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法律情報・コラム

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コーポレート・ガナバンス入門17 -Board3.0とは何なのか?-

Board3.0」という言葉が流行っています。

日経新聞でも紹介されていたので、目にされた方も多いと思います。

米国のロナルド・ギルソン、ジェフリー・ゴードン両教授による論文で用いられた概念です。

Board1.0がいわゆるアドバイザリー・ボード、Board2.0がモニタリング・ボードを指し、Board3.0という新しい取締役会モデルを提示しようとするものです。

日本語版でも読むことができます(宍戸善一教授監訳)。

Board 3.0(取締役会3.0): 上場企業がプライベート・エクイティ(以下「PE投資」)のガバナンスモデルから学ぶべきもの (rieti.go.jp)

アドバイザリー・ボードというのは、助言機能に重点を置いた取締役会です。社外取締役はCEOが信頼する人物が選任されるのが基本です。1970年頃までの米国会社はこうであったと言われています。

一方のモニタリング・ボードというのは、監督機能に重点を置いた取締役会です。経営者から独立した社外取締役が経営者をモニタリングするというものです。1970年代半ばにメルビン・アイゼンバーグ教授によって唱えられたもので、今日の米国上場会社における取締役会モデルとして定着していると言われています。

ギルソン教授らは、このモニタリング・ボードは大きく変わった経営環境、株主構成などに対応できていないとして、ボードを構成する取締役について3つの問題点を指摘しています。

それは、「情報不足」、「リソース不足」、「意欲の限界」です。

そして、これらの問題点を克服するモデルとして、"Board3.0"を提唱しています。

これは、高い収益率を得ているプライベート・エクイティ・ファンド(投資先会社を非上場化させ、構造改革をするなどにより企業価値を高めた上で再上場または売却することで収益を上げる)が、投資先会社に構築するガバナンスモデルを参考にしたものとのことです。

具体的な提言としては、ⅰ従来型の取締役に加えて、新たに経営陣の戦略と業務遂行実績の監督を専門的に相当する「エンパワード」取締役(3.0取締役)を選任し、新設される「戦略検証委員会」に参加する、ⅱ会社は「戦略分析室」を設けてバックアップし、必要な場合には外部コンサルタントへの依頼も認められる、ⅲ報酬は主に株式報酬とすることでインセンティブを高めるといった内容です。

なかなか興味深いものですが、どうしても米国事情に基づく議論であって、肌感覚でわかりにくいのは私だけでしょうか。

舞台を日本に移します。

マネジメント・ボードからモニタリング・ボードへというのが現在のコーポレート・ガバナンス改革の大きな潮流です。

そもそも日本の取締役会は、従業員から出世した社内出身の取締役によって占められてきました。

取締役は、社長とその部下たちというイメージです。

会社法上、取締役会は、①業務執行の決定、②取締役の職務執行の監督を担います(会社法362条2項)。

そのうちの①が中心だったので"マネジメント・ボード"なのです。

そしてモニタリング・ボードというのは、②が疎かだったのではないかという問題意識に立つものです。

社長と部下たちですから、それは部下が社長を監督するのは難しいでしょう。

そこで、社外取締役を取締役会に送り込んで、社長をはじめとする経営陣に対する監督を強化しようというものです。

今、日本では「モニタリング・ボード」とか「モニタリング・モデル」といった言葉が氾濫しています。

しかし、米国流の"モニタリング・ボード"と同じかと言うと少し違うように思います。

米国はCEOやCFO以外はほぼ社外取締役で占められている例が多いようですが、日本はプライム市場でさえ取締役の3分の1を独立社外取締役にするように要求されているだけです(CGコード原則4-8)。

モニタリング・ボードの本質が、少なくとも過半数を占める独立社外取締役が、経営者の選解任権限を持ち、それに基づき株主利益の最大化の観点から経営者を監督するものと捉えると、言葉の用い方に違和感を持つケースが多々あります。

実際には、日本の上場会社の大部分は"アドバイザリー・ボード"、すなわちBoard1.0の段階にあるのではないかと思っています。

だからといってギルソン教授らの論考が、日本のコーポレート・ガバナンスを考えるに際し参考にならない訳ではありません。

ギブソン教授らが指摘するBoard2.0=モニタリング・ボードの問題点の指摘は、日本の上場会社の取締役会の課題にも共通する面があると考えられます。

本稿を執筆中に倉橋雄作『Board3.0議論の本質=取締役会の自律的進化に向けてー』(商事法務2293号4頁)に接しました(というか、実際にはタイトルを入力しただけのタイミングで読んだのですが。)。

倉橋弁護士の論文は、ギルソン教授らの指摘した問題点を敷衍し、日本の取締役会を進化させるための方策を多岐にわたって記した良質な論稿だと思います。

是非ご一読ください。

私のウダウダした駄文をお読みいただくより、余程効率的に時間を活かせます。

と言いつつも無理やり私が付け足すとすると、社外取締役が会社の情報を取得するためのルール(社内規定)を作成するべきということでしょうか。

コーポレートガバナンス・コードにおいても「上場会社は、・・・社外取締役や社外監査役に必要な情報を的確に提供するための工夫を行うべきである。」(補充原則4-13②第2文)としています。

法律的には、社内であっても社外であっても取締役は取締役会の構成員に過ぎず、取締役であることだけで固有の調査権限を有するわけではありません(東京地判平成23年10月18日金判1421号60頁)。

通常は、取締役会事務局が取締役会のために提供する情報だけで足りるのかもしれません。

それでは足りないと考えた場合に、追加で情報を取得する権限・方法をルールで明確に定めておくべきでしょう。

ルールがなければ、経営者の判断次第の面があって、適時適切な情報が提供されないおそれがあります。

もう一つ、常勤監査役などの常勤監査役員の重要性についても強調させていただきます。

倉橋弁護士が述べるとおり(11頁)、常勤監査役員は監査を通じて会社の業務執行状況に精通し、深く広い情報を有しており、他の社外役員と重要な経営課題、リスク情報を共有するハブ機能を担うことができる存在だと考えます。

現実にも社外取締役は常勤監査役員からの情報提供により会社の実情、問題点を理解できる面があると聞きます。

会社法では、監査役会設置会社と異なり、監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社では「常勤」の監査役員の選定が義務付けられていませんが、法の不備と言えるのではないでしょうか。

会社内の状況に精通している、そして会社のために十分時間を費やすことができる常勤の監査役員が必要であることは、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社であっても監査役会設置会社と変わるところはありません。

選定していない会社は、是非ご検討いただきたいところです。

なかなか興味深いBoard3.0ですが、ここまで話題となったのは秀逸なネーミングも一つの要因だと思います。

私も『コーポレート・ガバナンス入門』などというベタベタなタイトルではなく、もっとキャッチ―なタイトルが思い浮かぶ才を得たかったところです。

加藤真朗

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