加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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被相続人の親の直系卑属ではない被相続人の兄弟姉妹の子による代襲を否定した事例−最高裁判決令和6年11月12日令和5年(行ヒ)第165号

第1 はじめに

 令和6年11月12日、最高裁第三小法廷において言い渡された判決(事件番号令和5(行ヒ)165号、以下「本判決」といいます。)は、代襲相続における民法の解釈において重要な判断を示しました。

 本件では、被相続人の兄弟姉妹が養子であったという特殊な家族関係において、兄弟姉妹の養子縁組前の子(すなわち被相続人とは養子縁組上の血族関係を有しない者)が代襲して相続人となれるのかが問題となりました。本判決は、「被相続人とその兄弟姉妹の共通の親の直系卑属でない者」は兄弟姉妹を代襲して相続人とはなり得ないとの判断を示し、代襲相続の限界を明確に画定しました。

第2 事案の概要

 本件は、横浜地方法務局川崎支局による不動産登記申請却下処分の取消しを求めた行政訴訟です。申請を行ったのは、原告X1およびX2(以下「Xら」といいます。)であり、いずれも故Bの子です。

 被相続人Cは、Bの母の姉であるDの子、すなわちBとはいとこの関係にあたります。平成3年、BはXらの出生後にDと養子縁組をし、その結果Cの妹となりましたが、Bは平成14年に死亡しました。その後、被相続人Cも、平成31年に死亡しました。

 Cには子も配偶者もなく、兄弟姉妹もB以外に存在しません。したがって、民法第889条第2項により、XらがBを代襲してCの相続人となるかが問題となりました。

 Xらは、令和2年6月22日、Cの遺産に関して所有権移転登記及び持分全部移転登記を申請しました(以下、「本件申請」といいます。)。しかし、登記官は「申請の権限を有しない者の申請」であるとして、これを却下しました(不動産登記法第25条第4号)。

 これに対してXらは、処分の取消しを求めて提訴しました。第1審は請求を棄却しました。

 一方で第2審は、民法第887条第2項ただし書を同法第889条第2項が準用する場合、民法第887条第2項ただし書の「被相続人の直系卑属でない者」は、「被相続人の傍系卑属でない者」と読み替えるのが相当であるとして、被相続人の傍系卑属であるXらの代襲を認めました。

第3 最高裁判決の要旨

1 法的構成と判断枠組み

(1)  最高裁は、民法第887条第2項ただし書を同法第889条第2項が準用する場合、民法第887条第2項ただし書の「被相続人の直系卑属でない者」は、「被相続人とその兄弟姉妹の共通する親の直系卑属でない者」と読み替えるのが相当であるとして、被相続人Cと兄弟姉妹Bの共通する親であるDの直系卑属ではないXらによる代襲を認めませんでした。

(2) その理由として、まず民法第887条第2項ただし書は、被相続人の子が相続開始以前に死亡した場合等について、被相続人の子の被相続人の直系卑属でない者は被相続人の子を代襲して相続人となることができない旨を規定していることを確認しています。そして、これは被相続人の子が被相続人の養子である場合、養子縁組前から当該子の子である者(いわゆる養子縁組前の養子の子)は、被相続人との間に当該養子縁組による血族関係を生じないこと(民法第727条、大審院昭和6年(オ)第2939号同7年5月11日判決・民集11巻11号1062頁参照)から、養子を代襲して相続人となることができないことを明らかにしたものである、と説明しています。

    その上で、民法第889条第2項が同法第887条第2項ただし書を準用する場合には、同項ただし書の趣旨を踏まえて、被相続人の兄弟姉妹が被相続人の親と養子縁組した結果として兄弟姉妹となっていたとき、当該兄弟姉妹の養子縁組前の子は、被相続人とその兄弟姉妹の共通の親の「直系卑属」には該当しないため、代襲相続はできないとしました。

2 本件への適用

 XらはBの子であるものの、BとCの共通の親Dの直系卑属ではありません。そのため、XらはBを代襲してCの相続人にはなることはできず、Cの相続財産を相続することもできないので、本件申請の申請権限がないと判断しました。

第4 実務的意義

1 代襲相続制度

  代襲相続とは、本来相続人となるはずの人が、相続開始前に亡くなっていた場合などに、その子(被相続人から見ると孫)が代わりに相続人となる制度です(民法第887条第2項本文、第889条第2項)。ただし、民法は「被相続人の直系卑属でない者」は代襲できないと定めており(同法第887条第2項ただし書)、たとえば養子縁組の前からいた養子の子は、養親を代襲して相続することはできません。

 また、被相続人の兄弟姉妹は、被相続人に直系卑属及び直系尊属がない(死亡している)場合に、相続人となります(民法第889条第1項第2号)。そして、この兄弟姉妹が相続人になるケースで、被相続人が死亡する前に兄弟姉妹が死亡している場合にも、代襲相続が生じます。ただし、当該兄弟姉妹の子に限定され、被相続人の直系卑属に生じる代襲相続とは異なり、兄弟姉妹の孫が代襲相続人になることはありません(同法第889条第2項は、同法第887条第3項を準用していません。)。

2 本判決の意義

 本判決は、本件のような場合に、被相続人の兄弟姉妹の子による代襲相続が可能であるかを判断した最初の最高裁判決であり、民法第887条第2項ただし書を同法第889条第2項が準用する際に、「被相続人とその兄弟姉妹の共通する親の直系卑属でない者」と読み替える解釈を示した重要な判決である。

3 実務への影響

(1) 本判決のケースは被相続人の相続人になり得るのが被相続人の直系尊属と被相続人の母親の養子であったBのみであったことに加え、その全員が既に死亡していたという珍しい事情を前提とするものではあります。

    しかし、現代社会では少子化の影響により、直系卑属がいない相続が増加しています。このとき、既に直系尊属も死亡していると、被相続人の兄弟姉妹が相続人となりますが、兄弟姉妹と被相続人は近い年齢であることが多く、兄弟姉妹が先に死亡していることも想定されます。そのため、兄弟姉妹の子である甥・姪による代襲相続が生じるケースは増えていくと思われます。

(2) 特に本件のように、被相続人に直系尊属や直系卑属がおらず、唯一相続人となり得る兄弟姉妹も既に死亡しているという状況では、兄弟姉妹の子への代襲相続が否定されると、法律上の相続人が不在となり、結果として遺産は民法第959条により最終的に国庫に帰属することになります。

   したがって、被相続人が相続人に該当しない特定の親族に遺産を承継させたいと考える場合には、遺言を作成しておくことが不可欠です。とりわけ、少子化と高齢化が進む現代においては、血縁関係の希薄化や相続人不存在のリスクが高まっており、本判決はそのような社会状況を踏まえた生前の法的備えの重要性を改めて示すものと評価できます。

加藤&パートナーズ法律事務所(大阪市北区西天満)では、関西を中心に相続や遺産分割、遺言書の作成に関するご相談・ご依頼をお受けしております。

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