加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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新型コロナウイルス感染症対策と取締役会②

はじめに

 新型コロナウイルス感染症対策により,企業においては,取締役同士の現実の接触なくして取締役会を開催することができないか検討されていることかと存じます。

 本稿では,以前に引き続き,非接触による取締役会の開催方法として考え得る方法のひとつとして,書面決議での取締役会の実施や通知による報告の省略について紹介したいと思います。

参照記事

新型コロナウイルス感染症対策と取締役会①


書面決議

1 書面決議ができる場合

 会社法上,書面や電磁的記録のみで取締役会の決議があったものとみなされ,取締役会の招集手続及び決議を省略することができる場合があります(書面決議)。書面決議の要件は,①取締役が取締役会の決議の目的である事項について提案をした場合であること,②当該提案につき議決権行使可能な取締役全員が,書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたこと,③(監査役設置会社の場合)監査役が当該提案について異議を述べなかったことです(会社法370条)。

 なお,特別取締役による取締役会決議については,書面決議を行うことはできません(会社法373条4項)。


2 ②取締役全員による同意の意思表示

 取締役が取締役会の決議の目的事項について書面等で提案を行い,これに対して,取締役全員が同意書を提出して,同意の意思表示を行います。取締役による同意の意思表示は,書面のみならず,電磁的方法(電子メール等)により行うことも認められています。

 この際,書面決議があったとみなされる日から10年間,取締役全員が同意の意思表示をした書面や電磁的記録を10年間本店に備え置かなければならないこと(会社法371条1項)には注意が必要です。


3 ③監査役が異議を述べないこと

 監査役設置会社の場合,書面決議を行うためには,監査役が異議を述べないことも要件となります。監査役に対する異議の有無の確認の要否,方法,期限等については,法令上定めがありません。実務上は,取締役全員に対するのと同様に,書面等で取締役による提案内容を送付し,監査役から,書面又は電磁的方法により当該提案に対する異議の有無を通知するように求めることが多いでしょう。


4 取締役の善管注意義務との関係での留意点

 書面決議は,取締役会での決議事項の内容,重要性等にかかわらず,実施することが認められています。

 ただし,以下の理由から,重要な業務執行に関して意思決定を行う場合には,書面決議ではなくテレビ会議,電話会議,Web会議等の方法による取締役会決議を行うことが望ましいと考えられます。

 取締役の業務執行について善管注意義務違反の有無が争点となった場合には,当該業務執行の決定の過程及び内容に著しく不合理な点がないといえるかが判断されます。上述のとおり,書面決議は,事前の書面等による取締役の提案,それに対する取締役全員の書面等による同意のみによって行うことができます。そのため,書面決議の場合には,業務執行の意思決定において十分な判断材料の提示,説明,それに基づく取締役間の協議,意見交換等が行われたとは言いがたい,または,そのように認めるだけの証拠が存在しないとして,取締役の善管注意義務が認められるおそれが高まるといえます。


5 取締役会議事録の記載

 書面決議の方法により取締役会決議があったとみなす場合,取締役会議事録には,①取締役会の決議があったものとみなされた事項の内容,②当該事項の提案をした取締役の氏名,③取締役会の決議があったものとみなされた日,④議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名を記載しなければなりません(会社法施行規則101条4項1号)。

 また,書面決議に基づき,当該事項について登記を申請する場合には,書面決議にかかる議事録のみならず(商業登記法46条3項),書面決議を行うことができる旨定められた定款を添付することが求められます(商業登記規則61条1項)。


通知による報告の省略

 取締役,会計参与,監査役又は会計監査人が取締役(監査役設置会社にあっては,取締役及び監査役)の全員に対して取締役会に報告すべき事項を通知したときは,当該事項を取締役会へ報告することを要しないため(会社法372条1項),当該事項の報告のための取締役会を省略することができます。

 ただし,取締役会設置会社においては,代表取締役が3ヶ月に1度以上自己の職務執行の状況を取締役会に報告しなければならないところ(会社法363条2項),この報告については,取締役全員に対する通知により取締役会を省略することができないことには注意が必要です(会社法372条2項)。


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