加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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会社法裁判例―株券発行会社において、株券の呈示なくして株式に係る名義書換請求が認められた事例―

株券発行会社において、株券の呈示なくして株式に係る名義書換請求が認められた事例

東京高判平成30年7月11日 金判1554号8頁

原審:東京地判平成30年2月14日 金判1554号14頁

第1 判決の概要

本判決は、Ⅹ1ないしⅩ4(Xら)が、Y1社の株主であったA及びその妻のB、その間の長男Cに相次相続が開始したとして、Cの妻であるX1、CとX1との子であるX2ないしX4が、Y1社に対し、名義書換請求を、AとBとの間の子であるY2及びY3に対し、株主であることの確認を求めた事案である。

本件では、株券発行会社において、株券の呈示なくして株式に係る名義書換請求を行うことができるかどうかが問題となったところ、本判決はこれを認めた。

(参照条文)

会社法130条(株式の譲渡の対抗要件)

1 株式の譲渡は、その株式を取得した者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載し、又は記録しなければ、株式会社その他の第三者に対抗することができない。

2 株券発行会社における前項の規定の適用については、同項中「株式会社その他の第三者」とあるのは、「株式会社」とする。

同法133条(株主の請求による株主名簿記載事項の記載又は記録)

1 株式を当該株式を発行した株式会社以外の者から取得した者(当該株式会社を除く。以下この節において「株式取得者」という。)は、当該株式会社に対し、当該株式に係る株主名簿記載事項を株主名簿に記載し、又は記録することを請求することができる。

2 前項の規定による請求は、利害関係人の利益を害するおそれがないものとして法務省令で定める場合を除き、その取得した株式の株主として株主名簿に記載され、若しくは記録された者又はその相続人その他の一般承継人と共同してしなければならない。

同法施行規則22条(株主名簿記載事項の記載等の請求)

1 法第133条第2項に規定する法務省令で定める場合は、次に掲げる場合とする。

2 前項の規定にかかわらず、株式会社が株券発行会社である場合には、法第133条第2項に規定する法務省令で定める場合は、次に掲げる場合とする。

一 株式取得者が株券を呈示して請求をした場合

会社法215条(株券の発行)

1 株券発行会社は、株式を発行した日以降遅滞なく、当該株式に係る株券を発行しなければならない。

4 前3項の規定にかかわらず、公開会社でない株券発行会社は、株主から請求がある時までは、これらの規定の株券を発行しないことができる。


第2 事案の概要

Y1社の株主であったAが死亡し、相続人であったB、C、Y2及びY3は、Aの全財産をBが取得することで合意する旨記載された遺産分割協議書(本件遺産分割協議書)を作成した。

その後Bが死亡し、Bが生前に作成した遺言書(本件遺言書)には、遺産のすべてについてC及びX1に相続させる旨記載されていた。

Cが死亡し、相続人であるXらは、本件遺産分割協議書及び本件遺言書に沿ってAが生前有していた株式(本件株式)が順次相続により移転したことを前提として、法定相続分に応じて案分取得する内容の遺産分割協議書を作成した。

その後、Xらは、Y1社に対して株主名簿の名義書換請求を、Y2及びY3に対して株主であることの確認をそれぞれ求めて本訴を提起した。

原審は、Xらの請求を認容したため、Y1社、Y2及びY3は控訴した。


第3 判旨

本判決は、Y1社が株券発行会社であるものの、昭和27年2月7日に設立されて以降、株券が発行されていないことを指摘し、「既に株券発行に必要な合理的期間を優に経過していることからすれば、株式の取得者は、株券の交付なくして株式の取得をY1社に主張でき、株券を呈示しなくとも、実質的権利を証明することにより名義書換を請求することができるものと解される」と判示した第1審判決を引用し、XらのY1社に対する名義書換請求を認めた。


第4 実務上のポイント

1 本判決の意義

本判決は、株券発行会社において株券の呈示がなくとも名義書換請求を認めたものとして意義がある。


2 株券発行会社における株券呈示

会社法は、株式の譲渡について、株主名簿について記載がなければその譲渡を会社に対して対抗することができない旨定めているところ(会130条)、株券発行会社における名義書換については、株式名簿に記載された者やその者からの相続人その他の一般承継人と共同して行うのでない限り、株券の呈示が必要となる(会133条2項、会施規22条)。

そのため、株券発行会社であるのにもかかわらず株券が発行されていない場合には、会社に対して株券を発行するよう求め(会215条4項)、そのうえで株券を呈示して名義書換を行い、その後に株式の取得を会社に対して対抗することができることになるが、会社が株券の発行を不当に拒絶したケースなどの場合にあっては、譲り受けた株式の権利行使ができない不都合な結果となる。

この点に関連して、株券の発行を遅滞し、信義則に照らしても株式の譲渡の効力を否定することが相当でない場合には、株券発行前であることを理由として、譲渡の効力を否定することができないとする最判昭和47年11月8日民集26巻9号1489頁がある。

本判決は、信義則に言及していないが、株券発行に必要な期間が既に経過しているという事情に言及していることからすると、本件のような一般承継でも会社に対抗するためには名義書換が必要であることを前提として、上記最高裁判決に倣い、信義則を媒介として、株券呈示なくして名義書換請求を認めたものと考えられる。


3 今後の対応

株券発行会社であるが、株券を発行していない会社の立場では、株式の取得者から名義書換請求がされたときには、本判決が株券の交付なくして名義書換請求を行うことができる旨判断していることに鑑み、株券の呈示がなくとも、名義書換請求を認めるべきであるか否かを検討する必要がある。

その際には、株券の占有者に関する株主権の推定規定(会131条1項)が働かないことに留意し、名義書換請求者に対して資料の徴求などを行い、株主権の所在について調査を尽くす必要がある。

本判決の事案のように、特定の株主の相続人から名義書換請求があったような事案の場合には、当該相続人が相続人であることがわかる戸籍のほか、遺言書や遺産分割協議書等の各資料について提出させるなどの対応が必要である。

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