加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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会社法裁判例-特例有限会社では、任期の定めのない取締役は、正当な理由なく解任されても、会社法339条2項に基づく損害賠償請求はできないとして、元取締役による損害賠償請求が認められなかった事例-

特例有限会社では、任期の定めのない取締役は、正当な理由なく解任されても、会社法339条2項に基づく損害賠償請求はできないとして、元取締役による損害賠償請求が認められなかった事例

東京地判平成28年6月29日 判時2325号124頁(控訴)

第1 判決の概要

本件は、Y社の取締役を務めていたXが、Y社の発行済株式の大半を保有していたAは意思能力を欠いていたにもかかわらず議案に賛成する議決権を行使し、これによりXを取締役から解任する旨の決議がされた(本件決議)と主張して、Y社に対し、主位的に本件決議が無効であることの確認を、予備的に本件決議が不存在であることの確認を求め、また、主位的に役員報酬請求権に基づき、予備的に会社法339条2項の損害賠償請求権に基づき、金銭の支払いを求めた事案である。

本件の争点は、①Aが本件決議において議決権を行使する際に意思能力を有していたか否か、及び②特例有限会社において、任期の定めのない取締役が、正当な理由なく解任された場合、会社法339条2項に基づいて損害賠償請求ができるか否かであるが、本稿では②の争点についてのみ詳細に触れることとする。

本判決は、①本件決議において議決権を行使する際、Aに意思能力があったことを認めた上で、②任期の定めのない取締役は正当な理由の有無にかかわらず、会社法339条2項に基づく損害賠償請求をすることはできないとして、Xの請求をいずれも棄却した。

(参照条文)

会社法339条(解任)

1 役員及び会計監査人は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができる。

2 前項の規定により解任された者は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる。

有限会社法32条

商法第39条第2項、第78条、第254条第1項第3項、第254条ノ2、第254条ノ3、第257条第1項、第258条、第262条、第266条ノ2、第269条及第271条ノ規定ハ取締役ニ之ヲ準用ス

平成17年改正前商法257条

1 取締役ハ何時ニテモ株主総会ノ決議ヲ以テ之ヲ解任スルコトヲ得但シ任期ノ定アル場合ニ於テ正当ノ事由ナクシテ其ノ任期ノ満了前ニ之ヲ解任シタルトキハ其ノ取締役ハ会社ニ対シ解任ニ因リテ生ジタル損害ノ賠償ヲ請求スルコトヲ得



第2 事案の概要

Y社は、不動産の仲介並びに売買等を目的とする特例有限会社であり、Xは、Y社の元取締役である。

Y社の臨時株主総会では、Xを取締役から解任する旨の本件決議がなされた。なお、Y社では取締役の任期は定められていない。

Xは、「第1 判決の概要」記載のように、本件決議が無効、不存在であることの確認を求めるとともに、役員報酬権に基づき金銭の支払いを求める訴訟を提起した。また、それだけでなく、同訴訟において、Xは、本件決議が有効であると判断されることにそなえて、予備的に会社法339条2項の損害賠償請求権に基づく金銭の支払いも求めた。

なお、会社法の施行に伴う関係法令の整備などに関する法律による廃止前の有限会社法(旧有限会社法)32条が準用する平成17年改正前商法(旧商法)257条1項但書では、損害賠償請求の行使を任期の定めがある場合に限定する文言があった。しかしながら、同項を受け継いだ会社法339条2項には、損害賠償請求の行使を任期の定めがある場合に限定する文言はなくなっている。



第3 判旨

本判決は、①の争点については、Aが議決権を行使するに当たり、意思能力を欠いていたとは認められないことを認定し、本件決議が無効であるとはいえないし、不存在であるとも評価できないと判示して、Xの主張を認めなかった。

また、②の争点については、以下のように判示して、特例有限会社において任期の定めのなかった取締役であったXによる損害賠償請求を認めなかった。

旧有限会社法32条が準用する旧商法257条1項但書は、「任期ノ定アル場合ニ於テ」のみ、解任された取締役は解任により生じた損害の賠償を請求し得るとしており、任期の定めがない取締役は、正当な理由なく解任されたとしても、同項但書に基づく損害賠償を請求することはできなかった。同項を受け継いだ会社法339条2項には、損害賠償請求の行使を任期の定めがある場合に限定する文言はないが、会社法の下では、取締役の任期は法律又は定款によって定められており、任期の定めが全くない場合は想定できないことから同文言は不要とされたものと考えられ、会社法の施行により、同項の損害賠償責任の本質に変化が生じたという事情はない。また、解任された取締役を有限会社法の下におけるよりも手厚く保護する実質的な理由は見当たらない。

そうすると、特例有限会社における任期の定めのない取締役が解任されたとしても、当該取締役は、解任の正当な理由の有無にかかわらず、少なくとも会社法339条2項に基づく損害賠償請求をすることはできない。


 

第4 実務上のポイント

会社法では、法律又は定款によって取締役の任期が定められているのに対し、特例有限会社では、旧有限会社法に引き続き、取締役の任期を定めないことが可能である。

ところが、特例有限会社にも適用される会社法339条2項は、平成17年改正前商法257条1項但書と異なり、損害賠償請求権の行使を任期の定めがある場合に限定する文言は付されていないため、特例有限会社の取締役については、任期の定めがない場合も、会社法339条2項に基づく損害賠償請求を行うことができるかが問題となる。

本判決は、この点につき、上記のように特例有限会社における任期の定めのない取締役が解任された場合、会社法339条2項に基づく損害賠償請求はできないとして消極に解している。かかる解釈については、他の下級審裁判例(秋田地判平成21年9月8日金判1356号59頁等)に合致するものであり、かつ学説上も消極に解する見解が有力であることからすれば[1]、今後も裁判実務では、同種事案において同様の判断がなされる可能性が高いように思われる。

もっとも、本判決は、あくまで会社法339条2項に基づく損害賠償請求を認めていないだけであって、他の根拠に基づく損害賠償請求の可能性を排斥しておらず、民法651条2項に基づく損害賠償請求の余地は残されている[2]

そのため、取締役を解任された者としては、民法651条2項等、他の根拠に基づく損害賠償請求が可能かどうかも検討して、今後の対応を検討すべきである。

弁護士 太井 徹



[1] 岩原紳作編『会社法コンメンタール(7)』530頁[加藤貴仁](商事法務・2013)

[2] 前掲岩原530頁参照

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