加藤&パートナーズ法律事務所

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Google LLCに対する排除措置命令

 公正取引委員会は、令和7年4月15日、Google LLCがスマートフォンのメーカーに対してGoogle Playの使用許諾を与える際に閲覧アプリを併せて搭載しホーム画面上の目立つ位置に配置させる契約を締結していた行為等が拘束条件付取引(不公正な取引方法〈昭和57年公正取引委員会告示第15号〉12項)に該当し、独占禁止法19条に違反するものとして、排除措置命令を行いました。

第1 違反行為の概要

1 Androidスマートフォンに関する取引の特性

 今回の排除措置命令の内容を理解するに当たっては、以下の①~④のようなAndroidスマートフォンに関する取引の特性を把握する必要があります。

①Androidスマートフォンにプリインストールされるアプリ及びアプリのアイコン・ウィジェットの画面上の配置は、Androidスマートフォンメーカーと移動通信事業者(我が国において、電気通信役務としての移動通信サービスを提供する電気通信事業を営む者であって、当該移動通信サービスに係る無線局を自ら開設(開設された無線局に係る免許人等の地位の承継を含む。)又は運用している者をいう。)との協議等で決定される。

 *「プリインストール」とは、スマートフォンメーカーがスマートフォンを販売する前にアプリを搭載すること。

②Androidスマートフォンの利用者が、スマートフォンを購入した後任意でアプリを搭載しようとする場合に用いるストアアプリの中で、Google Playは最も利用されているアプリ。しかし、Google LLCは利用者が購入した後、利用者自らがGoogle Playを入手し搭載する手段を提供していない。このような状況下において、Androidスマートフォンメーカーにとっては、自社が販売するAndroidスマートフォンに「Google Play」をプリインストールすることが必要。

③Androidスマートフォンを用いた一般検索サービスの利用は、ホーム画面に配置された検索ウィジェットや検索アプリのアイコン、ブラウザのアドレスバー等を通じて行われることが多い。

④Androidスマートフォンメーカーや携帯電話会社は、利用者の利便性の低下を避けるため、同一のスマートフォンに複数の検索アプリやブラウザをプリインストールすることや、複数の検索アプリのアイコンやウィジェットを初期ホーム画面に配置することは原則として行わない。

2 違反行為の内容

 上述の取引の特性を背景に、GoogleはAndroidスマートフォンメーカー及び移動通信事業者に対して、以下の⑴、⑵のような条件を付した取引を行っていました。

⑴本件許諾契約

 Google LLCが、Androidスマートフォンメーカーに対して、AndroidスマートフォンにGoogle Playをプリインストールすることの許諾に併せて、Androidスマートフォンメーカーが、

(ⅰ)検索アプリ「Google Search」をプリインストールし、そのアイコンを初期ホーム画面に配置すること

(ⅱ)Google関連アプリやウェブブラウザーの「Google Chrome」のプリインストールやそのアイコンを初期ホーム画面に配置することを要求し、また「Google Chrome」の設定をGoogle LLCの検索機能が選択された状態から変更しないこと

を求める契約。

⑵本件収益分配契約

 Google LLCが提供する一般検索サービスに係る検索広告収益の一部を支払う条件として、特定のAndroidスマートフォンに対して他の一般検索サービスの実装ないし他の一般検索サービス事業者の検索機能への接続を主目的とする機能の実装等を行わないこと等を求める契約。

 本件許諾契約及び本件収益分配契約により、我が国で販売されたAndroidスマホの少なくとも8割が本件許諾契約の対象(特定Androidスマホ)となり、Google LLCの検索機能が実装されることとなりました。

 このように、利用者にとってはGoogle LLCが提供する検索サービス以外の検索サービスを使用することができなくなり、他の競合検索事業者にとっては当該競合事業者の検索機能が実装されない状態となり、検索サービス事業者間の競争が制限されていました。

 そうしたところ、公正取引委員会は、2025年4月15日、Google LLCに対し、独占禁止法第19条(不公正な取引方法第12項(拘束条件付取引))の規定に違反する行為があったとして排除措置命令を行いました。

※ 拘束条件付取引

独占禁止法 第19条 事業者は、不公正な取引方法を用いてはならない。

第2条9項 この法律において「不公正な取引方法」とは、次の各号のいずれかに該当する行為をいう。

6号 前各号に掲げるもののほか、次のいずれかに該当する行為であって、公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち、公正取引委員会が指定するもの

ニ 不当に競争者の顧客を自己と取引するように誘引し、又は強制すること。

〔不公正な取引方法〈昭和57年公正取引委員会告示第15号〉〕

12項 法第2条第9項第4号(再販売価格の拘束)又は前項に該当する行為(排他的条件付取引)のほか、相手方とその取引の相手方との取引その他相手方の事業活動を不当に拘束する条件をつけて、当該相手方と取引すること。

・拘束条件付取引とは、再販売価格の拘束及び排他的条件付取引以外の様々な拘束条件付取引をいい、独禁法19条に違反する行為をいい、上記の規定は事業活動の不当拘束を規制する受け皿規定として機能している。

・具体的には、相手方が従わない場合に出荷停止やリベート金額削減等の経済上の不利益を課すこと(実際に不利益を課すことまでは必要ではなく、従わない場合に不利益を課すことの通知・示唆があれば足りる)や利益を供与する等の行為により、競争が減殺する取引や競争の回避効果が認められる取引が禁止されている。

第2 排除措置命令の概要

 公正取引委員会は、上記違反行為に関して、アプリの配置や検索設定について、Androidスマートフォンメーカー等の選択肢を確保し、検索事業者間の競争を促進する目的で、Google LLCに対して次のとおり命令しました。

⑴ 本件許諾契約・本件収益分配契約の変更等、違反行為の取りやめ

⑵ 違反行為の取りやめ及び将来における不作為について業務執行の決定機関における決議

⑶ Google LLCは、前記⑴及び⑵に基づいて採った措置を、特定アンドロイド・スマートフォンメーカー及び特定移動通信事業者に通知し、かつ、自社の役員及び本件許諾契約又は本件収益分配契約に関連する業務に従事する自社の従業員等に周知徹底しなければならない。

⑷ 将来における不作為

ア Google Playのプリインストールの許諾に併せて検索・ブラウザアプリのインストールや有利な配置場所等を要求しないこと

イ 金銭その他の経済上の利益を提供する条件として競合検索サービスの排除を要求しないこと(ただし、Googleがアプリのプリインストールを無償で許諾することは可能)

⑸ コンプライアンス体制の整備

ア アンドロイド・スマートフォンの製造又は販売を行う事業者との間の取引に関する独占禁止法の遵守についての行動指針の作成及び業務に従事する自社の従業員等に対する周知徹底

イ 本件許諾契約・本件収益分配契約にかかる業務に従事する従業員等に対する定期的な研修並びに定期的な監査

⑹ 独立した第三者による履行状況の監視(5年間)

⑺ 独立した第三者による履行状況についての報告(5年間)

第3 排除措置命令の意義

 1 デジタルプラットフォーマーによるデジタル市場の独占の解消

 現在、我が国におけるデジタル市場は、Google LLC、Apple Incなどのごく一部の事業者によって寡占化されている状況です。

 このようなデジタルプラットフォーマーの急速な拡大、市場の独占・寡占の要因はネットワーク効果を背景とする新規参入の困難性にあります。

 Google LLC、Apple Inc.といった巨大プラットフォーマーにより新規参入が困難となっている検索サービス提供市場において、本件の排除措置命令により、他の競争相手の検索サービス事業者が検索サービスを提供することができるようになることが期待されます。

※ネットワーク効果

 ネットワーク効果とは、LINE等のコミュニケーションツールのように利用者数の多さがサービスの価値となり、雪だるま式に利用者数が増える効果(直接ネットワーク効果)と、2つの市場にまたがり需要群が存在し、市場Aにおける需要者が増えることが別の市場Bのサービスの価値を高め、市場Bの需要者が増えることにより、市場Aの需要者が増加する効果(間接ネットワーク効果)をいう。

 本件のような検索サービスについては、まさに間接ネットワーク効果が働くサービスであって、検索サービスの利用者が増加すると、広告主にとってより魅力的な媒体となり、検索サービス事業者の広告料の収入が増加し、その増加した収入は検索サービスをより魅力的なものにする投資に利用されるため、検索サービスの利用者がさらに増加するという関係にある。

2 スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律(以下「スマホ競争促進法」という。)の全面施行を見据えた規制

 本件は、令和7年12月頃全面施行予定のスマホ競争促進法との関係でも注目すべきものといえます。

 スマホ競争促進法の適用対象となる事業者は、Apple Inc.、iTunes株式会社、Google LLCです。同法の目的は、スマートフォンの利用に特に必要なOS、アプリストア、ブラウザ、検索エンジンに係る市場は特定少数の有力な事業者による寡占状態にあり、当該事業者の競争制限的な行為により生じる様々な競争上の問題を解消するという点にあります。

 本件の排除措置命令の内容に関連するスマホ競争促進法の規定としては、例えば、特定ソフトウェア事業者に対して、ユーザーが、特定の個別ソフトウェアが自動的に選択され起動するデフォルト設定を簡易な操作により変更することができる措置や、デフォルト設定の選択肢が表示されるようにする措置等といった、ユーザー選択に資する措置を講じる義務(新法第12条)が挙げられます。なお、同法の違反行為に対しては、独禁法と同様に排除措置命令及び課徴金納付命令が行われることとなっています。

 このような新法の全面施行に先立ち、公正取引委員会は、独禁法上禁止される行為を行う特定事業者たるGoogle LLCの行為について排除措置命令を行ったものと評価できます。

  

第4 本件の排除措置命令による影響

 現在の国内のスマートフォン販売市場については、Apple Inc.に対し、Google LLCとその技術を活用するメーカー等で事実上二分されている状況です。

 そして、Google LLCの技術を活用するメーカーが、スマートフォン販売市場において競争力を維持できているのは、Google LLCからOSやアプリなどを無償で提供を受けることで、開発・制作コストを削減することが可能となり、ユーザーに良心的な販売価格で提供できているという実情にあります。

 本件の排除措置命令に従いGoogle LLCが本件許諾契約・本件収益分配契約を変更するにより、Google LLCの技術を活用するスマートフォンメーカーは、Google LLCから無償でOSやアプリの提供を受けられなくなる可能性があります。

 その結果、従前Google LLCの技術を活用し製造販売していたスマートフォンメーカーは安価なスマートフォンを製造販売することができなくなり、スマートフォン製造販売の市場における競争力が弱まるおそれがあるのではないかとの指摘があります。

加藤&パートナーズ法律事務所(大阪市北区西天満)では、企業法務全般企業法務全般、会社法関係訴訟に関するご相談・ご依頼をお受けしております。

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