加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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東京証券取引所、市場区分に関する新制度案を公表

 株式会社東京証券取引所(以下「東証」といいます。)は、本年2月21日、現行の市場区分の変更や上場基準を変更する新制度案(以下「新制度案」といいます。)を公表しました(2020年2月21日付東証「新市場区分の概要等について」https://www.jpx.co.jp/equities/improvements/market-structure/nlsgeu000003pd3t-att/nlsgeu000004kjhc.pdf)。

 以下、新制度案について現行制度にも適宜触れつつご紹介いたします。

市場区分について

 現行の東証における市場区分は、大きく分けて「市場第一部」、「市場第二部」、「マザーズ」、「JASDAQ(スタンダード及びグロース)」の4つに分けられていますが、令和4年4月1日をめどに「プライム市場」「スタンダード市場」「グロース市場」の3つの市場区分への見直しが行われることが予定されています。

 各市場区分におけるコンセプトは次のとおりです。

 「プライム市場」:多くの機関投資家の投資対象になりうる規模の時価総額(流動性)を持ち、より高いガバナンス水準を備え、投資家との建設的な対話を中心に据えて持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場

 「スタンダード市場」:公開された市場における投資対象として一定の時価総額(流動性)を持ち、上場企業としての基本的なガバナンス水準を備えつつ、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場

 「グロース市場」:高い成長可能性を実現するための事業計画及びその進捗の適時・適切な開示が行われ一定の市場評価が得られる一方、事業実績の観点から相対的にリスクが高い企業向けの市場

 新制度案の公表に先立ち、平成31年3月に実施されたヒアリング(以下、単に「ヒアリング」といいます。)では、①市場の位置づけの重複、わかりづらさ、②特に市場第一部上場企業の経営基盤やガバナンス等が低水準な企業が多数含まれていることが指摘されていました(東証2019年3月「市場構造の在り方等に関する市場関係者からのご意見の概要」4頁、6頁

https://www.jpx.co.jp/equities/improvements/market-structure/nlsgeu000003pd3t-att/nlsgeu000003wcm3.pdf)。

 このような意見を受けて、新制度案では、現行の4つの市場区分から3つの市場区分に変更されることになったと思われます。

新市場区分における上場基準等(新規上場基準及び上場維持基準)の考え方

 上記各市場区分のコンセプトに従い、時価総額(流動性)やコーポレート・ガバナンスに関する基準や定量的・定性的な基準が新たに設けられることになりました。

 また、ヒアリングでは、上場基準と廃止基準に乖離があり、市場からの退出が有効に機能していないとの意見もありました(上記ご意見の概要7頁)。

 そのため、新制度案では、各市場区分の新規上場基準と上場維持基準は原則として共通化されることになりました。さらに、現在の一部指定(※1)基準や二部指定替え(※2)基準、市場変更(※3)基準のような「市場区分間の移行」に関する緩和された基準は設けられないこととなり、その結果、上場会社は、異なる市場区分への移行を希望する場合には、移行先の市場区分への上場を新たに申請のうえ、新規上場基準と同様の基準による審査を受けることになります。

※1一部指定:市場第二部に上場している会社が、市場第一部指定銘柄となること(いわゆる、東証第一部に上場)。

※2二部指定替え:市場第一部に上場している会社が、市場第二部指定銘柄となること

※3市場変更:「マザーズ」や「JASDAQ」に上場している会社が、本則市場(市場第一部・第二部)に上場市場を変更すること、又は本則市場やマザーズからJASDAQに上場市場を変更すること

経過措置

 新制度案では、選択を希望する市場区分の上場維持基準に適合していない場合には、「新市場区分の上場維持基準の適合に向けた計画書」の提出・開示をもって経過措置が適用されます。

 経過措置の内容としては、プライム市場につき、当分の間、新市場区分の上場維持基準に代えて、現行の二部指定替え基準と同水準の基準(流通株式時価総額10億円以上、流通株式比率5パーセント以上など)を上場維持基準として適用し、スタンダード市場及びグロース市場につき、当分の間、新市場区分の上場維持基準に代えて、現行の上場廃止基準と同水準の基準(流通株式時価総額2億5000万円以上、流通株式比率5パーセント以上など)を上場維持基準として適用するというものとなっています。

新制度案のまとめ

 具体的に新制度案で予定されている基準は、次のとおりです。

1 プライム市場

項目

新規上場

上場維持

経過措置

株主数

800人以上

800人以上

800人以上

流通株式数

2万単位以上

2万単位以上

1万単位以上

流通株式時価総額

100億円以上

100億円以上

10億円以上

売買代金

時価総額

250億円以上

1日平均売買代金0.2億円以上

月平均40単位以上

時価総額

流通株式比率

35%以上

35%以上

5%未満

収益基盤

最近2年間の利益合計が25億円以上

売上高100億円以上かつ時価総額1000億円以上

財政状態

純資産

50億円以上

2 スタンダード市場

項目

新規上場

上場維持

経過措置

株主数

400人以上

400人以上

150人以上

流通株式数

2千単位以上

2千単位以上

500単位以上

流通株式時価総額

10億円以上

10億円以上

2.5億円以上

流通株式比率

25%以上

25%以上

5%以上

時価総額

収益基盤

最近1年間の利益が1億円以上

財政状態

純資産

正であること

―(※4)

―(※4)

売買高

公募の実施

※4 全市場に共通する廃止基準として、債務超過に関する基準が設けられる予定です。

3 グロース市場

項目

新規上場

上場維持

経過措置

時価総額

上場から10年経過後 40億円以上

上場から10年経過後 5億円以上

流通株式数

1千単位以上

1千単位以上

5百単位以上

流通株式時価総額

5億円以上

5億円以上

2.5億円以上

流通株式比率

25%以上

25%以上

5%以上

業績

株式数

150人以上

150人以上

150人以上

財政状態

純資産

―(※5)

―(※5)

売買

月10単位未満/3か月間売買不成立

月10単位未満/3か月間売買不成立

株価

公募

500単位以上

※5 全市場に共通する廃止基準として、債務超過に関する基準が設けられる予定であることは、スタンダード市場と同様ですが、グロース市場については廃止基準については上場後3年経過後から適用されることが検討されています。

新制度に関する今後のスケジュール

 前述したように、令和4年4月1日に新市場区分への移行が予定されているところ、本年7月に現行制度が改正され、改正後に申請する新規上場会社には新市場区分の上場基準に近い枠組みで上場審査が行われる制度が導入される予定でした。

 ところが、東証は、本年3月18日に、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた対応を優先するため、現行制度の改正手続きについては延期することを発表しており、本年3月に行われる予定であった意見募集手続の実施についても延期されています(東証「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた対応方針について」

https://www.jpx.co.jp/news/1020/20200318-01.html)。

 そのため、新制度案の導入に関する今後のスケジュールについては遅れが生じてくることが予想されますので、これに関する東証の動きについては今後も継続して注視していくことが必要です。

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