加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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会社法裁判例-取締役会の招集通知の欠缺を理由とする招集手続の瑕疵を認めたものの、決議の結果に影響がないと認めるべき特段の事情があるとして取締役会決議は有効であると認めた事例-

取締役会の招集通知の欠缺を理由とする招集手続の瑕疵を認めたものの、決議の結果に影響がないと認めるべき特段の事情があるとして取締役会決議は有効であると認めた事例

(ロッテホールディングス取締役会決議無効確認等請求事件)

東京高判平成291115日 金判153563

原審:東京地判平成29年4月13日 金判153556

第1 判決の概要

本件は、Y社の代表取締役であったXが、全取締役及び監査役のY社社内において割り当てられている各メールアドレス宛に、臨時取締役会を開催すること等が記載された電子メール(本件メール)を送信したのでは、適法な招集通知がされたということはできず、当該取締役会(本件取締役会)においてなされたXを代表取締役から解職する旨の取締役会決議(本件決議)は無効であると主張して、Y社に対し、本件決議の無効確認を求めたものである。

本件では、①Y社社内においてXに割り当てられたメールアドレスに、臨時株主総会を開催すること等を記載した本件メールを送信したことによって、Xに対する招集通知がされたとして、本件取締役会の招集手続に法令違反の瑕疵がないと認められるかや、②招集手続に瑕疵があるとしても、Xが取締役会に出席してもなお決議の結果に影響がないと認めるべき特段の事情が認められ、本件決議が有効であるかが争点となった。

本判決は、①Xに対する招集通知がされていないとして、本件取締役会の招集手続に法令違反の瑕疵があることを認めたものの、本件決議の効力については、②当該瑕疵が、本件決議の結果に影響がないと認めるべき特段の事情があるとして、有効であると判示した。

(参照条文)

会社法368条(招集手続)

1 取締役会を招集する者は、取締役会の日の一週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前までに、各取締役(監査役設置会社にあっては、各取締役及び各監査役)に対してその通知を発しなければならない。



第2 事案の概要

Xは、ロッテグループの創業者であり、Y社の代表取締役であり、ロッテグループ内部では総括会長と呼ばれていた。なお、Y社には、他の代表取締役としてAもいた。

X及びその子Bを含む親族ら(Xら)は、平成27727日午後0時頃、Y社本社を訪れ、役員らと面談後に、Y社の社内手続や会社法上の手続(取締役会決議、株主総会決議等)を経ていないにもかかわらず、Y社の全従業員がアクセス可能な社内ネット上に、Xを除くY社の取締役らがいずれも解任され、Bが執行役員社長に選任されたこと等を内容とする役員人事が発令された旨掲載した(本件人事発令)。

Xらは、同日午後5時40分頃、Y社本社から立ち去ったところ、その後、Xを除くY社の取締役らは、このようなXらの行動への対応策を協議した。その結果、Xを代表取締役から解職することに協議の出席者全員が賛成し、そのための臨時取締役会を開催することとした。そして、同日午後1123分、Xを含む全取締役及び監査役のY社社内において割り当てられている各メールアドレスにあてて、同月28日午前9時30分からY社本社の役員会議室において、臨時株主総会を開催すること等を記載した本件メールを送信した。

その後、同日午前9時30分からは、本件取締役会が開催され、Xを除く取締役6名及び監査役が出席し、Xを代表取締役から解職する議案が、棄権した1名を除く5名の取締役の賛成により可決され、本件決議が成立した。なお、棄権した取締役Cは、自身の父親であるXを解職することに賛成したことが報道された場合の影響等を考慮して、棄権したものであった。

原審は、Xに対する招集通知がされていないことを理由に、本件取締役会の招集手続に法令違反の瑕疵があることを認めたものの、当該瑕疵が、本件決議の結果に影響がないと認めるべき特段の事情があるとして、本件決議は有効であるとした。

第3 判旨

1 ①の争点について

  本判決は、「取締役会の招集通知は、各取締役に到達することを要するものと解されるところ、招集通知が各取締役に到達したというためには、当該通知が当該取締役に実際に了知されることまでは要しないものの、当該取締役の了知可能な状態に置かれること(いわゆる支配圏内に置かれること)は要する」と判示した。

  そして、Xが自らパソコンを使用しないこと、XのパソコンはY社の秘書室で管理されていたこと、Y社はXに割り当てられたメールアドレスに電子メールを送信したことがないこと、上記秘書室では同アドレスの受信状況を確認していなかったこと等から、本件メールが上記アドレスに係るメールサーバに記録されたことをもって、Xの了知可能な状態に置かれたということはできないと判示した。

また、本件メールの送信から取締役会開会までの間隔が非常に短いことや深夜に本件メールが送信されたことから、本件メールを確認して当該会議への対応を検討するための時間的余裕がほとんどなかったことを認定し、実質的に見ても、Xに対し本件取締役会の招集通知がされたと評価することは困難であるとも判示した。

  その上で、本件取締役会についてXに対する招集通知がされたということができず、その招集手続には法令違反の瑕疵があることを認めた。

2 ②の争点について

  本判決は、最判昭和4412月2日民集23122396にしたがい、「取締役会の開催に当たり、取締役の一部の者に対する招集通知を欠くことにより、その招集手続に瑕疵があるときは、特段の事情のないかぎり、上記瑕疵のある招集手続に基づいて開かれた取締役会の決議は無効になると解すべきであるが、この場合においても、その取締役が出席してもなお決議の結果に影響がないと認めるべき特段の事情があるときは、上記瑕疵は決議の効力に影響がないものとして、決議は有効になる」との判断基準を示した。

  そして、ロッテグループの創業者であり、Y社における総括会長というXの地位や、Y社の代表取締役であるAが、月一回Xに定例報告をしており、取締役会に上程される議案については事前にXが上程を承認する決議を行っていたといったXに対するY社の代表取締役の対応等から、Xが本件取締役会当時、Y社の取締役会において、相当に強い影響力を有していたことは認めた。

しかしながら、X以外の取締役が全員出席した取締役会において、棄権したCを除く全員の賛成をもって本件決議が成立していること、X以外の取締役がXを代表取締役から解職するとの意見を形成するに至った状況、及び本件決議の前に適法性を欠く取締役の解任や就任が掲載された本件人事発令がなされたことから、代表取締役の判断能力が低下し、そのような状態を親族が利用していると判断することもやむを得ない状況であった等の本件決議に至るまでの事情から、Xを除く取締役らが形成していたXを解職するという意見は、相応の根拠に基づく強固なものであったと判示した。

その上で、XがY社の取締役会において相当に強い影響力を有していたことなどを考慮しても、Xが本件取締役に出席してもなお本件決議の結果に影響がないと認めるべき特段の事情があるとして、本件決議は有効であると判示した。

第4 実務上のポイント

1 ①の争点について

(1)本判決は、電子メールによる取締役会の招集通知につき、取締役に対して招集通知がなされたといえるのか否かを判示したものであり、今後の実務に対する影響は少なくない。

(2)本判決は、招集通知が各取締役に到達したというためには、当該通知が当該取締役に実際に了知されることまでは要しないが、当該取締役の了知可能な状態に置かれること(いわゆる支配圏内に置かれること)が必要であるとの見地から、招集通知がXに到達したか否かを判断している。具体的には、取締役によるパソコンの操作の有無や会社側が割り当てたメールアドレスへの電子メールの送受信の確認状況、取締役に支給されたパソコンの管理状況といった事情から、招集通知が了知可能な状態に置かれたか否かの判断を行っている。

このような事情は、同種事案において、電子メールによる招集通知がなされたか否かを判断する際にも重要な要素となると思われる。

(3)また、本判決は、電子メールが送信されてから取締役会が開催されるまでの間隔や電子メールが送信された時間から、電子メールを確認して取締役会への対応を検討するための時間的余裕があったか否かについても検討している。そのため、今後の訴訟では、取締役会への対応を検討するだけの時間的余裕がない場合は、招集通知がなされていないとの判断がなされることも考えられる。

  そこで、電子メールに限らず招集通知を発送する際には、取締役会への対応を検討するだけの時間的余裕がある時期に行うよう注意すべきである。

2 ②の争点について

(1)本判決の事案は、最判昭和4412月2日民集23122396で示された判断基準に基づいて、取締役会における代表取締役の解職決議の有効性を判断している。

  そして、欠席取締役の取締役会における強い影響力を認めたものの、①取締役会における本件決議への各取締役賛成状況、②本件決議に至った欠席取締役を除く全取締役の意見形成の状況、③本件決議に至るまでの事情から、出席取締役が形成していた解職の意見は、相応の根拠に基づく強固なものであったとして、特段の事情を認めている。

(2)本判決は事例判断であるが、欠席取締役が他の取締役に対して強い影響力を有することはあり得る。このような事案では、出席取締役や賛成取締役の数だけ見れば、容易に決議の結果は変わらないように思われる場合であっても、かかる事情だけで直ちに決議の結果に影響を及ぼさないと認めるべき特段の事情が認められるわけではないと思われる。そのため、それ以外の事情からも特段の事情を主張立証していくこととなる。その際には本判決が考慮した、決議に至るまでの取締役の意見形成の状況や本件決議に至るまでの事情が重要となることもあると思われる。

したがって、実務上欠席取締役が他の取締役に対して強い影響力を有するような事案において決議の有効性が問題となった場合は、決議に至る過程や各取締役が決議において賛成の意思決定をするに至った理由について、聞き取りや客観的な証拠から把握した上で、特段の事情の有無を検討すべきである。

弁護士 太井 徹

(参照条文)

会社法368条(招集手続)

1 取締役会を招集する者は、取締役会の日の一週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前までに、各取締役(監査役設置会社にあっては、各取締役及び各監査役)に対してその通知を発しなければならない。

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