【目次】 1 所在不明株主の問題 ➡2 所在不明株主の株式売却許可申立制度 3 経営承継円滑化法の特例 4 その他の方法(スクイーズ・アウトの手法) |
Ⅰ 概要
会社法は、所在不明株主が存在することによる不都合を解消するための手段として、所在不明株主の株式(以下「対象株式」という)について、一定の要件を満たす場合に競売等による売却を認め、その帰属を移転させる制度を設けています(会社法197条1項)。
原則として売却は競売によりますが(会社法197条1項)、例外的に市場価格のない株式については、裁判所の許可を得て「競売以外の方法」による売却が認められています(会社法197条2項)。また、この方法の一環として、会社が対象株式の全部または一部を買い取ることも認められています(会社法197条3項)。
所在不明株主の株式売却許可申立は、この「例外」に該当し、対象株式を会社または第三者(通常は経営陣や後継予定者など)が買い取る許可を裁判所に求めるものです。実務上は、会社が申立人となり、裁判所の許可を得て株式を買い取ることで所在不明株主問題を解消する方法が一般的です。
Ⅱ 申立ての要件
(1)要件
所在不明の株主の株式売却許可を得るための要件は、次のとおりです。
要件① 当該株主に対する通知または催告が5年以上継続して到達していないこと(会社法197条1項1号)
要件② 当該株主が継続して5年間剰余金の配当を受領しなかったこと(配当をしていない事業年度が含まれる場合は、当該事業年度に配当をしなかったこと。)(会社法197条1項2号)
要件③ 対象株式が、競売以外の方法による売却を相当とし、かつ、市場価格のない株式であること(後半部分について、会社法197条2項第1文)
要件④ 申立てにつき、取締役全員の同意があること(会社法197条2項第2文)
要件⑤ 申立人(会社)が株式を買取る場合には、申立人が以下の事項を定めたこと(取締役会設置会社の場合は取締役会決議により定める必要がある。)(会社法197条3項、4項)
・買い取る株式の数
・対価として交付する金銭の総額
要件⑥ 申立人(会社)が、対象株式の株主その他の利害関係人が一定の期間内(3か月以上)に異議を述べることができる旨及びその他法務省令で定める事項を公告し、かつ、対象株式の株主に各別に催告したこと(会社法198条1項)
要件⑦ 対象株式の売却価格が相当であること
(2)各要件の解説
ア 【要件①】当該株主に対する通知または催告が5年以上継続して到達していないこと(会社法197条1項1号)
(ア)通知・催告の意義
「通知」や「催告」は、会社法所定の義務に基づいて行うものに限られず、例えば、定期的に株主にニュースレターや、株主総会決議後に株主総会決議通知を送付している場合には、これらも会社法197条1項1号の「通知」に含まれます。
(イ)5年以上継続不到達の意義と算定方法
5年以上継続して不到達という要件は、当該期間中に会社が送付した通知・催告が一度も到達しない状態が継続したことを意味します。
ただし、注意すべきは、この要件は、当該期間中、会社法所定の通知・催告が全て行われていたことを前提とすることです。
なお、この通知・催告は、株主名簿に記載・記録された当該株主の住所(当該株主が別に通知・催告を受ける場所または連絡先を会社に通知していた場合には、その場所または連絡先)に送付すれば足ります(会社法126条1項)。
重要となるのは、「5年以上」の計算方法です。最初に通知・催告が不到達となった時点を起算点とし、当該起算点からまる5年間にわたり不到達が継続した時点をもって、5年以上継続不到達の要件が充足されると考えます。
例えば、定時株主総会の招集通知以外には株主に対する通知を行っていない会社において、2019年6月30日開催の定時株主総会の招集通知が同月10日に不到達となった時点を起算点とする場合、2024年の定時株主総会招集通知の不到達が6月10日よりも後の場合には、5年以上継続不到達の要件が充足されますが、不到達が同日以前であった場合には、当該通知よりも後に、別途何らかの通知・催告の不到達が生じた時点をもって要件が充足されることになります(下の参考図をご算用ください。)。
万一、会社法所定の義務に基づく通知・催告を1回でも懈怠した場合や、1度でも通知・催告が到達した場合には、要件を満たしません。このような場合には、それまでの不到達期間はリセットされ、次に生じた不到達から再度起算し直します。
(ウ)疎明方法
疎明資料として「あて所に尋ねあたりません」という朱印が押されて郵便局から還付された封筒の写し、及び、その内容物たる通知書・催告書の写しが、一般的に用いられています。
1回目の不到達を起算点として継続して5年以上という要件であるため、「5年以上」の資料が必要となります。
例えば、上述(イ)で述べた会社の場合、少なくとも2016年分から2021年分までの6年間分の定時株主総会の招集通知に関して疎明資料を準備する必要があります。
会社としては、不到達の疎明に備え、不到達で返送されてきた郵便物を不用意に廃棄することなく、適切に管理・保管しておく体制が必要です。
イ 【要件②】当該株主が継続して5年間剰余金の配当を受領しなかったこと(配当をしていない事業年度が含まれる場合は、当該事業年度に配当をしなかったこと。)(会社法197条1項2号)
(ア)意義
5年以上継続して配当不受領または無配当という要件は、当該期間中、当該株主に対する剰余金の配当が一度も受領されなかった(無配当の場合を含む。)、ということを意味します。
(イ)疎明方法
配当の不受領に関しては、「あて所に尋ねあたりません」という朱印が押されて郵便局から還付された封筒の写し、及び、その内容物たる剰余金配当送金通知書の写し等が疎明資料となります。
また、配当を行っていない事業年度がある場合には、当該事業年度に剰余金の配当をしていない旨が記載された当該事業年度の定時株主総会招集通知書、同議事録の写し等が疎明資料となります。
1回目の配当金送達通知書の不到達あるいは無配当を起算点として継続して5年間なので、上述の【要件①】と同様、「5年以上」の疎明資料の提出が必要となります。
ウ 【要件③】対象株式が、競売以外の方法による売却を相当とし、かつ、市場価格のない株式であること(後半部分について、会社法197条2項第1文)
(ア)意義
条文上は、市場価格のない株式であることが要求されているのみですが、競売以外の方法による売却は、あくまでも「競売に代えて」(会社法197条2項第1文)するものであることから、競売以外の方法による売却が相当であることが要求されると解されています。
具体的には、競売したとしても買取人がつくと期待できないことや、仮に買取人がついたとしても申立人の定めた売却価格を上回る買取価格となるとは期待できないこと等を疎明することになります。
(イ)疎明方法
市場価格のない株式であって、かつ、少数株式である場合、当該株式が適正な企業価値を反映した価格で競落されることは基本的には想定できません。
そのため、競売以外の方法による売却が妥当であることについて疑義がない場合には、(株価算定意見書の他は)特段の疎明資料を要せず、申立書において主張するのみで足りるものとされています。
なお、競売以外の方法による売却が妥当であることについて疑義がある場合としては、①裁判所に提出された一件記録の内容から、競売をした場合に買取人となる蓋然性のある第三者の存在が明らかである場合や、②申立人が疎明資料として提出した株価算定意見書が恣意的に安価な算定を行ったものと疑われるような場合が想定されます。
<続く>
「会社内部紛争を防止するための非上場会社の株主管理・株主対策」所在不明株主3-所在不明株主の株式売却許可申立制度②
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