加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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新型コロナウイルス感染症対策と取締役会①

はじめに

 令和2年4月,新型コロナウイルス感染症の感染拡大により緊急事態宣言が発令され,5月にもその期間が延長される旨発表されました。緊急事態宣言においては,人同士の接触の機会を減らすように要請されています。これを受けて,企業の皆様におかれましても,社員や役員の接触の機会を減らすよう,様々な対応を試みておられるところかと思います。

 その中でも,取締役会については,新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により取締役会において協議すべき喫緊の議題も多く,また,代表取締役が3ヶ月に1度以上自己の職務執行の状況を取締役会に報告しなければならないため(会社法363条2項),最低でも3ヶ月に1度開催しなければならないことから,その開催方法の工夫等により,取締役同士の現実の接触なくして取締役会を開催することができないか検討されていることでしょう。

 本稿では,非接触による取締役会の開催方法として考え得る方法のひとつとして,テレビ,電話,Webによる会議の方法での取締役会の実施を紹介したいと思います。

参照記事

新型コロナウイルス感染症対策と取締役会②


テレビ,電話,Webによる会議

1 テレビ会議,電話会議,Web会議等の方法での取締役会への出席

 取締役は,取締役会の場に物理的に赴くことなく,テレビ会議,電話会議,Web会議等の方法により取締役会に出席することが認められると解されています。取締役会議事録の記載内容について規定した会社法施行規則101条3項1号は,取締役会が開催された場所に存しない取締役がいる場合における当該取締役の出席方法について,取締役会議事録に記載すべきと定め,取締役会が開催された場所に存しない取締役が存在しうることを前提としているためです。


2 テレビ会議,電話会議,Web会議等の方法での取締役会開催時の注意点

 ただし,テレビ会議,電話会議,Web会議等の方法で取締役会を開催する場合には,「取締役間の協議と意見交換が自由にでき,相手方の反応がよく分かるようになっている場合,すなわち,各取締役の音声と画像が即時に他の取締役に伝わり,適時的確な意見表明が互いにできる仕組み」である必要があることには注意すべきです(法務省民事局参事官室平成8年4月19日付「規制緩和等に関する意見・要望のうち,現行制度・運用を維持するものの理由等の公表について」)。

 実際,会議室の固定電話と遠方の取締役の携帯電話で通話状態にしていたのみで,固定電話がスピーカーフォンにすらなっていなかった状態で取締役会が実施された場合に,遠方の取締役の音声が他の取締役全員に即時に伝わるものではなく,互いに適時的確な意見表明ができていたとはいえないことから,法的には取締役会を欠席したと評価されると判断した裁判例もあります(福岡地判平成23年8月9日Westlaw Japan 文献番号2011WLJPCA08099003)。

 また,映像や音声等が乱れる等して,適時的確な意見交換が阻害されるような事態が生じずることのないよう,会議システムを確立することも重要です。上述の裁判例に鑑みても,会議システムの不具合により音声トラブル等が発生し,取締役感の協議や意見交換に支障が生じた場合には,当該システムを用いて取締役会に参加した取締役は,法的には取締役会を欠席したものと判断される可能性が高いためです。


3 取締役会議事録の記載

 取締役会議事録には,当該社外取締役がテレビ会議の方法により参加したことを明記しなければなりません(会社施行規則101条3項1号)。

 また,テレビ会議,電話会議,Web会議等の方法により取締役会を開催する際には適時的確な意見表明が互いにできる仕組みが求められることから,取締役会議事録には,例えば「議長は,審議に先立ち,テレビ会議システムにより,出席取締役が一堂に会するのと同等に,適時的確な意見表明が互いに可能な状態であることを確認した」と明記しておくことが望ましいです。

 取締役会議事録には,取締役会の開催場所を記載しなければならないところ(会社施行規則101条3項1号),新型コロナウイルス感染症対策として,全員が別室,自室等から会議システムにより参加する方式で取締役会を開催する場合に物理的な取締役会の開催場所を観念できるのか問題となり得ますが,このような場合であっても,議長の所在する場所を取締役会の開催場所として記載すれば問題ありません。

 また,取締役会議事録には,出席取締役及び監査役が署名又は,記名押印をしなければなりません(会社法369条3項)。テレビ会議,電話会議,Web会議等の方法により取締役会を開催した場合,出席取締役全員は取締役会の場に存しないことから,取締役会議事録を郵送等で回付して取締役に順次押印してもらう方法や,取締役会事務局において取締役全員の印鑑を預かって管理し,出席取締役全員から取締役会議事録の内容の確認,了承が得られた後に事務局が押印を代行する方法を検討する必要があります。

 当該取締役会決議に基づき登記を行う場合には,登記申請時に取締役会議事録を添付する必要があるため,登記すべき期限を遵守するため,できる限り時間のかからない取締役会議事録の作成方法を検討する必要があるでしょう。


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