加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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コーポレート・ガナバンス入門18 -伊勢田道仁著『基礎講義会社法』-

当事務所の客員弁護士でもある伊勢田道仁関西学院大学教授が、今般『基礎講義会社法』を上梓しました。

分類するとすれば、会社法の基本書とか体系書、または教科書と呼ばれるジャンルになろうかと思います。

会社法の体系書については、多くの研究者の方々が執筆されています。

著名な体系書としては、江頭憲治郎先生の『株式会社法 第8版』(有斐閣・2021)がやはり筆頭でしょうか。1000頁を超える分厚さで、また文字サイズの小さな注が山ほど詰まっています。大抵のことには言及されていますから、何か調べたいときには実務家はまずこの本を参照します。

他に有名なものとしては、神田秀樹先生の『会社法 第24版』(弘文堂・2022)があります。こちらは驚異的に改訂されていることと、500頁を切る薄さが特徴でしょうか。私の例を持ち出すこと自体大先生に失礼ですが、削ぎ落とすのが苦手なタイプの私はようやく凝縮の凄みが分かるようになりました。

最近絶大な支持を集めているのが、田中亘先生の『会社法 第3版』(東京大学出版会・2021)です。周辺分野を含めた幅広い知見による裏付けと功利主義的な"田中節"が魅力でしょうか。訴訟の相手方から田中先生の意見書が出てきたことがあったので、敵を利してはならないと我慢して買わなかったのですが、魅力に負けて第3版で遂に買ってしまいました。

"節"と言えば、龍田節先生・前田雅弘先生の『会社法大要 第3版』(有斐閣・2022)は外せないでしょう。厳ついタイトルですが、龍田先生の独特の"節"が効いており、なかなか面白い本です。味わいを残しながらの改訂作業は前田先生も大変だと思います。

掉尾を飾るのは私の恩師である近藤光男先生の『最新株式会社法 第9版』(中央経済社・2020)です。近藤先生のメリハリを効かせた文章が読みやすく、ページ数も600頁を切っており通読できると思います。私は以前の版で通読しました。一度体系的に会社法を勉強したい、学び直したいという方にお勧めです。

伊勢田先生の『基礎講義会社法』に話を戻します。

目次を見てまず目を引くのはこの本の独自の構成です。

長くなりますが、目次を紹介します。

イントロダクション

  第1章 株式会社とは何か

 第1部 コーポレート・ガバナンス

  第2章 株式会社の機関

  第3章 株式会社の経営

  第4章 株式会社の監督

  第5章 役員等の責任

  第6章 株主の経営参加

 第2部 コーポレート・ファイナンス

  第7章 株主の地位と権利

  第8章 株式の内容

  第9章 株式の流通

  第10章 証券発行による資金調達

  第11章 株主への報告と分配

 第3部 コーポレート・ストラクチャー

  第12章 法人としての会社

  第13章 株主会社の設立と解散

  第14章 合併と企業買収(M&A)

  第15章 事業譲渡と会社分割

  第16章 親子会社の形成と法規制

 補章 その他の会社形態

大抵の体系書は、その構成にある程度のパターンがあります。

その点『基礎講義会社法』は、「コーポレート・ガバナンス」、「コーポレート・ファイナンス」、「コーポレート・ストラクチャー」という目的・機能で分けた3部構成が画期的です。

社会的、経済的観点からの記述の多さと相まって、法律書になじみのない方にも読みやすい本になっているように思います。

そして、なんとページ数が約300頁とコンパクトにまとまっています。

その『基礎講義会社法』ですが、導入部分である「イントロダクション」は株式会社の歴史からはじまります。

ご存じの方も多いでしょうが、株式会社の始まりは1602年設立のオランダの東インド会社とされるのが一般的です。

ハイリスク・ハイリターンの香辛料貿易のために、多くの資金を集める仕組み、すなわち会社が権利義務の主体となって、出資者はその出資額の範囲の有限責任しか負わない株式会社制度が誕生したとされています。

日本の会社法では4種の会社が定められています。

合名会社、合資会社、合同会社、株式会社です。

今も小規模企業で残る「有限会社」は、会社法上では「特例有限会社」といって株式会社に含まれます。

これら4種の会社では株式会社が圧倒的多数を占めます。

「持分会社」といわれるその他3種の会社の数は少数です(ただし、合同会社は設立費用の安さもあって増加傾向です。)。 

しかし、株式会社の特徴である多くの投資家からの大規模な資本の集約がなされているのは、株式会社うちでも僅かです。

ほとんどの株式会社は中小規模で限られた株主しかいない閉鎖的な会社です。

多くの投資家から資金を集めるためには株式を自由に譲渡できることが重要ですが、そのためには株式を売買できる市場が必要となります。

そういった意味で、本来の意味での株式会社の姿に忠実なのは、発行する株式を証券取引所(東証、名証、福証、札証)に上場している上場会社約3800社だけということになります。平成30年度税務統計では「会社等」約270万社とのことですから、本当に僅かなものです。

大きな事業を行うには、多くの資本を集める必要があります。そのためにはリスクの分散も必要になってきます。

そして、大規模施設の開発など短期で利益を得ることができないものの多くのリターンが見込まれる社会的に有益な事業も世の中には存在するため、長期的な視点も必要となります。

この点、田中亘先生の「上場会社のパラドックス-流動性が長期志向を生む仕組み」黒沼悦郎=藤田友敬編『企業法の進路・江頭憲治郎先生古希記念』(有斐閣・2017)35頁以下では、「継続企業の永遠の課題」として、①巨額の資本をいかにして長期に亘って事業にコミットさせるか、②企業の意思決定をいかにして長期志向に基づく形で行わせるかという2点を挙げています。

そして、上場会社が、それら課題の解決策として果たした役割について解説しています。

もっとも、短期で利益を得ようとする機関投資家の影響力の拡大は、上場会社の経営者を過度に短期志向に向かわせ、弊害を生じさせている可能性もあります。

短期の利益のために、長期を見据えた持続的成長に必須の人件費や設備投資費が過度に抑制されているのかもしれません。

あるべきコーポレート・ガバナンスというのはいやはや難しいものです。

ただ、難しいがゆえに興味深いというのも事実です。

その議論の前提として会社法の知識はあった方が良いと思います。

その点『基礎講義会社法』は入門書としては最適ではないでしょうか。

加藤真朗

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