加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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辞任した取締役が居住する社宅の明渡しを求めることの可否

1 役員社宅利用関係の法的性質

2 使用貸借関係に該当する場合

3 賃貸借関係に該当する場合の借地借家法適用の有無

1 役員社宅利用関係の法的性質

役員社宅の利用関係がいかなる法律関係に該当するかは、取締役が社宅の使用について対価を負担しているか否かを基準として判断されるのが一般的である。すなわち、取締役が社宅の使用に関し何らの対価も支払っていない場合には、その関係は使用貸借関係(民法593条以下)に該当し、これに対し、対価を支払っている場合には、賃貸借関係(民法601条以下)と解されるのが原則である。もっとも、対価の支払いが認められる場合であっても、その金額が著しく低額であり、社宅の使用によって得られる利益との間に実質的な対価関係が認められないもしくは希薄な場合には、当該利用関係を賃貸借とみることは相当でなく、使用貸借と評価される余地がある。

この点につき、最高裁昭和29年11月16日判決(民集8巻11号2047頁)は、会社役員社宅の利用関係がいかなる法律関係に該当するかは、当事者間の契約の趣旨を踏まえて判断すべきであると判示している。他の裁判例においても、同判決の考え方を前提として、社宅利用料の多寡を考慮し、使用貸借か賃貸借かを区別する傾向がみられる。

2 使用貸借関係に該当する場合

仮に、役員社宅の利用関係が使用貸借に該当すると評価される場合には、たとえ契約書上、取締役の地位喪失時を明渡時期と明示されていないとしても、①取締役としての在任期間を貸借期間とする趣旨で締結された契約、又は②取締役としての職務遂行を目的として成立した契約であると解されることになる。したがって、取締役が辞任その他の事由により取締役の地位喪失時点で、使用貸借関係は当然に終了する(民法597条1項、2項)。

この結果、社宅の貸主である会社は、借主である退任取締役に対し、退任と同時に、社宅の明渡しを求めることが可能となる。

3 賃貸借関係に該当する場合の借地借家法適用の有無

取締役が役員社宅の使用につき相当額の対価を支払っている場合には、会社と取締役との関係は賃貸借と判断されることになるが、その場合、当該役員社宅の賃貸借関係に借地借家法がそのまま適用されるか否かが問題となる。

通常、建物の使用関係が賃貸借契約に該当する場合には、借地借家法の適用を受け、契約の更新拒絶や解約に際しては、法定の手続を履践する必要があるほか、「正当事由」がなければこれらを行うことはできない等契約関係解消にあたって制限が課されている(借地借家法26条〜29条)。また、これらの規定に反し、賃借人に不利となる特約は無効とされる旨の制限もある(借地借家法30条)。

この点に関し、最判昭和35年5月19日・民集14巻7号1145頁は、雇用契約が存続している期間に限り社宅の使用を認める旨の特約について、旧借家法6 条(現行借地借家法30条に相当)の適用を否定した。また、最判昭和39年3月10日・集民72号・431頁は、当該特約が存在しない場合であっても、使用料が著しく低廉であり、かつ従業員に限定して社宅を使用させていたといった事情の下では、旧借家法の適用を否定した。

これらの判例は、従業員社宅の利用関係について、労働契約に付随する特殊な建物利用関係であることを理由に、そもそも旧借家法の適用が及ばないか、あるいは、雇用関係の終了を明渡事由とする特約が存在したとしても、それが賃借人に不利な特約とはいえず、無効とはならないとの立場を採っている。

以上の判例理論を踏まえると、役員社宅についても、役員としての地位と密接に関連して建物の使用が認められている場合には、その利用関係は、役員の身分を前提とする特殊な賃貸借関係と位置づけることができる。このような場合には、仮に借地借家法に抵触する内容の特約が存在したとしても、その効力は否定されず、また、特約が存在しない場合であっても、借地借家法の適用自体が排除されるものと解するのが相当である。

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