加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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「会社内部紛争を防止するための株主管理・株主対策」属人的定め1

目次】

➡1 属人的定めとは

➡2 経営者株主による議決権行使が困難となったときに対する

対策としての属人的定めの利用

➡3 経営権を保持したままでの株式譲渡を実現するための属人的定めの利用 

  株式譲渡を伴わない経営権の譲渡を実現するための属人的定めの利用

1 属人的定めとは

全株式譲渡制限会社では、①剰余金の配当を受ける権利、②残余財産の分配を受ける権利、③株主総会における議決権につき、株主ごとに異なる取扱いをする旨を定款で定めることができます(会社法109条2項、105条1項各号)。このような定めを「属人的定め」または「属人株」といいます。株主平等原則(会社法109条1項)の例外です。

属人的定めは、議決権に関して柔軟な定めを設けることができ、例えば事業承継において、①経営者株主による議決権行使が困難となったときに対する対策、②経営権を保持したままでの株式譲渡の実現、③株式譲渡を伴わない経営権の譲渡の実現の手段として用いることが考えられます。

2 経営者株主による議決権行使が困難となったときに対する対策としての属人的定めの利用

Ⅰ 属人的定めを利用する意義

議決権の過半数を有する経営者株主が病気等で議決権行使が困難となった場合、株主総会決議ができず重要事項を決定できないという事態が生じ得ます。しかし、「経営者株主が議決権を行使困難なときは議決権を有しない」という属人的定めを設けておけば、こうした事態を防ぐことができます。

Ⅱ 属人的定めの導入の手続

属人的定めの新設や変更には株主総会の特殊決議が必要です。なお特殊決議は、総株主の半数(頭数。定款で引き上げ可)以上で、かつ当該株主の議決権の4分の3(定款で引き上げ可)以上の承認で成立します(会社法309条4項)。厳しい要件ですので、利用できる場合は限定されるでしょう。

Ⅲ 注意点

経営者株主による議決権行使が困難となる事態に備え、属人的定めを設ける場合、例えば「認知症と診断されたときに議決権を0とする」との定款規定が考えられます。しかし、認知症の診断があっても判断能力が十分残っている場合もあり、想定外の結果を招くおそれがあります。

一方、「議決権を行使できるだけの判断能力を失ったとき議決権を0にする」との規定では、判断基準が曖昧で紛争を招くおそれがあります。

したがって、議決権を0とする条件は、経営者株主の想定外の権利喪失を避けつつ、条件を満たすか否かについて客観的に明確に判断できる内容にすることが必要です。

3 経営権を保持したままでの株式譲渡を実現するための属人的定めの利用

Ⅰ 属人的定めを利用する意義

例えば、相続税対策として株式を後継者に譲渡していくと、後継者の議決権が過半数を超えるに至った際、経営を任せる意思があれば問題ありませんが、経験不足などから経営者自身が重要な意思決定を続けたい場合もあります。その場合は、属人的定めで経営者に複数議決権を付与すれば、経営権を保持したまま株式を先行して譲渡することが可能です。

Ⅱ 拒否権付種類株式を利用する場合との違い

経営権を保持したまま株式を譲渡する方法としては、拒否権付種類株式の発行によることも可能です。では、属人的定めと拒否権付種類株式を用いるのではどのような違いがあるでしょうか。

(1)株主の変更により影響を受けるか否か

属人的定めは、特定の株主だけに特別の権利を認めるものであり、他の人が株式を取得してもその効力は及びません。

これに対し、拒否権付種類株式を発行した場合は譲渡や承継があっても権利内容は維持されます。そのため重要事項は、経営者株主から株式を引き継いだ者で構成される種類株主総会の承認が必要となり、後継者が株式の過半数を持っていても経営判断が他人に左右されるおそれがあります。

ただし、当該種類株主総会決議を必要とする条件を後継者が当該株式を保有していることと定款で定めたり、取得条項を付けて後継者以外が取得した場合に会社が買い取れるようにしておけば、このリスクは回避できます。その結果、属人的定めを設ける場合と大きな違いはなくなります。

          

(2)公開会社でも導入可能かどうか

属人的定めは全株式譲渡制限会社でのみ導入可能です(会社法109条2項)。これに対し、種類株式は役員選解任権付種類株式(会社法108条1項9号、2項9号)を除き、公開会社でも発行可能です。

よって、公開会社が属人的定めを設けるには定款を変更して譲渡制限会社にする必要があり、手間がかかります。

(3)導入手続の相違

属人的定めを設けるには株主総会の特殊決議が必要です。そのため、例えば経営者株主が発行済株式総数の9割を有していても、株主の頭数要件を満たさなければ株主総会決議を成立させることができません。一方、種類株式を発行するための定款変更は株主総会の特別決議で行うことができます(会社法309条2項11号、466条)。特別議決は議決権の過半数を有する株主の出席という定足数要件を満たせばよいため、先の例では発行済株式総数の9割を有する経営者株主の出席をもって株主総会決議を成立させることが可能です。

(4)取締役会決議事項についても対象にできるか否か

拒否権付種類株式は、株主総会決議事項だけでなく取締役会決議事項も拒否権の対象にできます。

一方、属人的定めは株主総会での議決権が複数付与されるのみですので、取締役会事項には直接影響せず、取締役の選任・解任を通じて間接的に関与するにとどまります。

(5)主体的に経営に関する意思決定ができるか否か

属人的定めにより株主総会の議決権を特定株主に複数付与する場合、当該株主は株主総会決議を直接的に左右できるため、主体的な経営判断が可能です。一方、拒否権付種類株式では株主総会や取締役会の決議事項を拒否できるのみで、主体的な意思決定はできず、議決権の過半数を有する株主と対立すれば、経営判断が停滞するおそれがあります。

(6)登記の要否

属人的定めは登記されないため、定款で確認する必要があります。一方、種類株式の内容は登記されるため、株主や債権者以外の外部者でも当該株式の情報を容易に確認できます。そのため、属人的定めによる方法をとれば、好ましくない外部者に後継者の力不足等のネガティブな印象を与えるリスクを避けることが可能です。

(7)小括

属人的定めは、議決権の過半数を有する株主と拒否権付種類株式を有する株主の対立により、重要な意思決定が停滞することや、外部者へのネガティブな印象を回避できる点で優れています。

一方、拒否権付種類株式は導入が容易で、取締役会決議にも直接影響を及ぼすことができる点で優れています。

どちらの方法をとるかは、重視する目的等に応じて判断することが重要です。


加藤&パートナーズ法律事務所(大阪市北区西天満)では、関西を中心に会社法、会社内部紛争、事業承継、株主対策に関するご相談・ご依頼をお受けしております。

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