【目次】 1 譲渡制限株式の落とし穴 ➡2 譲渡制限株式を譲渡する手続 Ⅰ 手続の流れ Ⅱ 譲渡等承認請求・買取請求 Ⅲ 承認・不承認の決定 Ⅳ 不承認通知の期間制限と「みなし承認」 ➡Ⅴ 買取の決定 ➡Ⅵ 買取通知・供託証明書の交付の期間制限と「みなし承認」 ➡Ⅶ 売買価格の協議 ➡Ⅷ 裁判所による価格決定 |
Ⅴ 買取の決定
譲渡等承認請求と併せて買取請求がなされ、譲渡等を不承認とする決定をする場合、会社は当該株式を会社が買い取るのか指定買取人が買い取るのかを決定する必要があります。
(1)会社が買取人となる場合
取締役会設置会社であるか否かにかかわらず、株主総会の特別決議によって、①会社が買い取ること、②買い取る株式の数(種類株式発行会社においては対象株式の種類と種類ごとの数)を決議する必要があります(会社法140条1項、2項、309条2項1号)。
この場合は、自己株式取得に関する財源規制(会社法461条1項1号)に注意が必要です。
(2)指定買取人が買取人となる場合
取締役会設置会社の場合は取締役会決議によって、取締役会非設置会社の場合は株主総会の特別決議によって、買取人の指定を行う必要があります(会社法140条5項、309条2項1号)。
Ⅵ 買取通知・供託証明書の交付の期間制限と「みなし承認」
(1)会社が買取人となる場合
会社は、譲渡等についての不承認決定通知を行った日から40日以内に譲渡等承認請求者に対して①会社が買い取ること、②買い取る株式の数(種類株式発行会社においては対象株式の種類と種類ごとの数)を通知する必要があります(会社法141条1項)。その旨の通知をしなかった場合には、「みなし承認」となります(会社法145条2号)。
さらに、会社は、当該通知前または通知と同時に、暫定的な買取代金を供託した証明書を交付する必要もあり(会社法141条2項)、当該書面の交付がなされなかった場合にも「みなし承認」となります(会社法145条3号、会社法施行規則26条1号)。
(2)指定買取人が買取人となる場合
指定買取人は、譲渡等についての不承認決定通知がなされた日から10日以内に、譲渡等承認請求者に対して、①自らが指定買取人として指定を受けたこと、②自らが買取る株式数(種類株式発行会社においては対象株式の種類および種類ごとの数)を通知する必要があります(会社法142条1項)。その通知がなされなかった場合、別途40日以内に会社が会社自身が買取る旨の通知を行わない限り、「みなし承認」となります(会社法145条2号)。
さらに、指定買取人は、当該通知前または通知と同時に、暫定的な買取代金を供託した証明書を交付する必要もあり、当該書面の交付がなされなかった場合にも「みなし承認」となります(会社法145条3号、会社法施行規則26条2号)。
(3)供託すべき金額の算出方法
供託すべき額は、簿価純資産額に基づき算定します。
一株当たりの簿価純資産額は、①買取通知の日における資本金額等(資本金額、資本準備金額、利益剰余金額、剰余金額、新株予約権の帳簿価格)+②最終事業年度の末日における評価・換算差額等の額-③買取通知の日における自己株式および自己新株予約権の帳簿価格の合計額を④自己株式を除く発行済株式数で除した額です(会社法141条2項、142条2項、会社法施行規則25条)。
ただしこの方法は、資産の時価ではなく簿価に基づくため、実際の企業価値と比して過大な供託額となる場合もあります(資産の含み損が反映されない等の理由)。
このようなケースや余剰資金がない場合に、供託金をいかにして調達するのかという点が、実務上の対応としては重要です。
早期に弁護士に相談し、供託額の見積と資金調達の可否を検討すること、自己資金で賄えない場合は、ただちに当該金融機関と交渉し、融資を申し込む等の迅速な対応が、みなし承認を回避するために必要となります。
Ⅶ 売買価格の協議
会社や指定買取人による買取通知の到達により、譲渡等承認請求者と買取人との間で売買契約が成立します。
なお、最終的な売買価格は、当事者間の協議により定めるものとされています(会社法144条1項)。
Ⅷ 裁判所による価格決定
売買価格につき協議で合意に至らなかった場合、当事者(譲渡等承認請求者または買取人)は、買取通知から20日以内に裁判所に対し、売買価格の決定の申立てができます(会社法144条2項、7項)。
ただし、この期間内に申立てがなされなかった場合には、供託された金額が売買価格となります。
それゆえ、当該株式の時価(=実際の価格)が、供託金額(=簿価純資産額)より低い可能性があるかを早急に検討し、必要に応じて専門家(弁護士、公認会計士等)と連携し、期間内に申立てを行うことが重要です。
また、譲渡等の判断や買取人選定のためにも、平時から株式の時価を把握しておくことが有益といえます。
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