加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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会社法裁判例--公募増資の方法で行う新株発行が、不公正な方法による発行には当たらないとして、その発行を差し止める旨の仮処分決定の申立てが却下された事例--

公募増資の方法で行う新株発行が、不公正な方法による発行には当たらないとして、その発行を差し止める旨の仮処分決定の申立てが却下された事例

(出光興産新株発行差止仮処分事件)

東京高決平成29年7月19日 金判1532号57頁(確定)

原審:東京地決平成29年7月18日 金判1532号41頁

第1 決定の概要

本件は、Yの株主であるXらが、公募増資の方法で行う新株発行が、「著しく不公正な方法により行われる場合」(会210条2号)に該当し、これによって「不利益を受けるおそれがある」(同条柱書)として、仮に差し止めるよう求める事案である。

本決定は、新株発行の主要な目的がXらとY社経営陣との間の支配権をめぐる実質的な争いにおいて自らを有利な立場に置くとの目的であると認めることはできないとして、仮処分決定の申立てを却下した。

(参照条文)

会社法210条

 次に掲げる場合において、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は、株式会社に対し、第199条第1項の募集に係る株式の発行又は自己株式の処分をやめることを請求することができる。

二 当該株式の発行又は自己株式の処分が著しく不公正な方法により行われる場合


第2 事案の概要

Y社は、発行済株式1億6000万株の全部を東証1部に上場する会社であり、Xらは、Y社の発行済株式総数の約33.92パーセントに相当する5427万2400株を保有する株主である。

Y社は、平成27年7月30日、A社の株式1億2526万1200株を1株当たり1350円で取得する旨の取締役会決議を行い、A社との経営統合に向けて協議を進める合意が成立していることなどを公表するとともに、Xらに対して、経営統合に関する説明をした。そのうえで、Y社は、同年11月12日、A社との間で、合併を基本方針とする経営統合に関する基本合意書を交わし、その旨を公表した。

これに対し、Xらは、株式希薄化等の問題から合併に反対である旨の意見を述べ、その後、XらとY社との間では合併問題につき複数回にわたり協議がもたれたものの、Xらは依然として合併に反対の立場であった。なお、前記のとおり、Xらは、株式33.92パーセントを保有していたので、合併に関する株主総会特別決議をXらのみで否決できる立場にあった。

Y社は、平成28年12月19日、取締役会の決議を経たうえで、B社から、A社の株式1億1776万1200株を代金1589億7800万円(1株当たり1350円)で買い受ける株式譲渡契約を締結した。なお、同取締役会の決議の前日のA社の株式の価格は1株1102円であった。

上記株式の取得のために、Y社は、平成28年12月16日、C銀行から、ブリッジローン契約[1]に基づき、弁済期を平成29年12月18日として、1690億円を借り入れ、翌19日本件株式取得を行った。

なお、上記ブリッジローン契約による借入金の借換資金の調達のために、Y社は、平成28年3月31日、5つの金融機関から合計1000億円を借り入れる旨の劣後ローン契約を締結していたが、貸付の前提条件を満たすことができなかったため、結局同ローン契約に基づく借入れを受けることができなかった。

平成29年3月、Xらは、Y社に対して、経営戦略を早急に策定し遂行するよう求める旨の申入書を送付し、さらに、Y社の株主に対し、Y社の経営陣のうちの5名の取締役が経営統合を無理に進行させる危険があるなどとして、定時株主総会においてこれら5名の取締役選任議案に反対することに賛同してほしいなどと記載した書簡を送付した。

Y社は、平成29年6月29日、定時株主総会において、上記5名の取締役を含む12名の取締役の選任議案を提出し、いずれも可決されたが、上記5名の取締役の賛成の割合は、その余の7名の取締役の賛成の割合が約98パーセントであったのに比べ、約61パーセントであった。

その後、Y社は、平成29年7月3日、取締役会において、調達資金上限を1385億3300万円として普通株式4800万株を公募により発行する旨の決議を行い(本件新株発行)、その旨を公表したところ、Xらは上記決議の翌日、本件新株発行が著しく不公正な方法により行われる場合に該当するとの理由で、現に発行手続中の新株発行を仮に差し止める命令の申立てを行った。

本件新株発行によって、Xらの持株比率は、約26.09パーセントとなる。この場合に、Xらが現在の持株比率を維持するためには、本件新株発行の際に約470億円を払い込む必要がある。


第3 決定の要旨

1 著しく不公正な方法の意義(会210条2号)

本決定は、会社法210条2号の「著しく不公正な方法」による発行の意義について、不当な目的を達成する手段として株式発行が利用されることをいうと述べたうえで、会社の支配権につき争いがあり、現経営陣が、支配権を争う特定の株主の持株比率を低下させ、もって自らの支配権を維持・確保することなどを主要な目的として新株発行をするときは、当該株式発行は不当な目的を達成する手段として行われる場合に当たると判示した。


2 あてはめ

そのうえで、本決定は、本件新株発行の主要な目的が、資金調達ではなく、Y社の支配権をめぐる実質的な争いにおいて自らを有利な立場に置くことにあるとまで断ずるに足りる疎明資料はなく、被保全権利の疎明がないとして、Xらの申立てを却下した。

その理由は、要旨以下のとおりである。

(1)持株比率低下の目的

XらとY社の5名の取締役とは、A社との経営統合の当否を中核として、Y社の支配権を争う関係にあった。Y社の経営陣には、本件新株発行により、Xらの持株比率を相当程度減少させ、A社との合併のための特別決議が拒否される状況を解消し、Xらとの交渉等を円滑に進める、支配権をめぐる争いにおいて自らを有利な立場に置くとの目的が存在したものと推認される。


(2)資金調達の必要性・合理性

C銀行とのブリッジローン契約に基づく借入金の借換資金については劣後ローン契約によって調達する予定であったが、借入れを受けることができなかったこと、ブリッジローン契約に基づく借入金の弁済期が平成29年12月18日に迫っていることからすると、Y社がその返済資金を用意する必要性は客観的に明らかである。

なお、他の資金調達手段が存在することから直ちに本件新株発行による資金調達の必要性・合理性が失われるわけではない。


(3)本件新株発行の主要な目的

公募増資による新株発行は、第三者割当増資の方法による場合に比して、取締役に反対する株主の支配権を減弱させる確実性は弱いものと考えられることからすると、Y社経営陣は、本件新株発行後、A社との合併を前提とする経営統合の当否について、株主がどのような意向を有しているかを確認することができるまでは、Xらの反対を押し切って、A社との合併承認議案を目的とする臨時株主総会を招集するなどの行動に出る可能性が高いとは認められない。

他方、Y社がブリッジローン契約に基づく借入金の返済資金を要する必要性が高いことは、客観的に明らかであり、そうすると、本件新株発行の主要な目的が、客観的な資金調達の目的ではなく、XらとY社経営陣との間のY社支配権をめぐる実質的な争いにおいて自らを有利な立場に置くとの目的であると断ずるに足りる証拠はなく、他にこれを認めるべき証拠はない。


第4 実務上のポイント

1 本決定の意義

本決定は、会社支配権に争いがある状況下で行われる公募増資について、不公正発行該当性が問題となった初めての裁判例として、今後の同種の事案における先例的判断として重要な意義を有する。


2 主要目的ルールの運用

主要目的ルールの運用において、不公正発行に該当するとする評価根拠事実に該当する不当な目的の存在が推認される、又は否定できないとされる場合、それを覆す評価障害事実としての特に資金調達目的の有無が問題となり、目的が併存する場合には、不当な目的が他の目的に優越する場合に差止め事由があるとする。しかしながら、従来の裁判例では、不当目的達成動機が優越していたとは滅多に認定しない傾向が強い[2]

これに対し、経営権争奪の局面における第三者割当による新株等発行の場合においては、原則として不公正発行に該当するものとする裁判例もある(大阪地決平成29年1月6日金判1516号51頁)。

本決定の事案では、XらとY社経営陣との間には、経営統合を中核として支配権争いがあった事案であるが、第三者割当ではなく、公募による増資が問題となった事案である。公募の場合には、これによる新株主が経営陣側の意向に沿って議決権を行使する保証はなく、むしろ経営陣に反対する株主や第三者も割当を受ける可能性があり、そうでないとしても、経営陣に反対する株主が、公募増資後、市場に売りに出された株式を取得する可能性も否定できないことからすると、第三者割当増資の場合と比較して、経営陣に反対する株主らの支配権を減弱させる確実性は弱い。また、本決定の事案では、経営統合にかかる合併を承認する株主総会が直後に開催される予定ではなかった。

これらの理由から、本決定は、支配権争いの事実を認定したものの、主要目的ルールの厳格な運用を示す判断方法によらず、従来と同様の主要目的ルールの運用を行ったものと理解することができる。


3 資金調達目的

本決定の事案では、Y社から、本決定が資金調達の必要性を認めたブリッジローン契約に基づく借入金の返済資金のほか、資金調達目的であることを基礎づける事情として、計10件の戦略投資の予定があることが主張されていた。

もっとも、これら計10件の戦略投資の予定については、投資の予定があることを裏付ける客観的な資料がないことや現時点において、本件株式発行により将来の一定期間分をまとめて調達する必要性に関する的確な証拠がないことなどを理由に排斥されている。

したがって、今後資金需要があったことを主張する場合には、増資の目的を具体化のうえ、資料によって根拠づけるとともに、増資がなぜこの時期に必要であったのかをできる限り説得的に主張することが望ましい。

また、本決定では、他の資金調達の手段が存在することから直ちに本件新株発行による必要性・合理性が失われるわけではないとされている。かかる判示はいかなる手段をとるかについては経営判断であるため、資金調達の必要性合理性がある以上は、取締役会の判断を尊重する趣旨であると考えられる。

そのため、不公正発行該当性の場面では、資金調達の必要性の有無について主張立証に力点を置くべきであり、仮処分という性質上、迅速性が求められることも併せ鑑みれば、明らかに不合理な資金調達方法を採用しているとの事情がない限りは、主張立証を絞るというのも一つの選択肢であると考えられる。



[1] Y社が平成27年8月6日にC銀行との間で締結した、1700億円を限度額として、弁済日を貸付実行日の1年後とする旨の契約。

[2] 江頭憲治郎「株式会社法(第8版)」802頁(有斐閣・2021)

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