加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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会社法裁判例―株主構成の変更自体を主要な目的としてなされた新株又は新株予約権の発行は、原則として不公正な発行に該当し、経営争奪の局面における第三者割当による新株又は新株予約権の発行は原則として株主構成の変更自体を主要な目的とすると判断された事例―

株主構成の変更自体を主要な目的としてなされた新株又は新株予約権の発行は、原則として不公正な発行に該当し、経営争奪の局面における第三者割当による新株又は新株予約権の発行は原則として株主構成の変更自体を主要な目的とすると判断された例

(デジタルデザイン保全異議事件)

大阪地決平成29年1月6日 金判1516号51頁

第1 決定の概要

本件は、Y社の株主であるXが、Y社が取締役会決議に基づき、現に手続を行っている新株発行及び新株予約権の発行(本件新株等発行)について、会社法210条2号及び同法247条2号に定める「著しく不公正な方法」による発行であるとして、これを仮に差し止めるよう求めたところ、Y社がXの申立てを認めた原決定を不服として、保全異議を申し立てた事案である。

本決定では、Y社による本件新株等発行が不公正発行に該当するものと判断し、原決定を正当なものとして是認した。

(参照条文)

会社法210条

 次に掲げる場合において、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は、株式会社に対し、第199条第1項の募集に係る株式の発行又は自己株式の処分をやめることを請求することができる。

二 当該株式の発行又は自己株式の処分が著しく不公正な方法により行われる場合

会社法247条

 次に掲げる場合において、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は、株式会社に対し、第238条第1項の募集に係る新株予約権の発行をやめることを請求することができる。

二 当該新株予約権の発行が著しく不公正な方法により行われる場合


第2 事案の概要

Xは、発行済株式総数269万1000株(単元株式数100株)をジャスダックグロースに上場するY社の普通株式119万5900株を有する株主であり、その持株比率は44.44パーセントであるところ、Y社の議決権の総数は2万6909個、Y社の直近の定時株主総会に出席した株主の議決権の数は1万7620個であり、その出席率は65.48パーセントであった(1万7620個÷2万6909個)。また、Xが有する議決権の数は、1万1950個であり、上記出席率を基準とした場合のXの議決権割合は、67.82パーセントである(1万1950個÷1万7620個)。

Xは、取締役の過半数を入れ替え、取締役の構成を一新することが企業価値の向上と一般株主の利益に資するとの考えから、Y社に対し、取締役1名の解任及び新取締役6名の選任を目的とする株主総会を招集するよう請求した。そして、同招集請求から1週間が経過するも同招集請求があった旨の適時開示がなされなかったことから、裁判所に対し、株主総会招集許可を申し立てた。

その後、上記招集許可申立事件を通じて、裁判所主導によりXが求める取締役の解任及び選任を目的とする臨時株主総会(本件株主総会)が開催されるよう調整された。

このような状況の中で、Y社は、取締役会において、①第三者割当の方法により、普通株式6万7175株を発行する旨、②第三者割当の方法により新株予約権60万5475個を発行する旨の本件新株等発行に係る決議が行われた。併せて、本件株主総会に係る基準日については、本件新株等発行に係る払込期日の5日後とし、基準日公告を行う旨が決議された。

なお、新株発行及び新株予約権の全部行使による希釈化率は、24.99パーセントであり、X保有の119万5900株の持株比率は、本件新株等発行及び新株予約権の全部行使により44.44パーセントから35.56パーセントに低下する。また、前記株主総会における出席率を基準とした場合のXの議決権割合は、67.82パーセントから49.09パーセントに低下する。

これを受けて、Xは、本件新株等発行の差止めを求めて、裁判所に申し立てたところ、原決定は、Xの申立てを認めたので、Y社が異議申立てを行った。


第3 決定の要旨

1 判断枠組みについて

本決定は、まず、株主構成の変更自体を目的としてなされた新株又は新株予約権の発行は、原則として、不公正発行(会210条2号、同247条2号)に該当すると判示し、そのうえで、現取締役らの取締役たる地位の得喪や取締役会における影響力の変動にかかわる経営権争奪の局面における第三者割当による新株又は新株予約権の発行は、実質的な利益相反状況下における新株又は新株予約権の発行であるといえるから、これを合理化するに足りる特段の事情のない限り、現取締役らの経営権維持を目的とするものであり、株主構成の変更自体を主要な目的とする不公正発行に該当するものと推認できると判示した。

2 具体的な検討について

本決定では、Xが求める取締役の解任及び選任議案の可決の可能性を低下させることを目的とするものであり、株主構成の変更自体を主要な目的とする不公正発行に該当するものと推認される旨判断し、結論において、Xによる差止めを認めた。

その理由につき、本決定では要旨以下のように述べられている。

まず、本件新株等発行に係る取締役会決議は、Xにより現取締役の解任1名の解任及び新取締役6名の選任を目的とする株主総会の開催を求める状況下でなされていること等を指摘して、本件新株等発行が、現取締役らの取締役たる地位の得喪や取締役会における影響力の変動にかかわる経営権争奪の局面においてなされた新株又は新株予約権の発行である旨指摘する。

そして、本件新株発行等により、直近株主総会における出席率を基準とした場合のXに係る議決権割合が、67.82パーセントから49.09パーセントに下落することを指摘し、本件新株等発行は、Xが求める取締役の解任及び選任議案の可決の可能性を低下させる効果のある新株又は新株予約権の発行であったとも述べ、本決定では、本件新株等発行は、利益相反性の高い新株又は新株予約権の発行であったということができると述べた。

そして、Y社において資金調達の必要性があったとしても、本件株主総会まで待てるのであれば、同株主総会で株主の信認を得た取締役において、同株主総会後に資金調達に係る経営判断を行うこととするのが、経営権争奪の局面におけるY社の取締役の採るべき措置であったといえるところ、本件株主総会の開催を待っていては債務者に重大な損害が生じる状況にあったとの疎明はなく、払込期日を基準日より前の日としなければならなかった理由もないことなどから、利益相反状況下でなされた本件新株等発行を合理化するに足りる特段の事情が存在するとまでは認められない旨判断した。



第4 実務上のポイント

1 本決定の意義

本決定は、株主構成の変更自体を主要な目的としてなされた新株又は新株予約権の発行は、原則として不公正発行(会210条2号)に該当し、経営争奪の局面における第三者割当による新株又は新株予約権の発行は原則として株主構成の変更自体を主要な目的とする不公正発行に該当すると推認できると判断した点で重要な意義を有する。


2 不公正発行該当性の判断枠組みに関して

不公正発行とは、不当な目的を達成する手段として募集株式の発行等が利用される場合をいい、会社支配の帰属をめぐる争いがあるときに、取締役が議決権の過半数を維持・争奪する目的または反対派の少数株主権を排斥する目的(大阪地決昭和48年1月31日金判355号10頁「会計帳簿の閲覧権排斥の目的」)のため募集株式の発行等を行う等がこれに当たると解されている。また、支配権の維持争奪目的については、自派で議決権の過半数を確保する等の不当目的達成動機が他の動機に優越する場合にその発行等の差止めを認め、他の場合には認めない「主要目的ルール」と呼ばれる考え方で判断されている[1]

従来の裁判例では、かかる判断枠組みから、まず不当な目的の有無を審査し、不当な目的の存在が否定しえない場合にあっては、正当な目的(特に資金調達目的)にも照らして、不当な目的が主要目的であると認定される場合には、不公正発行に該当するものとする。

本決定は、「株主構成の変更自体を主要な目的としてなされた新株又は新株予約権の発行は、原則として、不公正発行に該当する」とする。

これは、主要目的ルールを採用しつつも、株主構成の変更自体を主要な目的とする場合には、不当目的達成動機が他の動機に優越することが推認される旨述べたものと解される。

今後、新株等発行について不公正発行該当性が問題となる事案にあっては、当該新株等発行が行われようとしている時期に、取締役等の選解任に関する審議が予定されているなど、経営権争奪がまさに現実化している状況にあるかどうかに着目し、かかる状況が認められるケースにあっては、新株等発行により、上記選解任決議にどのような影響が生じる可能性があるのかを議決権割合等に基づいて吟味したうえで、本決定に即した判断枠組みでの主張が検討されるべきである。


3 不公正発行に関する近時の裁判例

京都地決平成30年3月28日金判1541号51頁、②仙台地決平成26年3月26日金判1441号57頁及び③山口地裁宇部支決平成26年12月4日金判1458号34頁は、いずれも株主と経営陣との間に支配権争いがあった事案であるところ、①は、払込価格が時価を著しく下回る払込価格で第三者に割り当てられている点から、払込金額に対して著しく大量の株式を発行することになって、株主の持株比率に重大な影響があることを指摘して不公正な発行に該当するものとしたもの、②は、第三者割当による新株発行後、割当先から少なくとも取締役総数の過半数を下限として取締役を派遣することが予定され、新株発行会社における取締役の地位が確保される事情等がないことを理由に、不公正発行に該当しないとしたもの、③は、新株発行の結果、解任されることが必至の状況である経営陣が、現状を維持し、経営権を保持し続ける可能性が高いことを理由に、主要目的ルールの枠組みに照らして、不公正発行に該当するものと判断した例である。

不公正発行が問題となる事案処理の場面では、これらの決定も参考となる。



[1] 江頭憲治郎『株式会社法(第7版)』773頁(有斐閣・2017)

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