【目次】 1 名義株とは何か ➡2 名義株解消の必要性 3 名義株の帰属 4 名義株の存否に関する調査 5 名義株か否かの調査 6 解決策 |
Ⅰ 会社運営上の問題
⑴ 名義株と株主名簿に関する問題
名義株については、名義人ではなく実質上の引受人(名義借用人)が株主と解釈されています。
よって、会社がこれまで株主として取り扱ってきた者が実際には株主ではなかったという事態が生じることがあります。
ただし、会社法では名義書換請求がない限り、株主名簿上の株主を正式な株主として取り扱える(会社法126条1項、確定的効力)ため、会社が株主名簿の記載に従って名義株主を株主として取り扱っている場合には、通常問題は生じません。
一方、中小企業では、株主名簿を作成していない例も多く、株主名簿による確定的効力を受けることができないので、真の株主に権利を行使させる必要があります。仮に、従前、真の株主ではなく、名義上の株主に権利行使させて成立させた株主総会決議は、決議の効力が覆滅されるリスクがあります。
⑵ 名義株主と実質株主に関する取扱いの問題
名義上の株主ではなく、会社が実質上の引受人(実質上の株主)を株主として取り扱っているような場合でも、仮に実質上の株主には株主権が帰属しないと判断された場合、従前成立してきた決議が瑕疵を帯びる可能性があります。
また、名義株が創出されてからかなりの月日が経過している、あるいは名義株に相続が発生する等し、名義株創出当時の事情を知る関係当事者がいない事案などでは、立証資料が足りないために、会社の認識に反して、名義株主に株主権が帰属すると裁判所に判断される可能性もあります。
⑶ 名義株の帰属に関して争いが生じた場合の問題
名義株の帰属に関して、名義上の株主と実質上の株主との間に争いが生じた場合、会社としては、株主名簿上の株主を株主として取り扱えばよい(会社法126条1項、確定的効力)ものの、実際上どちらに権利行使をさせるか判断が難しくなります。
その結果、株主総会決議を成立させることが困難になり、又はいずれかに権利行使を許して決議を成立させたとしても、決議が不安定な状態に陥ることとなり、会社運営に支障きたす可能性があります。
このような支障は、争いとなった名義株の株式数が比較的少数であっても、少数株主には様々な株主権が認められていることを考慮すれば、無視することはできません。
そのため、まず会社運営の観点から名義株を早期に解消しておく必要があります。
Ⅱ 事業承継において生じる問題
⑴ 後継者への株式移転時のリスク
後継者に事業を承継させる場合、株式の譲渡・贈与・遺贈によって、会社の株式を後継者に譲り渡す方法が一般的です。
もっとも、後継者に株式を譲り渡す際に、対象株式の中に名義株が存在すれば、後に名義株主から自身が保有する株式であるとして争われ、名義株ではないと判断された場合、後継者は有効に株式を取得することができません。
また、名義株であっても取得時効(民法162条、163条)が適用され、名義株主が名義株を時効により取得する可能性もあります。名義株主から取得時効を主張されることにより、後継者に株式を移転できないリスクや、一旦後継者に移転したはずの株式が名義株主に移転するリスクがあるのです。
⑵ 税制面でのリスク
「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(経営承継円滑化法)では、後継者が非上場会社の株式等を先代経営者等から贈与・相続により取得した場合において、同法における都道府県知事認定を受けたときは、贈与税・相続税の納税が猶予又は免除されます(事業承継税制)。
この制度の利用には、先代経営者及び後継者において一定以上の議決権保有割合を有していることが要件となっていますが、要件を満たさない場合、多額の贈与税・相続税を負担することとなり、事業承継が円滑に進まない事態となる可能性があります。
そのため、会社運営上のみならず事業承継の観点からも名義株を早期に解消しておく必要があります。
Ⅲ M&Aにおける名義株解消の必要性
M&Aでは、株式譲渡や会社法上の組織再編行為等のスキームが用いられることがあります。
したがって、株式譲渡のスキームによる場合、後に名義株主が当該名義株について権利を主張すると、買い手が株式を取得できないリスクが生じます。また、このようなM&Aを実施する場合、売り手が適法に株式を保有していることが表明保証条項とされている場合が通常であり、表明保証条項違反を理由に、買い手から損害賠償請求を受けるリスクもあります。
一方、株主総会決議を要する組織再編行為等を用いたスキームを採用する場合でも、名義株主から、株主総会決議の取消し、組織再編行為の無効等を主張されることによって、スキームの変更やM&A自体を断念せざるを得ない事態となる可能性もあります。
したがって、M&Aの場面でも、名義株の存在が確認された場合には、速やかに解消の必要性及び解消の方法を検討・実行する必要があります。
<続く>
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