加藤&パートナーズ法律事務所

加藤&パートナーズ法律事務所

法律情報・コラム

法律情報・コラム

【最高裁判例紹介・前編】株式交換に反対する株主の株式買取請求の「公正な価格」について判断した最高裁決定(令和8年9月30日)

令和8年9月30日、最高裁判所第二小法廷は、株式交換に反対する株主の株式買取請求における「公正な価格」(会社法797条1項)について、重要な判断を示しました。

本決定は、楽天対TBS事件、テクモ事件、JCOM事件における過去の最高裁決定の判断枠組みを踏まえ、競合する買収提案や株式価値の試算が存在する場合の株式買取価格の算定について判断したものです。

今回は、前編として事案の概要と最高裁の判断内容を紹介します。

1 事案の概要

本件は、株式会社関西スーパーマーケット(当時。以下「対象会社」といいます。)が実施した株式交換について、反対株主が株式買取価格を争った事案です。

対象会社は、エイチ・ツー・オー リテイリング株式会社(以下「H2O」といいます。)との間で資本業務提携関係にあり、H2Oは対象会社の株式の約10.66%を保有していました。

他方、オーケー株式会社(以下「オーケー」といいます。)は、対象会社に対し、1株当たり2,250円での公開買付け(TOB)を提案していました。

対象会社は、H2Oの完全子会社であるイズミヤ及び阪急オアシスを株式交換によって完全子会社とし、自らはH2Oの子会社となる経営統合案と、オーケーによる買収提案を比較検討することとなりました。

対象会社は、独立した弁護士及び社外取締役から構成される特別委員会を設置しました。同委員会は、複数の専門家の意見を聴取しながら両提案を比較検討するとともに、H2Oとの交渉を行い、H2Oが取得する議決権割合を当初提案の60%から58%に引き下げるなど、取引条件の改善を実現しました。

また、株式価値算定書においては、株式交換後の対象会社の理論株価について、1株当たり2,400円~3,018円、又は1,787円~3,128円とする試算も示されていました。

特別委員会は、企業価値の向上等の観点からH2Oとの経営統合案を選択すべき旨を答申し、対象会社は、株式価値算定書に係る情報や検討過程等を開示した上で、株主総会において株式交換契約の承認を得ました。

その後、反対株主から株式買取請求がなされ、対象会社は、株主総会決議の翌取引日から各株式買取請求日までの市場株価を基礎として、1株当たり1,518円を買取価格として提示しました。

これに対し、原々審(第一審)は同額を公正な価格と判断しましたが、原審(抗告審)は、競合する公開買付けの提案や前記理論株価の試算が公表されていたことなどを考慮し、提示額を約10%増額した1株当たり1,670円を公正な価格と判断しました。

2 最高裁決定の要旨

最高裁は、原審決定を破棄し、対象会社の提示額である1株当たり1,518円を公正な価格とした原々審の判断を支持しました。

(1) 「公正な価格」に関する一般的な判断枠組み

最高裁は、まず、株式交換に反対する株主に株式買取請求権が認められる趣旨について、会社からの退出の機会を与えるとともに、株式交換が行われなかった場合と経済的に同等の状態を確保し、株式交換によるシナジー効果その他の企業価値の増加が生じる場合には、その適切な分配を可能とすることにあるとしました。

その上で、過去の最高裁決定を引用し、次の判断枠組みを示しました。

① 公正な価格の基本的な考え方(楽天対TBS事件・テクモ事件)

最高裁平成23年4月19日決定(楽天対TBS事件)及び最高裁平成24年2月29日決定(テクモ事件)を引用し、株式交換によって企業価値の増加が生じない場合には、原則として、株主総会で株式交換が承認されなければ株式買取請求日において有したであろう価格を「公正な価格」とするとしました。

これに対し、企業価値の増加が生じる場合には、原則として、公正な株式交換比率によって株式交換が行われたとすれば、株式買取請求日においてその株式が有していると認められる価格を「公正な価格」とするとしました。

② 株式交換比率の公正性(テクモ事件・JCOM事件)

最高裁平成24年2月29日決定(テクモ事件)を引用し、相互に特別の資本関係がない会社間の株式交換については、適切な情報開示と株主総会の承認など、公正な手続を経て実施された場合、株主の合理的な判断が妨げられたと認められる特段の事情がない限り、株式交換比率は公正なものとみるべきであるとしました。

さらに、最高裁平成28年7月1日決定(JCOM事件)を引用し、会社間に特別の資本関係があるなど、取締役による忠実義務の適切な履行が期待できない場合であっても、独立した第三者委員会や専門家の意見聴取等による恣意的な意思決定を排除する措置が講じられ、適切な情報開示や株主総会の承認など、公正な手続を経ていれば、同様に株式交換比率の公正性を認めることができるとしました。

③ 市場株価を基礎とする価格算定(テクモ事件)

また、最高裁平成24年2月29日決定(テクモ事件)を引用し、上場株式については、市場価格が企業の客観的価値を反映していないことをうかがわせる事情がない限り、市場株価を価格算定の基礎とすることには合理性があるとしました。

そして、株式交換比率が公正なものと認められる場合、株式交換比率の公表後の市場株価は、特段の事情がない限り、公正な株式交換比率による株式交換を織り込んで形成されたものとみるべきであり、株式買取請求日の市場株価や、これに近接する一定期間の平均株価を用いることは、原則として裁判所の合理的な裁量の範囲内にあるとしました。

(2) 本件における具体的判断

最高裁は、以上の判断枠組みを前提として、本件について次のように判断しました。

まず、本件では、対象会社とH2Oとの間に従前から資本業務提携関係が存在していたものの、独立した特別委員会が設置され、専門家の意見を踏まえた比較検討や実質的な交渉が行われていたこと、株主に対して適切な情報開示がされた上で株主総会の承認がなされたことなどから、株式交換比率は公正なものと認められるとしました。

また、株式交換による企業価値の増加が生じないとはいえず、株式交換の公表後の市場株価は、原則として公正な株式交換比率による株式交換を織り込んで形成されたものと評価しました。

その上で、競合する買収提案や理論株価の試算が存在することについては、それらが公表されたこと自体が企業価値の増加をもたらすものではないと指摘しました。

特に、株主総会に先立ち、理論株価は直ちに市場株価として実現する保証がないことや、反対株主の株式買取価格が競合提案の買付価格に拘束されるわけではないことが説明されていた点を重視しました。

そして、株主総会において競合する買収提案ではなく本件株式交換が承認された以上、反対株主が競合提案の実現によって得られたであろう利益を取得すべき理由はなく、理論株価の試算を買取価格の算定において改めて考慮する必要もないと判断しました。

以上から、最高裁は、競合提案や理論株価の試算が公表されていたことを理由として、市場株価を基礎とする買取価格を増額した原審の判断には、会社法797条1項の解釈適用を誤った違法があるとし、対象会社の提示額である1株当たり1,518円を公正な価格としました。


本決定では、株式交換比率の公正性を肯定するに当たり、独立した特別委員会による実質的な検討・交渉や適切な情報開示が重視されています。

後編では、経済産業省の「公正なM&Aの在り方に関する指針」や関連裁判例も踏まえ、こうした公正性担保措置の重要性と、本決定の実務上の意義について解説します。

参考裁判例

最高裁判所第二小法廷令和8年9月30日決定(令和6年(許)第32号、第33号、第34号)

弁護士 佐野千誉

加藤&パートナーズ法律事務所(大阪市北区西天満)では、関西を中心に会社法、企業法務などに関するご相談・ご依頼をお受けしております。

トップへ戻る