加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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会社法裁判例―ある議案を否決する株主総会決議の取消しを請求する訴えは不適法である

ある議案を否決する株主総会決議の取消しを請求する訴えは不適法である

最判平成28年3月4日民集70巻3号827頁

(原審:福岡高判平成27年4月22日金判1490号16頁)

(原々審:福岡地判平成26年11月28日金判1490号17頁)

第1 判決の概要

Y社の株主であり取締役であったXらが、Y社株主総会(「本件株主総会」)において、Xらを取締役から解任する旨の議案を否決する決議(「本件否決決議」)がなされたことにつき、招集手続に瑕疵があるとして決議取消しの訴えを提起したところ、否決の決議の取消しを請求する訴えは不適法と判示したのが本判決である。

(参照条文)

会社法831条(株主総会等の決議の取消しの訴え)

1 次の各号に掲げる場合には、株主等(略)は、株主総会等の決議の日から三箇月以内に、訴えをもって当該決議の取消しを請求することができる。(略)

一 株主総会等の招集の手続又は決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なとき。

会社法854条(株式会社の役員の解任の訴え)

 役員(第三百二十九条第一項に規定する役員をいう。以下この節において同じ。)の職務の執行に関し不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があったにもかかわらず、当該役員を解任する旨の議案が株主総会において否決されたとき又は当該役員を解任する旨の株主総会の決議が第三百二十三条の規定によりその効力を生じないときは、次に掲げる株主は、当該株主総会の日から三十日以内に、訴えをもって当該役員の解任を請求することができる。(以下略)

第2 事案の概要

Y社は取締役会非設置会社であり、発行済株式300株のうち、X1が75株、X2が75株、Aが150株を有していた。Xら及びAはいずれもY社取締役であった。

AはXらの同意を得ないまま、Xらの取締役解任を議案とする臨時株主総会(本件株主総会)を招集し、同総会で、Xら解任の議案を否決する決議がなされた。

Aは、その後Xらにつき取締役解任の訴え(別件訴訟)を提起したところ、Xらは、会社法854条の「役員を解任する旨の議案が株主総会において否決されたとき」との要件を欠くので、別件訴訟は不適法であると主張した。

Xらは、本件否決決議の取消しを求め、本訴を提起した。

第1審は、本件否決決議が取り消されるか否かによって、別件訴訟が要件を具備するか否かが左右される関係にあるため、訴えの利益を肯定し、本件株主総会の招集に当たり、各議案につき取締役の過半数の決定を得ず招集されたとして、Xらの訴えを認容した。

原審は、否決の決議は第三者に対し効力を生じる余地がなく、会社法831条の「株主総会等の決議」には該当しないとして、第1審判決を取り消し、Xらの訴えを却下した。

これに対し、Xらが上告受理申立てを行ったところ、上告審として受理がされ、Xらの上告が棄却されたのが本判決である。

第3 判旨

本判決は、ある議案を否決する株主総会の決議によって新たな法律関係が生じることはなく、当該決議を取り消すことによって新たな法律関係が生ずるものでもないから、ある議案を否決する株主総会決議の取消しを請求する訴えは不適法であると判示した。

なお、千葉勝美裁判官の補足意見があり、否決の決議取消訴訟の訴えの利益が問題となり得るような事例が生じたとしても、そのような事例は根拠とされた規定等の合理的な解釈や、信義則、禁反言等の法理の適用で対処すべきであり、訴えの利益を無理に生じさせるような解釈をすべきではないと述べられている。

第4 実務上のポイント

本判決は、ある議案を否決する株主総会決議の取消しを請求する訴えは不適法であることを判示した最高裁判決である。

本判決以前は、否決の決議の取消しの訴えに訴えの利益があるか否かにつき、学説は肯定説、否定説の両説があり、裁判実務は概ね訴えが不適法との解釈が優勢であったところ、この点の決着をつけたのが本判決である。

本判決は、会社法の組織に関する訴えについての諸規定は、株主総会の決議によって新たな法律関係が生ずることを前提としたものであるところ、否決の決議及び同決議の取消しからは新たな法律関係が生ずるものではないことを理由に、訴えの利益の有無に言及することなく不適法との結論を導いている。

否決決議の取消しが問題となり得る例としては、否決決議が要件となり法的効果が発生するように読みうる場面である。本件のような取締役解任の訴え(会854条)のほか、少数株主による議案の再提案の制限を定める会社法304条ただし書等が挙げられる。

しかし、本判決の判示(及び千葉裁判官の補足意見)に従うと、これらにおいても、否決の決議の取消しを争う必要はなく、手続上瑕疵のある否決決議がなされても、それは否決された場合には当たらないとして、法律効果の発生を争うことが可能であり、かつそれが適切であると解される。

なお、関連する裁判例として、会社が株主の提案する同社の株式の大規模買付行為に反対し、かつ同株主に対して当該行為の中止を要請することを承認する旨の株主総会決議の無効確認を求める訴えにつき、確認の利益がなく不適法とした東京地判平成26年11月20日判時2266号115頁がある。同判決は、会社が大規模買付行為に対する対抗措置を発動するか否かにつき、同行為に対する中止要請は、法令上も、社内ルール上も必要ではなく、同決議の無効を確認したとしても、会社が対抗措置を発動する可能性は消滅も減少もしないこと等を理由に、本件無効確認訴訟は株主の法律上の地位ないし利益が害される危険を除去するために必要かつ適切とはいえないと判示している。

このように、株主総会決議が直接的に法律効果を発生させない、または法的地位に影響を与えないと見られる例については、訴えが不適法と判断されるリスクにつき十分に検討を行い、他に有効適切な訴訟等の解決手段を選択する必要がある。

弁護士 佐野 千誉

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