加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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新型コロナウイルス感染症対策と契約関係③

はじめに

 本稿を始めとする一連の記事においては,新型コロナウイルス感染症の影響により契約上問題となり得る法的責任についてお話ししております。

 新型コロナウイルス感染症対策と契約関係①,②においては,商品の販売,供給に関する契約を念頭に,契約上問題となり得る法的責任についてお話ししました。

 本稿では,これまでとは異なり,工事の請負契約において問題となり得る法的責任についてお話しします。

参照記事

 新型コロナウイルス感染症対策と契約関係①

 新型コロナウイルス感染症対策と契約関係②


工事延期に伴う法的問題

1 工事の延期

 新型コロナウイルス感染症の影響により資材や人材の確保が困難となり,また感染拡大防止のため人材の手配を制限する必要が生じたため,契約書上の完成予定日までに工事が完成し得なくなった場合,工事を延期することはできるのでしょうか。

 例えば,建設工事標準請負契約約款では「受注者は,この契約に別段の定めのあるほか,工事の追加又は変更,不可抗力,関連工事の調整,近隣住民との紛争その他正当な理由があるときは,発注者に対して,その理由を明示して,必要と認められる工期の延長を請求することができる。」と定めています。この約款を用いていない請負契約においても,同様の条項が置かれている場合が多いかと思われます。

 まず,新型コロナウイルス感染症の影響による資材や人材の不足,人材の手配の制限等は,同約款上工期の延長が認められ得る「不可抗力」にあたるかが問題となります。

 新型コロナウイルス感染症は世界規模で感染拡大しており,非常に大きな影響を与えてルことに鑑みれば,新型コロナウイルス感染症の影響により完成予定日までに工事が完成できなくなったことは,不可抗力によるものであると考えられる可能性が高いでしょう。

 実際,国土建第7号「新型コロナウイルス感染症に係る緊急事態措置の対象が全国に拡大されたことに伴う工事等の対応について」でも,受発注者の故意又は過失により施工できなくなる場合を除き,資機材等の調達困難や感染者の発生など,新型コロナウイルス感染症の影響により工事が施工できなくなる場合は,建設工事標準請負契約約款における「不可抗力」に該当するとの国土交通省の見解が示されています。

 

 新型コロナウイルス感染症の影響による工事の遅延が不可抗力に該当するとしても,同約款に従い,受注者はまず,調達困難な資材について別の調達容易な資材を用いることにしたり,具体的な建築工事の計画に変更を加えたりする等の措置により,工事を延期せずに対応することができないか十分に検討する必要があるでしょう。

 その上で,何かしらの措置を講じたとしても工事の延期はやむを得ない場合には,発注者へ事情を説明して,工事の延期を認めてもらえるよう,交渉することになるでしょう。受注者と発注者との間で工事の延期について合意できた場合には,将来の紛争回避のために,改めて合意書を作成しておくことが望ましいでしょう。


2 工事費用の増加

 新型コロナウイルス感染症の影響により資材や人材の確保が困難となり,その費用も高騰する可能性があります。受注者は,発注者に対し,増加した工事費用の支払いを請求することができるのでしょうか。

 例えば,同じ約款では,請負代金の増額を請求することができる場合として,「契約期間内に予期することのできない法令の制定若しくは改廃又は経済事情の激変等によって,請負代金額が明らかに適当でないと認められるとき」や「中止した工事又は災害を受けた工事を続行する場合において,請負代金額が明らかに適当でないと認められるとき」が定められています。この約款を使用しない請負契約においても,同様の条項が設けられていることが多いでしょう。

 新型コロナウイルス感染症の影響により工事費用が増額する場合,新型コロナウイルス感染症がこれまでの感染症とは比にならない程世界的に感染拡大しており,経済事情に与えた影響も極めて大きいことに鑑みれば,上記条項に該当するものとして,請負代金の増額を請求することができると考えられます。


3 損害賠償責任

 新型コロナウイルス感染症の影響により,完成予定日までに工事が完成し得なくなった場合,これにより,発注者に損害が生じることが考えられます。このとき,発注者は,受注者に対し,債務不履行を理由として損害賠償を請求することができるのでしょうか。

 債務不履行を理由とする損害賠償請求が認められるためには,受注者に帰責事由がなければなりません(なお,この要件は民法の改正による変更はありません)。

 しかし,上述のとおり,新型コロナウイルス感染症により完成予定日までに工事が完成し得なくなったことは,「不可抗力」に該当するというのが国土交通省の見解であると示されています。

そのため,新型コロナウイルス感染症により完成予定日までに工事を完成し得なくなったことについて,受注者に帰責事由は認められず,発注者の受注者に対する損害賠償請求も認められない可能性が高いといえます。


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