加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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会社法裁判例--非公開会社における新株発行の効力発生日から1年を経過した後に提起された新株発行無効の訴えが,信義則上,所定の提訴期間を徒過して提起したとすることはできず適法であるとされた事例--

非公開会社における新株発行の効力発生日から1年を経過した後に提起された新株発行無効の訴えが,信義則上,所定の提訴期間を徒過して提起したとすることはできず適法であるとされた事例

名古屋地判平成28年9月30日 判時2329号77頁



第1 判決の概要

本件は、XのY1社に係る株主権をめぐるXとY1社との間の関連訴訟が係属中に、Y1社が、従前の発行済株式総数200株のうち180株を保有するXから、会社支配権(経営権)を奪う目的で、Xに対する招集通知を行うことなく600株の新株発行(本件新株発行)を行ったことから、XがY1社に対し本件新株発行の無効等の訴えを提起した事件、及び本件新株発行が無効であることを前提として、その後に行われた株主総会決議の取消を求める訴えを提起した事件の2つの事件が併合された事件である。

本件では、本件新株発行の無効の訴えに係る提訴期間の徒過の有無、本件新株発行の無効の訴えに係る無効事由の有無が争点となった。

本判決は、結論として本件新株発行が無効であると判断して、Xの請求を認めたが、株主総会決議の取消については一部のみを認めた。

(参照条文)

会社法828条(会社の組織に関する行為の無効の訴え)

1 次の各号に掲げる行為の無効は、当該各号に定める期間に、訴えをもってのみ主張することができる。

二 株式会社の成立後における株式の発行 株式の発行の効力が生じた日から6箇月以内(公開会社でない株式会社にあっては、株式の発行の効力が生じた日から1年以内)


第2 事案の概要

1 Xの本件株式に関する取得経緯

Y1社の代表取締役であるY2は、Xに対し、平成12年、Y1社の運転資金に窮して融資を依頼し、その際、XとY2との間で、Y1社の株式の9割である180株をXが、1割である20株をY2が保有することで合意した。なお、当時のY1社における発行済株式総数は200株である。そのため、遅くとも平成14年6月頃までには、Y2からXに対して株式譲渡が行われた。


2 本件株式の移転等

Y2は、平成21年1月、XがY1社の監査役を、Xの実弟が取締役をそれぞれ辞任した旨の登記手続をXに無断で行った。

また、Y2は、同年6月、従前の顧問税理士を解任し、新たな税理士に依頼して、第12期(平成20年7月1日ないし平成21年6月30日)の確定申告書別表2「同族会社の判定に関する明細書」に、発行済株式の総数200株、Y2の保有株式数を200株と記載した。

Y2は、Xに対し、遅くとも平成14年8月から、毎月、Y1社の月次損益計算書、月次貸借対照表を示してY1社の財務内容や営業成績を報告していたが、平成21年6月頃からこれを行わなくなった。また、Y2は、Xに対し、第11期(平成19年7月1日から平成20年6月30日)以降のY1社の確定申告書の写しを交付しなくなり、平成22年11月以降、XからY1社の計算書類等の閲覧を求められても拒否するようになった。


3 本件株式の株主権の存否をめぐる関連訴訟の経緯

Xは、平成23年4月、Y1社に対し、本件株式を有する株主であることの確認を求めた(別件訴訟)。これについて、裁判所は、平成24年3月、Xの請求を認容したところ、その後控訴及び上告等を経て、平成25年7月、最高裁は、上告棄却等の決定をした。


4 本件新株発行について

別件訴訟係属中である平成23年8月、Y1社は株主総会を開催したところ、Xに対して事前通知も株主総会の招集通知も行わないまま、Y2が議長となってY2がY1社の発行済株式200株の全部を保有するものとして、募集株式の上限数を600株とし、募集株式の払込最低金額を1万円とし、会社法199条1項に定める募集事項の決定については取締役会の決定に委任する旨の議案が承認可決された。

その後、Y1社の取締役会では、上記株主総会を踏まえて、普通株式600株を第三者割当の方法により発行し、Y1社の代表取締役であるY2にその全てを割り当てること、当該募集株式の払込金額を1株につき1万円とすること等が承認可決され、Y2は、普通株式600株の引受けを申込み、平成24年6月4日、払込みを行った。

Xは、平成26年6月、Y1社に対し、本件新株発行の無効等の訴えを提起した(甲事件)。


5 本件各決議及びその再決議の存在等

本訴提起後である平成26年9月、Y1社は、Xに対し、招集通知を送付のうえで定時株主総会を開催したところ、Xもこれに参加した。

かかる定時株主総会では、①決算報告書の承認の件、②定款変更の件、③取締役3名選任の件、④監査役1名選任の件、⑤取締役及び監査役の報酬総額の件、⑥退任取締役及び退任監査役に退職慰労金贈呈の件の各議案について、Xの保有株式数が180株、Y2の保有株式数が620株であることを前提として、いずれも可決する旨の決議が行われた(本件各決議)。

これを受けて、Xは、本件各決議の取消等を求める訴えを提起し(乙事件)、乙事件は、甲事件と併合された。

その後、Y1社は、平成27年9月、再び定時株主総会を開催し、Xもこれに参加したところ、Xの保有株式数が180株、Y1社の保有株式数が620株であることを前提として、本件各決議の取消が確定することを停止条件に、決議の性質に反しない限り、本件各決議の日に遡って効力を有することとして、本件各決議を再決議する旨の議案が承認可決された(本件再決議)。本件再決議は、3か月以内にこれに対する取消訴訟等の提起もなく、確定した。


第3 判旨

1 本件新株発行の無効の訴えに係る提訴期間の徒過の有無について

(1)初めに、本判決は、新株発行無効の訴えの提訴期間は株式の発行の効力が生じた日から1年以内であるところ(会828条1項2号かっこ書)、本件では、本件新株発行に係る払込みから1年以上経過した後に新株発行の訴えが提起されていることを指摘する。

(2)そのうえで、本判決は、本件事案における提訴期間の適用に関して信義則に基づいて検討を行った。具体的な検討においては、まず本件株式譲渡の当事者であるY2がXが本件株式を保有することを熟知しながら、Xを株主から排除する目的を有していたと認定し、Xに対して本件新株発行総会決議の招集通知等を行わず、Y2がY1社の全株式を保有するものとして、当該決議を行ったことを指摘する。また、本判決はXの実弟をY1社役員の地位から無断で排斥したことやXに対しY1社の財務内容や営業成績の報告を行わず、第11期以降の確定申告書の写しを交付していないことなどを指摘して、XをY1社の株主から排斥する意図のもと、Xに知られることなく本件新株発行を行うべく、Xがこれを察知する機会を失わせるための隠ぺい工作を繰り返していたものと認められると判示した。

そして、本判決は、本件新株発行の提訴時期に関して、Xが本件新株発行の存在を知った日から1年以内に本件新株発行の無効の訴えを提起していることから、訴訟提起が不当に遅延したとはいえないことも考慮し、信義則上、Xが本件新株発行の無効の訴えを所定の提訴期間を徒過して提起したとすることはできず、当該訴えは、適法であると解するのが相当であると判示した。


 本件新株発行の無効の訴えに係る無効事由の有無について

まず、本判決は、最判平成24年4月24日民集66巻6号2908頁を引用し、公開会社ではない会社において、株主総会の特別決議を経ないまま株主割当以外の方法による募集株式の発行がされた場合、その発行手続には、重大な法令違反があり、この瑕疵は上記株式発行の無効原因となると解するのが相当であると判示した。

そのうえで、本判決は、本件株主総会当時、発行済株式総数200株のうちXが180株、Y2が20株を有していたにもかかわらず、発行済株式総数の9割の株式を保有していたXに対する招集通知がされることなく、Y2が全株式を保有していたものとして行われたものであるとの事情に照らして、本件株主総会が法律上存在したとはいえない旨判示し、本件新株発行の無効事由があると判断した。


3 本件各決議に係る取消の訴えにおける訴えの利益について

本件の事案では、本件各決議の後に本件再決議が行われており、このことから本件各決議の取消の訴えについて訴えの利益を欠くことになるのではないかが問題となった。

本判決は、最判平成4年10月29日民集46巻7号2580頁を参照し、「本件再決議に付された遡及効を認めることが本件各決議の性質に反しない限り、仮に、本件各決議が取り消されたとしても、本件再決議によって本件各決議と同一の効果が生ずるため、本件各決議の取消の訴えを求める実益はない」と指摘して、この場合には取消を求める訴えの利益が失われる旨判示した。

そのうえで、本件各決議のうち、②定款変更、③取締役の選任、④監査役の選任については法的安定性が害されることを理由に、再決議の遡及効を否定したが、①決算報告書の承認、⑤役員報酬総額の決定、及び⑥退職慰労金の贈呈については、再決議の遡及効を認め、その結果、①決算報告書の承認、⑤役員報酬総額の決定及び⑥退職慰労金の贈呈については訴えの利益が失われ、②定款変更、③取締役の選任及び④監査役の選任については、その決議の取消を求める実益があるため、訴えの利益は失われない旨判示した。

もっとも、本判決では、②定款変更の決議については取消事由を認めたが、③取締役の選任及び④監査役の選任については、取消事由を認めていない。


第4 実務上のポイント

1 本判決の意義

本判決は、信義則を根拠に提訴期間を経過した後に提起された新株発行の無効を認めたものとして重要な意義がある。


2 提訴期間の徒過の点について

本件のように、招集通知が発せられないことなどにより、株主総会決議の有無自体そもそも認識していなかった株主が、その認識を欠いたまま、提訴期間が徒過してしまうケースが生じる場合がある。

この点、判例では、新株発行差止めの訴えの係属中に、会社が差止めの仮処分に違反して新株発行を行い、無効の訴えの提訴期間が経過した後にその事実を主張して訴えの却下を求めたのに対し、原告株主が新株発行無効の訴えに訴えの変更を行った事例において、新株発行無効の訴えについては、新株発行差止請求の訴え提起の時に提起されたものと認めたものがある(最判平成5年12月16日民集47巻10号5423頁)。

これに対し、本判決以前の裁判例では、株主が事前に差止訴訟を提起しておらず、無効の訴えの提訴期間が経過してから初めて新株発行無効の訴えを提起した場合には、法律関係の安定の要請から、株主が瑕疵のある新株発行について知る機会がなかった場合であっても訴えは不適法であるとしていた(東京高判昭和61年8月21日判時1208号123頁)。

本判決は、信義則を理由に提訴期間経過後の新株発行無効の訴えを適法としたものであり、提訴期間を経過した後に新株発行の瑕疵を争うべき事案の場合には参考とすべき裁判例である。

信義則に基づく判断の中では、Y2がXを排除する目的を有しており、そのために敢えてX及びXの関係者をY1社の役員から排除していることや確定申告書を敢えて交付しないなどしてXをして株主構成その他Y1社の内部事情を知ることを妨げたという事情が考慮されている。また、Xが新株発行を知ってから遅滞なく新株発行無効の訴えを提起していることも検討されており、類似する事案処理に当たっては、これらの要素に従って丹念に主張立証を行うことが求められるであろう。


3 本件新株発行の無効について

株式譲受人の取引安全の要請、及び拡大された規模で営業活動を開始した後に資金調達が無効とされる場合に生ずる混乱への懸念から、新株発行の無効事由については限定的に考えられている[1]

もっとも、全株式譲渡制限会社の株主は、持株比率に関心があることから、譲渡制限株式である募集株式の発行等に必要な株主総会決議に瑕疵があることは重大な法令違反であるとして、無効事由となると解されており[2]、判例もこの立場である(最判平成24年4月24日民集66巻6号2908頁)。

本判決も、当該判例に言及し、本件新株発行に係る株主総会については、9割の株式を有していたXに対する本件新株発行に係る株主総会の招集通知がされることなく、Y2がY1社の全株式を有するものとして行われたものであり、手続的瑕疵が著しいことを指摘して、新株発行の無効事由があるとの結論を導いている。


4 訴えの利益について

本件では、本件各決議の取消の訴えに関して、本件再決議があることによって、訴えの利益を欠くのではないかが問題となった。

この点、同様に再決議があることによって原決議の取消の訴えに係る訴えの利益が問題となった最判平成4年10月29日民集46巻7号2580頁は、仮に第1の決議に取消事由があるとしてこれを取り消したとしても、その判決の確定により、第2の決議が第1の決議に代わってその効力を有することになるから、第1の決議の取消を求める実益はなく、他に訴えの利益を肯定すべき特別の事情もないとして、訴えの利益を否定している。

本判決は、法的安定性の見地から、決議の種類に応じて、遡及効を認めるものとそうでないものとに分けて検討を加えている。これは、前掲最判平成4年10月29日が特別の事情によって訴えの利益を認める余地を認めていることを受けて、決議の内容ごとに遡及効が認められるか否かという見地から、同判決が述べる特別の事情の有無について検討を加えているものと解される[3]

同様に、今後訴えの利益が問題となる事案では、遡及効を認めることができる決議であるかを検討する必要があると考えられる。



[1] 江頭憲治郎『株式会社法(第7版)』806頁(有斐閣・2021)

[2] 前掲注1・806頁及び807頁

[3] 大内俊身「判解」最判解民事篇平成4年度437頁(1995)でも再決議に遡及効を付与することができるか否かが決議を取り消す実益の有無を検討する際の中心となり、本判決(前掲最判平成4年10月29日)が「訴えの利益を肯定すべき特別の事情」といて検討したのは、その点にあるものと考えられると指摘されている(同・446頁)。

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