加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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「会社内部紛争を防止するための非上場会社の株主管理・株主対策」株式と相続1

【目次】

1 株式の相続により生じる問題

2 相続に関する基礎知識

 3 準共有株式の問題

 4 相続人からの株式取得の検討

1 株式の相続により生じる問題

株主に相続が発生した場合、会社はこれに適切に対応する必要があります。特に社歴の長い会社においては、高齢の株主も多く、知らぬ間に相続が発生していたというケースもあります。株式の相続を契機に、相続人株主と会社との間で紛争状態となることも少なくありません。

特に、大株主に相続が発生した場合には、対応を誤ると会社の支配権や経営に大きな影響が生じる可能性があります。会社の支配権を巡る相続争いは、苛烈な法廷闘争に発展することもあります。このような事態を防ぐため、事前に事業承継の準備をしておくことが肝要です。

また、少数株主に相続が発生した場合でも、対応を誤ると、相続人間の争いに巻き込まれ、株主総会決議取消訴訟等の裁判に発展する恐れもあります。

一方で、相続の発生は、議決権の集約を行うよい機会にもなり得ます。相続人株主としても、特に少数株主にとっては、非上場会社の株式を保有し続けるのではなく現金化するよい機会でもあります。このような場合は、任意の買取交渉自己株式の取得等により、議決権を集約することも検討すべきでしょう。

さらに、M&Aを行う場合には、相続が発生している未処理の株式があると株式譲渡の障害となり得るため、この点の解決が必要です。

株式と相続の問題に適切に対応するには、相続の基本と会社の対応方法を理解しておくことが重要です。

2 相続に関する基礎知識

株式の相続を理解するには、まず相続に関する法律上の基本を知っておく必要があります。

(1)遺言がない場合

遺言がない場合は、相続人全員で遺産分割を行う必要があります。それまでは、株式は相続人全員の準共有状態となります。

所有権以外の権利が共有される場合を「準」共有といい、民法の共有に関する規定(民法249条~263条)が準用されます(民法264条)。

遺産分割は、まず相続人全員による①遺産分割協議による成立を目指し、それが難しい場合は②家庭裁判所での遺産分割調停、調停によっても成立しない場合には③裁判所が決定する遺産分割審判の順に進みます。

分割割合は原則として法定相続分(民法900条)によりますが、特別受益に該当する生前贈与(民法903条)や寄与分(民法904条の2)がある場合、特別寄与者(民法1050条)がいる場合には、分割の割合が変動することとなります。

(2)遺言がある場合

遺言がある場合には、遺言が有効である限り、遺言の内容どおりに相続が行われ、原則として遺産分割は不要です。

主に利用される遺言の形式は、①自筆証書遺言、②公正証書遺言ですが、有効性に疑義が生じることが少なく、推奨されるのが公正証書遺言です。

また、自筆証書遺言については、令和2年7月10日から、法務局での遺言保管制度が開始されています。本制度を利用すれば、遺言の紛失や改ざんのおそれを排除できますが、遺言者に遺言能力があることは担保されないため、有効性を巡る紛争リスクを避けるためにも公正証書遺言が望ましいと考えます。

(3)相続と事業承継

株式の相続と事業承継は密接に関係しており、企業の存続や円滑な経営には、法務・税務の両面からの総合的な対策が必要です。

事業承継においては、株式及び不動産等の事業用資産がある場合にはこれらを適切に後継者に承継するなどして、相続紛争を回避し、会社運営に支障を来さない対策が必要です。

また、相続税対策の株価下げ等を中心とした税務面の対策から、節税目的で株式が不必要に分散している例もみられます。

しかし、後継者が安定して会社運営を行うには、後継者に株式を集約し、適切に権利を承継させなければ、敵対株主に会社を乗っ取られるなど、会社の存続自体を危うくする事態も想定されます。

最も基本的かつ効果的な対策手法は、後継者へ株式の相続を明記した遺言の作成で、可能な限り公正証書遺言による遺言が望ましいでしょう。

その他、事業承継対策として、生前贈与、経営承継円滑化法の除外合意、固定合意等の利用、種類株式の導入、株主間契約の締結、持株会の導入ないし信託の活用なども検討されるべきです。
<続く>

「会社内部紛争を防止するための非上場会社の株主管理・株主対策」株式と相続2

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