加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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新型コロナウイルス感染症対策と労務管理③

はじめに

 本稿を始めとする一連の記事では,新型コロナウイルス感染症対策を踏まえ,企業の皆様が行いうる労務管理とその導入手順,導入により受け取ることができる助成金等についてお伝えしております。

 本稿では,新型コロナウイルス感染症の影響により,雇用調整を検討する際の注意点を簡単にご紹介致します。

参照記事

新型コロナウイルス感染症対策と労務管理①

新型コロナウイルス感染症対策と労務管理②


新型コロナウイルス感染症の影響による雇用調整

1 整理解雇

 今後,新型コロナウイルス感染症の影響により企業の業績悪化を免れられず,各種助成金の活用等によりできる限り雇用の維持のため努力してきたものの,やむを得ず人員削減のための整理解雇を検討する場合があるかもしれません。このような理由による整理解雇は認められるのでしょうか。

 一般的に,解雇は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合には権利の濫用にあたり無効となります(労契法16条,解雇権濫用法理)。特に整理解雇は,企業の業績悪化等の経営上の理由により人員削減のために行う解雇であり,社員と無関係の事情により行われるものであるから,その有効性は厳格に判断されます。裁判例上,整理解雇の有効性は,①人員削減の必要性,②解雇回避措置の相当性,③人選の合理性,④手続の合理性を総合考慮して判断されます。

 ①人員削減の必要性については,現実に企業に倒産の危機が生じる差し迫った必要性がある場合に限定されるものではなく,企業の経営判断が尊重される傾向にあります。そのため、新型コロナウイルス感染症の影響により業績悪化を免れられず、やむを得ず人員削減する場合には、人員削減の必要性は認められると考えられます。②解雇回避措置の相当性については,解雇に先立ち,当該企業の状況に応じて配転,出向,一時帰休,賃下げ,希望退職等の措置を講じ,解雇を回避する努力を行ったかどうか判断されます。③人選の合理性については,人選の基準として勤務成績,年齢,貢献度等どのような基準を採用するのであれ,恣意的な選択となっていないといえる場合には合理性が認められる傾向にあります。④手続の合理性については,企業が社員に対して誠実に説明・協議を行ったどうか判断されます。


2 雇止め

 また,新型コロナウイルス感染症の影響により,有期雇用の社員についても,期間満了時に契約を更新せず雇止めを実施して,雇用調整を図ることを検討する場合があるかもしれません。このような場合,契約期間の満了という事由がありますが,雇止めは認められるのでしょうか。

 有期雇用の社員の中には,労働契約を何度も更新して既に長期間雇用されている場合など,正社員と同等の業務を行っている者も存在します。このような有期雇用の社員について,契約自由の原則から突如契約更新を拒否することができるとすれば,有期雇用の社員の保護に欠けます。そこで,労契法19条は,以下のいずれかの場合であって,有期雇用の社員に対して雇止めを行うことが客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められないときには,従前の有期労働契約と同一条件で契約が更新されたものとみなされると定め,企業による雇止めを制限しています。

①過去に反復して更新されたことがある有期労働契約において,その契約期間の満了時に契約更新しないことにより有期労働契約を終了させることが,正社員に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できる場合

②当該社員において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されると期待することに合理的な理由がある場合

 ①は,これまで有期雇用社員の契約は当然更新されており,更新しなかったことはなかった上に,業務内容も正社員と有期雇用社員で殆ど違いがなかったような場合がこれにあたります。

 ②は,有期雇用社員の業務の内容,性質が臨時的なものでなく,雇用関係の継続が期待されており,実際にも何度か契約が更新されていたというような場合がこれにあたります。

 なお,今回の新型コロナウイルス感染症の影響のように,人員削減の必要性が生じている場合には,有期雇用の社員と正社員双方の人員削減が問題となりえますが,有期雇用の社員と正社員を区別して人員削減の措置を行うことが一切認められないわけではありません。


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