【目次】 1 所在不明株主の問題 2 所在不明株主の株式売却許可申立制度 ➡3 経営承継円滑化法の特例 ➡4 その他の方法(スクイーズ・アウトの手法) |
3 経営承継円滑化法の特例
2で解説した所在不明株主の株式売却許可申立てにあたり、足かせとなるのが、通知・催告の不到達及び剰余金配当の不受領に関する「5年以上継続して」の要件である。中小企業においては会社法所定の通知を履践していないことも多く、また通知を履践していても返戻郵便物を全て保管していないこともあるため、株式売却許可申立てを利用できず、制度の利用を断念せざるを得ない場合があります。
そこで、経営承継円滑化法に所在不明株主に関する会社法の特例が設けられ、中小企業者(経営承継円滑化法2条)において、①経営困難要件と②円滑承継困難要件を満たした場合には、都道府県知事の認定を受けることで、通知・催告の不到達及び剰余金配当の不受領の期間を5年から1年に短縮することが可能となりました(経営承継円滑化法15条)。
① 経営困難要件とは、当該企業の代表者の年齢が満60歳を超えている、代表者の健康状態が日常業務に支障を生じさせている、外部環境の急激な変化により突然業績が悪化したなど、継続的かつ安定的に経営を行うことが困難であるため、会社の事業活動の継続に支障が生じている場合であることをいいます(経営承継円滑化法12条1項1号ホ)。
② 円滑承継困難要件は、一部の株主の所在が不明であることにより、その経営を代表者以外の者に円滑に承継させることが困難であることをいう(経営承継円滑化法12条1項1号ホ)。具体的には、次のような場合などはこれに該当しうるとされています。
・認定申請日時点において後継者が定まっている場合 所在不明株主の保有株式の議決権割合が以下に当てはまる場合 A 株式譲渡により事業承継をする場合 :1/10超かつ「1-後継者が要求する議決権割合」超 B 事業譲渡、会社分割、新株発行等、株主総会特別決議を要する方法により事業承継をする場合 :1/3超 ・認定申請日時点において後継者が未定の場合 所在不明株主の保有株式の議決権割合が以下に当てはまる場合 C 原則:1/3超 D 例外:1/10超かつ経営株主等(会社代表者又は代表者であった者並び にその親族)の保有株式の議決権を加算して9/10以上 |
4 その他の方法(スクイーズ・アウトの手法)
所在不明株主の株式売却申立てを行うための要件を充足しておらず、かつ、要件が充足されるまでに必要な期間を待つことができない事案においては、スクイーズ・アウトの手法の利用を検討することになります。
Ⅰ 株式併合を利用したスクイーズ・アウト
株式併合とは、複数の株式を併せてより少数の株式にすることをいいます(会社法180条1項)。
株式併合を行うには株主総会特別決議を経る必要がありますが(会社法180条2項)、株式併合後の所在不明株主の保有株式数が1株未満になるような併合割合で株式併合を行い、1株未満の端数株式を競売または裁判所の許可を得て売却することにより(会社法235条、234条2項)、所在不明株主を強制的に排除することができます。
なお、併合後に1株未満の株式しか持たない他の少数株主も会社から締め出されることとなるため、併合割合の調整には留意が必要です。
Ⅱ 特別支配株主による株式等売却請求制度を利用したスクイーズ・アウト
特別支配株主の株式等売渡請求とは、株式会社の総株主の議決権の10分の9以上を有している株主が他の株主全員に対し、その有する株式の譲渡しを請求することができる制度です(会社法179条1項)。
議決権90%超の特別支配株主がいる場合でなければ利用できないものの、株主総会決議を開催することなく所在不明株主の株式を買い取ることができ、その結果所在不明株主を排除することが可能です。
なお、スクイーズ・アウトにおいては、所在不明株主以外の株主との間で株価をめぐり争いが生じて価格決定の申立てがされた場合、支払いが必要な対価が高額化するなどのリスクがあるため、実施に当たっては慎重な検討が必要です。
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