加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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「AIツール導入にあたり企業が策定すべきAIポリシーとは」② 2種類のAIポリシーの必要性

1. AIポリシーの意義

AIの導入が急速に進む中で、企業が問われているのは「AIを使うかどうか」ではなく、「AIをどのように使うのか」です。生成AIを含むAI技術は、業務の効率化や新たな付加価値創出の源泉となる一方で、その利用には常にリスクが伴います。出力の誤用や情報漏えい、著作権侵害、そしてAIの判断過程が不透明であることによる説明責任の欠如など、これまで想定されなかった種類の問題が企業活動の中に入り込みつつあります。

このような状況の中で、AIを安全かつ適正に活用し、社会からの信頼を得るために不可欠なのが「AIポリシー」の整備です。AIポリシーとは、企業がAIをどのような原則と方針に基づいて活用し、管理していくのかを定める文書であり、その整備は今やAI導入企業の責任の一部といえます。

AIの利活用が拡大するほど、社会や取引先からは「その利用にどのようなルールがあるのか」が問われるようになっています。単なる技術導入ではなく、倫理的・法的リスクを踏まえた運用方針を社内外に示すことが求められているのです。

2. AIポリシーの目的・機能

AIポリシーは、目的と機能の違いから大きく二つに分けられます。

一つは、企業が社会に対して責任あるAI利用を約束するための「対外的AIポリシー」です。もう一つは、従業員が実務上どのようにAIを利用すべきかを定めた「社内的AIポリシー」です。この二層を整備することで、企業は外に対しては倫理的姿勢を明確にし、内に対しては効率的な利用方法を明示するとともに、リスクを統制するという、信頼と管理の両立を図ることができます。

まず、対外的AIポリシーは、企業がAI活用において何を重視しているかを社会に向けて示す宣言です。たとえば、NECグループは「AIと人権に関するポリシー」において、「AIを人間の尊厳を守る技術として社会に実装する」と明記しています。ソフトバンクは「AI倫理ポリシー」で透明性や公平性、説明責任を掲げ、ソニーも「責任あるAIの取り組み」として、人間中心の視点と倫理性を強調しています。これらは、単なる理念表明にとどまらず、企業がどのような価値観のもとにAIを用いるのかを明確にし、取引先・顧客・株主といったステークホルダーに対する信頼の基盤を築く役割を果たしています。今後、AIが製品・サービスの中核に組み込まれるにつれ、この「社会に対する姿勢表明」の重要性はさらに高まるものと思われます。

一方、社内的AIポリシーは、日々の業務でAIをどのように使うかを具体的に定める内部指針・ガイドラインです。ここでの目的は、実際に利用する従業員に対し、効果的なAIの利用方法を示すとともに、誤用や事故を防ぐことにあります。多くの企業では、生成AIを利用する際に「機密情報や個人情報を入力しない」「出力をそのまま外部に提供しない」「AIが生成した内容を必ず人間が確認する」といったルールを設けています。こうした規定は、AIを扱う現場で起こりうるリスクを防ぐ役割を果たしています。特に生成AIは、利便性が高い反面、出力内容の正確性や権利侵害リスクを管理しなければ、企業の信頼や法的地位を損なう可能性があるため、社内ルールの整備は不可欠です。

3. AIポリシー導入の必要性

AIポリシーが未整備のままAIの利用が広がれば、リスクは急速に高まります。まず法的な観点では、AI出力をめぐる著作権侵害や個人情報保護違反が生じるおそれがあることは言うまでもありません。また、これらの法的問題に直面した際、企業の内部統制の観点から、「適切な管理体制を構築していなかった」と判断される可能性があります。また、外部への信頼という観点では、方針がないこと自体が「透明性を欠く」とみなされ、企業評価や取引関係に悪影響を及ぼすこともあります。

さらに内部的には、部署ごとに異なる判断でAIが使われることで、情報漏えいや誤出力の発生リスクが高まるといった運用上の問題も避けられません。AIポリシーを持たないことは、もはや単なる準備不足ではなく、「ガバナンス不在」として企業全体のリスクに直結する時代に入っています。そのため、AIポリシーは理念としての対外的ポリシーと運用面での社内的ポリシーの双方を整備する必要があります。前者は社会に対する説明責任を果たすための「表明」であり、後者は実際に事故を防ぐための「仕組み」です。両者を併せて設計することで、企業は「外への信頼確保」と「内への統制強化」を同時に実現できます。この二層構造こそが、AIガバナンスの中核をなす仕組みであるのです。

 そこで、次の記事では、まず対外的なAIポリシーの導入にあたり参考にすべき、総務省・経済産業省の『AI事業者ガイドライン』について確認していくことにします。

加藤&パートナーズ法律事務所(大阪市北区西天満)では、関西を中心に企業法務、企業の内部統制構築(AIガバナンス)、AIポリシー・AIガイドライン等のAIツール導入・利用に関する社内規程整備のご相談・ご依頼をお受けしております。

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