加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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新型コロナウイルス感染症対策と株主総会⑥(取締役の任期)

はじめに

 本稿を始めとする一連の記事においては,新型コロナウイルス感染症の拡大防止の観点から,企業の皆様が令和2年度の定時株主総会において,直面しうる問題点とそれに対する対応の一例等を簡単にご紹介しております。

 本稿では,令和2年度の定時株主総会において改選される予定の役員に関する問題についてご紹介致します。

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役員の任期

 これまでの記事で述べてきたとおり,会社法上,定時株主総会の開催は,新型コロナウイルス感染症の感染が拡大している状況が解消された後合理的な期間内に行われればよいため,定時株主総会の開催を延期する選択をする企業もいらっしゃることでしょう。

 また,決算業務や監査業務の遅延により,従来の定時株主総会の開催時期には,計算書類の提供や業務報告を行うことが困難であるため,継続会において後日,業務報告や計算書類の承認決議を行うという選択をする企業もいらっしゃることでしょう。

 ここで,令和2年度開催の定時株主総会において,取締役の任期満了により,取締役が改選される予定となっていたにもかかわらず,定時株主総会について上記のような措置を採ることとなった場合,現取締役の任期はいつ満了し,新たな取締役はいつ選任されることになるのでしょうか。


1 定時株主総会の開催が延期された場合

 取締役等役員の選解任は株主総会決議により行われるところ(会社法329条1項),取締役の任期は,選任後一定年数経過後(2年以内,定款により上限短縮可能)の定時株主総会の終結の時までと定められています(会社法332条)。そして,取締役が任期満了により退任したにもかかわらず,新たな取締役が選任されていない場合には,新取締役が選任されるまでの間,退任した取締役が,依然として取締役としての権利義務を有します(権利義務取締役,会社法346条)。

 そして,これまでの登記実務においては,企業の都合等により定時株主総会の実施が遅れ,取締役の任期が満了した後に定時株主総会が開催され,同じ取締役が改めて選任された場合,登記簿上,取締役の地位の空白期間を認め,新たな選任につき「重任」ではなく「就任」と登記されていました。

 すなわち,取締役の任期満了が6月20日,同日定期株主総会により再び選任されたとき,登記簿上「6月20日退任」「同日重任」と記載されますが,取締役の任期満了が6月20日,7月20日に株主総会により選任されたときには,登記簿上「6月20日退任」「7月20日就任」と記載されることになります。

 しかし,この新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受け,法務省は,定時株主総会の開催が延期された場合には,当該定時株主総会が終結するまでの間,現取締役の任期は継続するとして,登記簿上も「重任」の文言を用いるとの考えを示しました(法務省「商業・法人登記事務に関するQ&A」Q1参照)。

 すなわち,例年株主総会は6月20日に実施されていたが、令和2年度の株主総会が7月20日に行われ,取締役選任決議がなされたときであっても,登記簿上「7月20日退任」「同日重任」と記載されることになります。

 なお,定款において定時株主総会の議決権行使のための基準日を3月末日と定めている場合,基準日株主が権利行使できるのは基準日から3か月以内に行使する権利に限られることから,定時株主総会延期の際には,改めて基準日を定めて公告する必要がある点には留意が必要です(会社法124条2項,3項)。


2 継続会が実施された場合

 継続会を実施する場合としては,例えば,権利行使できる株主を定める基準日との関係で,例年どおりの実施日に定時株主総会を開催する必要があるけれども,業務の遅延等の理由により,定時株主総会で行うべき事項の一部については例年どおりの実施日に間に合わないため,日を改める必要がある場合に,当該事項については継続会の方法により株主総会を開催する場合が考えられます。

 参照記事:新型コロナウイルス感染症対策と株主総会②(継続会の実施)

 継続会とは,株主総会の一部について,日と場所を改めて開催することが,当初の株主総会において決定され,それに基づいて開催されるものをいいます(会社法317条)。そのため,継続会は,あくまで株主総会の一部として実施されるものです。

 そうすると,上述のとおり,取締役の任期は選任後一定年数経過後の定時株主総会の終結の時と定められていることに鑑みれば,継続会が実施された場合における取締役の任期満了の時は,原則として,定時株主総会の終結時である継続会の終結時であることになります。

 例えば,例年6月20日に定時株主総会が開催されていたけれども,令和2年度は,業務の遅延等により6月20日に定時株主総会を開催,7月20日に継続会を開催した場合,取締役は7月20日に任期を終えることになります。この際,登記簿上「7月20日退任」「同日重任」を記載されることになるでしょう。

 ただ,企業の都合上,当初の定時株主総会の開催日に取締役を任期満了として退任させ,新たに取締役を選任することが望ましいと考えられる場合には,これを実現することも可能です。すなわち,企業としては,現任の取締役を当初の定時株主総会の開催日に辞任させ,効力発生日を当初の定時株主総会開催時とすることを明らかにした上で,取締役選任決議を行うことが考えられます。

 例えば,当初の株主総会の開催日が令和2年6月20日の場合,登記簿上「6月20日辞任」「6月20日就任」と記載されることになるでしょう。

 参照:金融庁・法務省・経済産業省「継続会(会社法317条)について」第2の2第2段落


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