陽一『判批』重判平成27年度(ジュリ臨増1492号)93頁、94頁(有斐閣・2016)

[2] 東京地方裁判所商事研究会編『類型別会社訴訟Ⅱ(第3版)』798頁(判例タイムズ社・2011)

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