加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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会社法裁判例-株主総会における株主提案、同理由説明及び事前質問を行うために必要性が認められるとして、株主による取締役会議事録の閲覧謄写を許可した事例-

株主総会における株主提案、同理由説明及び事前質問を行うために必要性が認められるとして、株主による取締役会議事録の閲覧謄写を許可した事例

大阪高決平成25年11月8日 判時2214号105頁

第1 決定の概要

本件は、Y社の株主であるXが、会社法371条2項、3項に基づき、Y社の取締役会議事録のうち、第85期事業年度から第90期事業年度における原子力発電所の平成23年3月11日以降の再稼働について協議又は決定した部分並びに原子力事業を全廃又は減少させることの可否及び方法について協議した部分(本件議事録各部分)の閲覧及び謄写(閲覧等)の許可申立てをしたものである。

本件の争点は、本件議事録各部分の閲覧等が、①株主の権利を行使するために必要といえるか、及び②閲覧等によりY社に著しい損害が生じるか否かである。

本判決は、株主としての権利行使に関して、本件議事録各部分を閲覧等する必要性を認め、かつ閲覧等によりY社に著しい損害を及ぼすおそれは認められないとして、Xによる閲覧等を許可した。

(参照条文)

会社法369条(取締役会の決議)

3 取締役会の議事については、法務省令で定めるところにより、議事録を作成し、議事録が書面をもって作成されているときは、出席した取締役及び監査役は、これに署名し、又は記名押印しなければならない。

同法371条(議事録等)

1 取締役会設置会社は、取締役会の日・・・から十年間、第369条第3項の議事録又は前条の意思表示を記載し、若しくは記載した書面若しくは電磁的記録(以下この条において「議事録等」という。)をその本店に備え置かなければならない。

2 株主は、その権利を行使するため必要があるときは、株式会社の営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。

一 前項の議事録等が書面をもって作成されているときは、当該書面の閲覧又は謄写の請求

二 前項の議事録等が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求

3 監査役設置会社、監査等委員会設置会社又は指名委員会等設置会社における前項の規定の適用については、同項中「株式会社の営業時間内は、いつでも」とあるのは、「裁判所の許可を得て」とする。

6 裁判所は、第3項において読み替えて適用する第2項各号に掲げる請求又は第4項(前項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の請求に係る閲覧又は謄写をすることにより、当該取締役会設置会社又はその親会社若しくは子会社に著しい損害を及ぼすおそれがあると認めるときは、第3項において読み替えて適用する第2項の許可又は第4項の許可をすることができない。



第2 事案の概要

Y社は、電気事業等を目的とする株式会社であり、監査役設置会社である。

Xは、地方公共団体であり、Y社の発行済株式総数の約9%有する株主である。

Xは、平成25年4月に、Y社に対し、定款一部変更の件及び取締役選任の件を、同年6月開催の株主総会の議案とする旨の請求をした(前回株主提案)。なお、定款一部変更の件の主要なものは、原子力発電の代替電力の確保、事業形態の革新、脱原発と安全性の確保、原子力発電に関する安全文化の熟成の各事項(本件原発関連各事項)に関し、Y社の基本的な営業方針を定める内容の条項を定款に追加する議案である。

その後、Xは、本件議事録各部分の取締役会議事録の閲覧等の許可申立てをしたところ、原審は、同年6月19日に、これを認める決定をした。

これに対し、Y社は、これを不服として抗告。

なお、原審決定後の同月26日に開催されたY社の株主総会では、前回株主提案に関する議案が否決された。そのため、抗告審においてXは、次期(第90期事業年後)の株主総会(本件株主総会)において、本件原発関連各事項に関し、株主提案(本件株主提案)を行う予定であり、そのため等に必要であるとして、原審において許可申立てを行っていなかった第90期事業年度における取締役会の本件議事録各部分の閲覧等の許可申立てを追加した。



第3 決定の要旨

1 株主としての権利行使の必要性

本判決は、以下のような判示内容等から、本件議事録各部分の閲覧等が、Xの株主としての権利行使に関し、必要性があることを認めた。

(1)Xは、次期事業年度において提出すべき本件株主提案の具体的内容を確定しているとまでは認められないが、前回株主提案と同様に、本件株主提案についても、本件原発関連各事項について、現時点におけるY社の基本的認識又は姿勢には重大な問題があると考え、これらを是正させることを目的として、定款一部変更の件及び取締役選任の件を議題とする株主提案をすることを検討しているものと認められる。そして、これらの議題が株主総会の決議対象事項であることは明らかである。

かかる事情等によれば、Xが、本件原発関連各事項に関する本件株主提案、同理由説明及び事前説明を行うことが、株主としての権利行使の必要性に基づくものであることは明らかである。

(2)本件株主提案を行う目的からすると、Y社における本件原発関連各事項に関する基本的認識及び姿勢がどのような経緯で形成されてきたのかを把握するとともに、その当否について分析する必要があり、そのためには、Y社取締役会における集約意見を検討するだけでは不十分であり、本件議事録各部分の閲覧・謄写をする必要性がある。

(3)Y社が公表又は開示した取締役会における議論内容は、取締役会における議論経過及び内容そのものではなく、最終的に集約された内容にすぎないのであるから、本件議事録各部分に基づきY社取締役会における過去の議論経過及び内容が明らかになることにより、Xは、本件株主提案、同理由説明及び事前説明について十分に検討することが可能となることから、本件株主提案に関連する事項について、Y社が情報を公表又は開示していることを考慮しても、本件議事録各部分を閲覧及び謄写する必要性があるものと認めることができる。

2 著しい損害を及ぼすおそれ

本判決は、以下のような判示をして、Xによる閲覧等により、Y社に著しい損害を及ぼすおそれがないとした。

(1)①Xが閲覧等する部分が、本件議事録各部分に限られていること、②Xには、前項記載のように株主としての権利行使のために、本件議事録各部分の閲覧等をする必要性が認められること、③X代理人がY社取締役会議事録を正当な理由なく外部に公表しないことを誓約する旨の書面を提出していることを考慮すると、Xが本件議事録各部分を目的外使用するものとは認められないし、相手方が本件議事録各部分を公表することにより、Y社に著しい損害を及ぼすおそれがあるものと認めることはできない。

(2)上記書面に記載された「正当な理由」とは、X及びX代理人が、本件議事録各部分を、株主としての権利行使という本来の目的に従い使用する過程において、必要な範囲で公表する場合のことを想定したものであり、これをもって、Y社に著しい損害を及ぼすおそれがあると認められない。

(3)Y社は、取締役会議事録は本来内部文書であり、目的外使用や公表により、Y社に著しい損害を及ぼすおそれがあると主張するが、会社法371条の規定内容からは、株主の権利行使の必要性がある以上、裁判所は、原則として、取締役会議事録の閲覧等を許可すべきことは明らかである。また、上記(1)記載のように、Xが本件議事録各部分を目的外使用するものとは認められず、Xがこれを公表することによりY社に著しい損害を及ぼすおそれがあることも認められない。



第4 実務上のポイント

1 本判決の実務における影響力

本判決は、地方公共団体が株主として取締役会議事録の閲覧等を求めている点や、原子力発電の是非が背景となって株主提案権等を行使しようとしている点で特殊性を有することは否定できない。

しかしながら、株主提案権を行使することとの関係で、取締役会議事録の閲覧等を求めることは、一般的には十分あり得ることであり、その際には、本判決の認定判断は参考になることから、裁判実務における影響力は否定できないと思われる。

2 株主としての権利の行使のための必要性に関するポイント

本判決は、その判示内容から、取締役会議事録の閲覧等が許可されるためには、株主の権利行使のためになされていること、及びその権利行使のため必要な範囲で許可が求められていることを要求しているものと思われる。そして、裁判実務において、このような判断手法が、同種事案においてとられることは十分に考えられるところである。

そのため、裁判において、閲覧等を求める株主の側としては、株主の権利行使を目的として閲覧等を行っていることや、株主の権利行使のためには求めている取締役会議事録の閲覧等が必要であることを、裁判所に認めてもらうことを意識する必要がある。

また、本判決は、会社が公表していた取締役会の議論内容は、取締役会における議論経過及び内容そのものではなく、最終的に集約された内容にすぎず、それだけでは、株主としての権利の行使のために不十分であることを理由に、株主による取締役会議事録の閲覧等を許可している。これは裏を返せば、会社の側から、既に株主としての権利の行使のために十分な資料を開示されていれば、更に取締役会議事録の閲覧等をすることまでは認められないというようにも読める。そのため、取締役会議事録の閲覧等を求められた会社側としては、既に公表されている資料により、株主としての権利の行使が十分に可能である場合であれば、必要性に欠けるとして、閲覧等をさせないことを主張することも考えられる。

3 著しい損害を及ぼすおそれに関するポイント

本判決は、会社に著しい損害を及ぼすおそれがないことを基礎付ける事情として、株主側から取締役会議事録を正当な理由なく外部に公表しないことを制約する旨の書面が提出されていることを挙げている。

閲覧等が認められるためには、このような書面を提出することが必須であるかどうかについては、議論の余地があるとは思われるものの、閲覧等を求める株主側としては、このような書面を会社に提出することが、許可されるための重要な事情となり得ることを念頭においた対応をすべきである。

一方、会社側としても、株主側から閲覧等の請求があった場合には、これを認める条件として、上記のような書面の提出を求めることも、対応策の一つとして考えられる。

弁護士 太井 徹

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