加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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会社法裁判例-取締役会設置会社である非公開会社における、取締役会の決議によるほか株主総会の決議によっても代表取締役を定めることができる旨の定款の定めの効力を肯定した事例-

取締役会設置会社である非公開会社における、取締役会の決議によるほか株主総会の決議によっても代表取締役を定めることができる旨の定款の定めの効力を肯定した事例
最決平成29年2月21日 民集71巻2号195頁
原審:東京高決平成28年3月10日 民集71巻2号217頁〈参考収録〉
原々審:千葉地木更津支決平成28年1月13日 民集71巻2号199頁〈参考収録〉

第1 決定の概要
 本件は取締役会設置会社である非公開会社Y1社の代表取締役であったXが、Y1社株主総会におけるY2をY1の取締役に選任する旨の決議及び代表取締役に定める旨の決議(本件決議)は無効であると主張し、Yらに対し、Y2の取締役兼代表取締役の職務執行停止及び職務代行者選任の仮処分命令の申立てをした事案である。
 本件では、原審以降、取締役会設置会社である非公開会社において、取締役会の決議によるほか、株主総会の決議によっても代表取締役を定めることができる旨の定款の定め(本件定め)の有効性が争点となった。
 これに対し、本決定は、会社法において定款で定める事項の内容を制限する明文規定がないこと、代表取締役の選定及び解職の権限を取締役会の決議によるほか株主総会の決議によっても代表取締役を定めることができるとしても、取締役会の監督権限の実行性は失われないことを理由として、本件定めの有効性を認めた。
(参照条文)
会社法295条(株主総会の権限)
1 株主総会は、この法律に規定する事項及び株式会社の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項について決議することができる。
2 前項の規定にかかわらず、取締役会設置会社においては、株主総会は、この法律に規定する事項及び定款で定めた事項に限り、決議をすることができる。
会社法362条(取締役会の権限等)
2 取締役会は、次に掲げる職務を行う。
三 代表取締役の選定及び解職

第2 事案の概要
 Y1社は、非公開会社であり、かつ取締役会設置会社であり、Y1社の定款には、「代表取締役は取締役会の決議によって定めるものとするが、必要に応じ株主総会の決議によって定めることができる」旨の本件定めがあった。
 Xは、Y1社の代表取締役であったが、Y1社の臨時株主総会において取締役を解任された。
 Y1社は、上記臨時株主総会に先立って定時株主総会を開催し、Y2をY1社の取締役に選任する旨の決議及び代表取締役に定める旨の決議(本件決議)がされた。
 Xは、手続的瑕疵等を理由として本件決議の不存在ないし無効を主張し、Yらに対し、Y2の取締役兼代表取締役の職務執行停止及び職務代行者選任の仮処分命令の申立てをした。
 原々審がXの請求を却下したため、Xは即時抗告し、原審において、本来取締役会に帰属するべき代表取締役の選定・解職権限の制限は、取締役会の監督機能を弱体化することから、本件定めは無効である旨の新主張を追加して、本件決議の効力を更に争った。
 これに対し原審は、代表取締役の選定・解職権限を株主総会に認めたからといって、取締役会の監督権能が失われるわけではないから、本件定めが無効であるとはいえないとして、Xの主張を退けた。

第3 決定の要旨
 抗告棄却。
 「取締役会を置くことを当然に義務づけられているものではない非公開会社(法327条1項1号参照)が、その判断に基づき取締役会を置いた場合、株主総会は、法に規定する事項及び定款で定めた事項に限り決議をすることができることとなるが(法295条2項)、法において、この定款で定める事項の内容を制限する明文の規定はない。そして、法は取締役会をもって代表取締役の職務執行を監督する機関と位置付けていると解されるが、取締役会設置会社である非公開会社において、取締役会の決議によるほか株主総会の決議によっても代表取締役を定めることができることとしても、代表取締役の選定及び解職に関する取締役会の権限(法362条2項3号)が否定されるものではなく、取締役会の監督権限の実行性を失わせるとはいえない。
 以上によれば、取締役会設置会社である非公開会社における、取締役会の決議によるほか株主総会の決議によっても代表取締役を定めることができる旨の定款の定めは有効であると解するのが相当である。」

第4 実務上のポイント
1 本決定の意義
 取締役会設置会社においては、取締役会が代表取締役を選定する旨規定されているが(法362条2項3号)、他方で取締役会設置会社の株主総会では、定款に定められた事項について決議をすることができるものと規定されているため(法295条2項)、取締役会設置会社における代表取締役を株主総会決議によって選定する旨の定款の定めの効力が問題となる。
 この点、かねてから見解が分かれていた*1ところ、本決定は、上記定款の定めの有効性を初めて明らかにしたものであって、実務上重要な意義を有する。
2 本決定の射程
(1)公開会社における本件定めの有効性
 会社法において、公開会社(法2条5号)は、取締役会を設置することが義務付けられている(法327条1項1号)が、非公開会社においては、監査役会設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社を除き取締役会の設置は必要的ではなく、定款で定めることによって取締役会を設置することが認められている(法326条2項、法327条1項2号乃至4号)。
 本件は、取締役会の設置が義務付けられていない非公開会社が任意に取締役会を設置した場合における本件定めの有効性が問題となった事案であるが、本決定の射程が公開会社にも及ぶかが問題となる。
 この点、本決定は、本件定めの有効性を認める理由として、①定款で株主総会決議事項とできる事項を制限する明文規定の不存在、②本件定めがあったとしても、取締役会もなお選定・解職の権限を維持し、取締役会の代表取締役に対する監督権限の実行性が失われないことの2点を掲げているところ、当該各理由は取締役会設置会社全般に当てはまるものである。
 それにもかかわらず、本決定は、上記各理由に先だって、「取締役会を置くことを当然に義務づけられているものではない非公開会社(法327条1項1号参照)が、その判断に基づき取締役会を置いた場合」との文言を敢えて使用し、本件事案が非公開会社の事案であることの断りを入れている。
 したがって、本決定は非公開会社に限定して本件定めの有効性を判示したものと解されるため、本決定からは、公開会社においても本件定めと同様の定款規定が有効となるかは明らかではない。
 もっとも、公開会社においても、本決定の指摘する上記各理由が当てはまることなどから、公開会社においても、本件定めと同様の定款規定の有効性を認めても良いとする見解が複数示されている。
(2)代表取締役の選定権限を株主総会の専権とする旨の定款規定の有効性
 本決定は、「代表取締役は取締役会の決議によって定めるものとするが、必要に応じ株主総会の決議によって定めることができる」との本件定めの有効性につき判断したものであるところ、本決定の射程が、代表取締役の選定権限を株主総会の専権とする旨の定款規定(専権規定)の有効性にまで及ぶか否かが問題となる。
 この点については、本決定は、本件定めの有効性を認める理由の一つとして、②「取締役会の決議によるほか株主総会の決議によっても代表取締役を定めることができることとしても、代表取締役の選定及び解職に関する取締役会の権限(法362条2項3号)が否定されるものではなく、取締役会の監督権限の実行性を失わせるとはいえない」として、株主総会の決議によって代表取締役を定めることができる旨が副次的に定款に定められているに過ぎないことが前提とされていることからすると、本決定の射程が、専権規定にまで及ぶかは定かではない。
 なお、専権規定の有効性については、立案担当者の見解*2によるとその有効性を認めがたいとされるが、肯定説も多く支持されている状況である。
3 実務への影響
 本決定により、取締役会設置会社である非公開会社において、取締役会に代表取締役の選定権限を残した形で、副次的に株主総会に代表取締役の選定権限を与える旨の定款規定が有効であることが確認されたことから、上記機関設計を採用する株式会社においては、同規定めの有効性につき疑問を挟むことなく、同規定を定款に盛り込むことができるようになった。
 もっとも、取締役会にも代表取締役の選定・解職権限が残されていることから、上記規定によって株主総会において選定された代表取締役が、後に取締役会によって解職され、別の代表取締役が選定されるという事態が生じる可能性は残る。また、定款変更のために必要な議決権数(法466条、法309条2項11号)を保有する株主は、通常取締役を解任するために必要な議決権数(法339条1項、法309条1項、同条2項7号)も保有していると考えられるため、取締役会設置会社における株主総会に副次的に代表取締役の選定・解職権限を与えることの意義はさして大きくはないものと解される。

弁護士 金子 真大

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