【目次】 1 株式の相続により生じる問題 2 相続に関する基礎知識 ➡3 準共有株式の問題 ➡4 相続人からの株式取得の検討 |
3 準共有株式の問題
(1)準共有株式の規律
ア 準共有株主と会社との対外的規律
株主が遺言を残さず死亡し、複数の相続人がいる場合、株式は遺産分割がなされるまで相続人で準共有されます(民法898条、264条、最判昭和45年1月22日)。
この場合、株主として権利行使をするには、準共有株主は権利行使者1名を定めてその者の氏名または名称を会社に通知する必要があります(会社法106条本文)。
ただし、会社が準共有株主による権利行使に同意した場合は、権利行使者の指定の通知がなくとも、準共有株主が権利を行使することが可能です(会社法106条但書)。
もっとも、会社が同意した場合でも、権利行使が準共有者間で民法の共有の規定に従っていないときは、その権利行使は無効とされる可能性があり(最判平成27年2月19日)、例えば株主総会の場合は、決議方法の法令違反があったものとして、決議取消事由となります(会社法831条1項1号)。
なお、準共有者が権利行使者を指定する通知に法律上方式の限定はありませんが、証拠化のために通常は書面で行われます。
イ 準共有株主内部の対内的規律
準共有者間では、準共有持分の価格に従いその過半数をもって権利行使者を決定できます(最判平成9年1月28日)。有効に指定、通知された権利行使者は、他の準共有者の意見に反する権利行使も可能とされています(最判昭和53年4月14日)。
ただし、協議の機会が与えられなかった事情等を一つの考慮要素として、権利行使者の指定及び権利行使者による議決権行使を権利の濫用とし、株主総会決議を取り消した裁判例も存在するため(大阪高判平成20年11月28日)、できる限り権利行使者の指定は準共有者全員の協議を経て定めるのが望ましいとされます。
会社としても、将来の紛争を避けるため、準共有者全員の関与のもとに権利行使者が定められていることを確認すべきであり、少なくとも権利行使者指定通知書には、準共有者全員の署名押印を求める対応が考えられます。
ウ 会社側からみた準共有株主への対応方針
(ア)株主名簿の記載に従うことが原則
会社は、原則として株主名簿に記載された者を株主として扱えば足ります(会社法130条)。株主総会招集通知を含む会社から株主に対する通知・催告も、株主名簿上の株主の住所地に対して発すれば足ります(会社法126条1項、5項)。
つまり、会社が株主の死亡の事実を知らない場合はもちろん、死亡の事実は知っているが相続人を知らない場合、死亡の事実も相続人も知っているが株主名簿の書換えがなされていない場合は、会社は、なお被相続人を株主として扱い、被相続人宛に株主総会招集通知等を送れば足りることになります。
なお、上記の対応に関連し、会社が自ら株主名簿に記載のない相続人を株主として取り扱うことは差し支えありません。ただし、事後的にその者が真の株主ではないことが判明した場合には、その株主が議決権行使した株主総会決議の決議方法に法令違反があるとして、取消事由となる可能性や損害賠償責任を負う可能性は否定できません。
(イ)株主名簿の名義書換請求があった場合には速やかに対応
相続人から、相続の事実を証する書類(相続関係を証する戸籍関係書類、遺言または遺産分割協議書、印鑑証明書等)とともに株主名簿の書換え請求があった場合には(会社法133条、会社法施行規則22条1項4号)、会社は不備がなければ速やかに名義書換えを行うべきです。
株式譲渡の場合の名義書換の判例によれば、相続人株主から名義書換請求があったにもかかわらず、会社が正当な理由なく拒絶する場合や、会社の過失により名義書換えをしない場合は、会社は相続人株主を株主として扱う義務があると判断されるケースがあると解されます。そのため、会社は書換え請求があった場合は、適切に対応する必要があります。
(ウ)準共有株主から名義書換請求があった場合の具体的対応
相続人が単独で相続株式を相続している場合は、当該相続人名義へと書き換えることとなりますが、遺産分割未了で相続人が株式を準共有している場合には、準共有者の氏名・住所をそれぞれ株主名簿に記載し、共有持分割合も付記するのが望ましいでしょう。
株主名簿に準共有株主を記載した場合、準共有株主は、会社からの通知・催告を受領する者一人を定め、会社に通知します。会社はその者を株主とみなして、通知・催告をすればよいことになります(会社法126条3項)。この準共有者からの通知がない場合、会社は準共有者のうち任意の1名に対し、通知または催告をすれば足ります(会社法126条4項)。そのため、準共有株主のうち通知・催告の受領者も同時に定めてもらい、届出させるのがよいでしょう。
上記届出と同時に、準共有株主からアで述べた権利行使者の指定(会社法106条)がある場合には、持分過半数により決定されているか、少なくとも持分過半数の相続人による署名や記名押印があるかを確認し、適正性を判断します。イで述べたとおり権利行使者指定のために相続人全員の協議の機会を要するとする見解もあるため、全ての相続人の署名や記名押印があることが最も安全です。
権利行使者の指定(会社法106条)が、株主側が権利を行使する場合の規定であるのに対し、通知・催告の受領者の指定は会社法上の通知・催告を受け取る者を誰とするかの規定であり、厳密には異なりますが、権利行使者と通知・催告の受領者は一致させておく方が混乱を防げます。
また、会社が、準共有株主に対して権利行使者指定や通知・催告の受領者の指定を促すまでの法的義務はありませんが、名義書換請求がなされた段階で、準共有株主に対し、権利行使者の指定書のひな型を提供し、権利行使者の指定を促すなど、親切な対応が望まれます。
(2)準共有株式の議決権行使への同意の限界
準共有株式の権利行使を行うには、会社に対し権利行使者の指定を通知することが必要ですが(会社法106条本文)、会社の同意があればその限りでないとされています(会社法106条ただし書)。
しかし、準共有株式の権利行使には、民法の共有規定により、管理行為として、持分過半数により決定をすることが必要です(民法252条本文)。したがって、本規定に従わない場合はたとえ会社が同意したとしても適法になるものではありません(最判平成27年2月19日)。適法といえるか否かについては事案ごとに慎重な考慮が必要です。
(3)相続人からの株式取得の検討
株主に相続が発生した場合、上記のとおり準共有株式の規律に留意し、会社として適切な対応が必要です。
一方で、相続人株主(特に少数株主の相続人)は会社の経営について関心がなく、配当もない会社の場合は、株式を現金化したいと考えることも少なくないため、相続が発生した機会に、会社としては任意交渉による株式取得も検討すべきです。
また、自己株式の取得や相続人に対する売渡請求も選択肢となります。
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