加藤&パートナーズ法律事務所

加藤&パートナーズ法律事務所

法律情報・コラム

法律情報・コラム

「会社内部紛争を防止するための株主管理・株主対策」相続人等に対する売渡請求2

【目次】

 1 相続人等に対する売渡請求とは

 2 相続人等に対する売渡請求の手続

  Ⅰ 定款規定の存在〔相続発生後の導入の可否〕

  Ⅱ 株主総会の特別決議

 Ⅲ 売渡請求の実施

 Ⅳ 価格の協議・裁判所による価格決定

 Ⅴ 財源規制

3 オーナー株主に相続が発生した場合の危険

 Ⅰ 起こりうるクーデター

 Ⅱ クーデター対策

2 相続人等に対する売渡請求の手続

Ⅲ 売渡請求の実施

(1)請求の通知

 売渡請求は上記の株主総会決議に基づき行い(会社法176条1項本文)、通常は証拠化のため内容証明郵便で通知します。

 行使期限は、会社が株主の死亡等の一般承継発生の事実を知ってから1年です(同項ただし書)が、会社が推知困難な者に株式が包括遺贈された場合は「会社が包括遺贈の存在を知った日」から起算すべきとの解釈もあります。

 相続放棄や後順位相続人出現の可能性も考慮し、1年以内に売渡請求が完了するよう準備することが大切です。

(2)撤回自由とその限界

 相続人等に対する売渡請求は、会社がいつでも撤回できます(会社法176条3項)。

 例えば、売渡請求後、買取価格が会社の想定よりも高額化見込みとなり、財源規制(会社法461条1項5号)を考慮し、撤回する場合等です。

 「いつでも」と定められてはいますが、撤回が可能なのは売渡請求の発効までと解されています。具体的には、遅くとも売買代金決済時点までであり、限定する見解でも、協議(会社法177条1項)か裁判所の決定(同項2項)による売買代金決定時点までとされます。実務上は、売渡請求前に売買価格を想定し、協議や裁判所での審理の状況により、財源規制違反の見込みが高まった場合には、撤回の検討をせざるを得ないと考えられます。

Ⅳ 価格の協議・裁判所による価格決定

 原則、会社と対象株主の協議で売買価格を定めますが(会社法177条1項)、いずれかが売渡請求から20日以内に裁判所に価格決定の申立てを行った場合は、裁判所が決定した額が売買価格となります(会社法177条2項、4項)。裁判所は売渡請求時の「会社の資産状態その他一切の事情を考慮しなければならない」とされています(会社法177条3項)。

 売渡請求から20日以内に協議が調わず、価格決定の申立てもなければ、売渡請求は失効します(会社法177条5項)。

 売渡請求を検討している会社は、手続を始める前に専門家のもと買取価格を試算し、裁判所の手続に移行した場合の結果を予測しておくことが大切です。会社の業績によっては、税務上の株価より買取価格が高額になるおそれが十分あります。財源規制にも留意しながら、買取価格の試算結果と許容額をそれぞれ把握したうえで、売渡請求の実施を検討すべきです。

Ⅴ 財源規制

 自己株式取得の一種である売渡請求においては買取価格の総額が分配可能額を超えてはならず(会社法461条1項5号)、違反時には役員等が責任を負う(会社法462条1項柱書、会社法465条1項7号)ため、会社は本制度に関して財源規制を十分に考慮すべきです。

3 オーナー社長に相続が発生した場合の危険

Ⅰ 起こり得るクーデター

 相続人等に対する売渡請求を決議する株主総会では、対象株主は議決権を行使できません(会社法175条2項)。

 そのため、議決権を行使できる株主がオーナー社長の相続人に対する売渡請求を可決し、クーデターを起こす危険性があります。特に売渡請求対象株式の評価に比べ分配可能額が潤沢な場合、財源規制(会社法461条1項5号)をすり抜けてクーデターが起きかねません。

 規定を悪用した経営権争いや支配権争いを防ぐため、本制度の導入・廃止につき慎重に検討すべきです。紛争が起きた場合や発生の可能性が高い場合はオーナー相続人でも対抗可能なこともあるため、会社法紛争に強い弁護士への相談を推奨します。

Ⅱ クーデター対策

 相続人等に対する売渡請求の本来の目的は株式集約であり、有効活用すれば会社の利益となるため、自社の株主や取締役の構成、財務状況、株価評価等を元に本制度の利点・欠点を確認することが重要です。

 なお、法的リスクの評価が鍵なので、弁護士へ相談すると良いでしょう。

▼更に詳しいことをお知りになりたい方は書籍「株主管理・少数株主対策ハンドブック」をご覧ください。

「株主管理・少数株主対策ハンドブック」(日本加除出版)

加藤&パートナーズ法律事務所(大阪市北区西天満)では、関西を中心に会社法、会社内部紛争、事業承継、株主対策に関するご相談・ご依頼をお受けしております。

トップへ戻る