加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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会社法裁判例―名義株であるとして様々な間接事実を主張したが、これらを含めて検討しても、経験則上権利推定するにはなお十分とはいえないとして名義株であることが否定された例(コクド株主総会決議不存在確認請求事件)―

名義株であるとして様々な間接事実を主張したが、これらを含めて検討しても、経験則上権利推定するにはなお十分とはいえないとして名義株であることが否定された例

東京高裁平成24年12月12日判決 判時2182号140頁(上告、上告受理申立て)


第1 判決の概要

本件は、Y1社、Y2社及びY3社が実質株主であるXを無視し、名義人を株主と扱って一連の組織再編行為を強行し、創業家を排除したとして、これに関係する各組織再編行為の根拠となった株主総会決議の不存在確認等を求めた事案である。

本件では、Xが実質株主である被相続人から株式を相続したとして本訴を提起していたところ、Xの原告適格との関係で、被相続人の株主権の有無が争点となった。

本判決は、Xが主張する各間接事実を含めて検討しても、経験則上被相続人の権利を推定するには足りないとして、Xの原告適格を否定した。


第2 事案の概要

Aは、鉄道・ホテル経営をメインとする大企業グループ(本件グループ)の創業者である。

B社は、本件グループの一連の組織再編までは、Y社らの株式を多数保有するなどして、本件グループを統括する事実上の持株会社として位置づけられていた。

A死亡当時、B社の株主名簿上のAの保有株式数は23万8518株となっており、Aは、少なくとも当時のB社の発行済株式総数149万9400株の約16パーセントに当たる23万8518株を有していた。

Aの遺産に関して作成された遺産分割協議書には、遺産株23万8518株のすべてを学校法人Cに寄付する旨の記載があり、Aの妻は、相続人全員の同意書を添えて、学校法人Cに対し、Aの意思により遺産株23万8518株の株券を学校法人Cに寄附する旨の書簡を差し出した。

その後増資及び株式併合を経て、B社の発行済総数は2099株に変更された。

Aが死亡した時から約40年後、Aの子であるXは、当時B社が設置していた「本件グループ経営改革委員会」に対して、Aが保有していたB社株式が未だ相続人らに遺産分割されていないとして、Aの承継人の株主としての正当な権利を侵害しないよう格段の配慮を求める旨の要請書を送付した。

上記要望書の送付後、Xは、B社株の名義人を被告として、株主持分確認請求訴訟を複数提起し、その1か月後にはXをAの承継人が準共有するB社の権利行使者に指定したとして、B社にこれを通知した。

その後、上記訴訟の被告のうち、3名は、第1回弁論準備手続において各人名義の合計49株について請求を認諾した(認諾株)。

Xは、B社に対し、権利行使者として、B社に対し、認諾株について、名義書換を請求したが、B社は、XがB社の株主ではなく、上記権利行使者の通知が無効であるなどとして、名義書換を拒絶した。

このように、B社がXを株主と認めない状況の中で、Y社らは、本件グループの再編成を行うことにし、一連の組織再編を行った。

これを受けて、Xは、B社の株式の大半はAの名義株であり(借用名義株)、Xを含むAの相続人及びその承継人に帰属しているとの主張を前提とし、それにも拘わらず、Y社らが実質株主であるXを無視し、名義人を株主と扱い、創業家を排除する形で、Y1社によるB社の合併を含む一連の組織再編を強行したとして、Y社らに対し、一連の組織再編行為に関する株主総会決議の不存在確認又は決議取消し等を請求した。

原審(東京地判平成23年7月7日判時2123号134頁)は、Aが名義株を保有していたと認めることはできないとして、上記請求に関するXの原告適格を否定し、訴えを却下した。

これに対し、Xが控訴した。


第3 判旨

1 判断枠組みについて

本判決は、まずXが借用名義株と主張するものについて、原審の認定説示と同様に、AによるB社株式の権利取得原因事実が認められないことを確認する。

そのうえで、本判決は、一定の間接事実によって経験則上直接にある権利の存在が推認することができる場合には、権利推定の法律上の効果として権利の存在そのものが推定されることを認め、その結果、その権利の取得原因事実の主張・立証の必要がなくなる余地を認めた。

もっとも、本判決は、「「事実上の権利推定」を一般法理として肯定する場合には、経験則上権利の存在を推認するに足りる十分な間接事実が認定されることが与件〔ママ〕となるから、相応の主張立証が必要不可欠となることはいうまでもない。」と述べている。


2 結論

本判決は、詳細な事実認定と評価を加えて、結論として、「Xの主張する間接事実の中には、自認名義人の存在など有力な間接証拠もみられるが、AのB社株の権利推定をするには十分なものとはいえない。その他の間接事実を含めて検討しても、経験則上直接にAのB社株の権利推定をするには十分とはいえない」と判示して、原審と同様、Aの名義株保有を否定した。


第4 実務上のポイント

1 はじめに

名義株の争点は、相続を原因として会社内部における支配権争いを通じて顕在化することも少なくない。本判決では大企業における名義株の有無が争いとなったが、中小企業における内部紛争においても名義株の有無を通じて、遺産確認請求訴訟や株主総会決議取消訴訟等の法的紛争に発展することもあり、そこでは、準共有株式の権利行使の方法などの争点も生じてくることがある。

株主名義を有しない者が株主であることを証明するためには、通常は前主からの売買等の権利取得原因事実を主張する必要があるところ、過去のことで、権利取得原因事実を明らかにする資料が存在しないことがある。本件もこのような資料がない事案であった。

本判決は、株式の所有権に関し、権利取得原因事実が立証できない場合であっても、経験則上直接に権利の存在が推認できる場合(事実上の権利推定)には、権利の取得原因事実の主張立証がなくとも、権利が存在する(名義株である。)と認定する可能性を示唆したものとして、重要な意義を有する。


2 事実上の権利推定について

事実上の権利推定とは、一定の間接事実によって経験則上直接にある権利の存在が推認することができる場合には、権利推定の事実上の効果として権利の存在そのものが推定される結果、その権利の取得原因事実の主張・立証の必要性がなくなるという考え方をいうところ、不動産登記簿上の所有者に関して事実上の推定を認めたものとして最判昭和34年1月8日民集13巻1号1頁がある。また、このような事実上の権利推定をするためには、経験則上権利の存在を推認するに足りる十分な間接事実が認定されることが必要である。そこでの立証は、高度の蓋然性すなわち通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを要する(最判昭和50年10月24日民集29巻9号1417頁)。

本判決では、Xから主張された間接事実からはAのB社株式の権利推定をするには十分なものとはいえないとして、立証の程度の観点からXの主張を排斥している。


3 間接事実の検討

本件訴訟では、様々な間接事実が主張され、本判決では、これらの事実について子細な検討が加えられている。本件において検討された主な間接事実は、①Aの本件グループ支配の意思が強固であったこと、②第三者(386名)名義のB社株式計13万8539株をAの相続人の一人に贈与する旨記載されたA及びAの相続人作成の贈与契約公正証書の存在、③B社又はY2社が第三者(個人)名義で管理していたY3社の子会社であるC社発行の大量の借用名義株の存在、④自認名義人の存在等である。

このうち、本判決は、自認名義人の存在は、有力な間接事実であると認めるものの、自認名義人が有償増資の申込み、株券受領通知書の送付、配当金の受領等を行うなどして株主として行動しており、その限りで株の所有者でないとの認識との間に整合性がないと指摘する。さらに、一部の自認名義人の認識は、自己名義の株がB社あるいはAら創業家からの預かり物というものであり、B社所有のものであるという余地もあるとして、自認名義人の存在をもってしても、AのB社株の権利推定をするには十分とはいえない旨判示した。

このような本判決の認定判断に鑑みると、間接事実からの推認による名義株の立証のハードルは高い。

今後、権利取得原因事実の主張立証が困難な事案の場合に、間接事実の積み上げによる名義株の立証を試みる場合には、本判決を参考としつつ、実質株主が第三者名義株を所有している旨の認識があったか、当該認識が実体に即した正確な認識であるのかどうか、他の名義株の存在、自認名義人の存在、自認名義人の認識の合理性及び自認名義人の認識と行動の一貫性に関する事実を主張することを検討し、丹念な立証を行うことが求められる。

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