【目次】 1 従業員持株会・役員持株会とは 2 事業承継対策としての持株制度の活用 ➡3 持株会の制度設計 ➡4 持株会の設立手続 5 持株会の運用 |
3 持株会の制度設計
持株制度を導入する際は、事前に持株会規約案を策定し、ルールを明確にする必要があります。持株会の法的性質、資金の調達方法、参加対象者、退会時の清算方法など多くの要素を決定する必要がありますが、最も重要なのは、持株制度を導入する目的を明確にし、それに沿った制度設計を行うことです。
以下では、制度設計にあたり事業承継や各コストと関連性の高いポイントを解説します。
Ⅰ 従業員持株会の法的性質
従業員持株会の設立形態には、①「民法上の組合」(民法667条1項)として設立する方法、②「法人格のない社団」として設立する方法などがあります。②法人格のない社団とした場合、配当収益に法人格のない社団と会員個人の二重課税が生じるなど、税務上不利益もあるため、ほとんど採用されていません。
一方、①民法上の組合として設立する場合、会員の中から理事を選び運営し、必要な事務手続きは会社が福利厚生の一環として提供することで、管理コストを抑えられます。さらに、組合自体には法人税が課されず、会員が受け取る配当金には配当控除が適用されます。そのため、税務その他コストの観点から、従業員持株会は民法上の組合として設立するのが一般的です。
上述のとおり、①民法上の組合か②法人格のない社団かで課税関係が大きく異なるため、設立時には民法上の組合であることが明確にわかる組合契約書を作成し、規約にもその旨を記し、対外的にも明示しておくことが重要です。
Ⅱ 従業員持株会の参加資格
従業員持株会の参加資格は、全従業員、正社員のみ、一定の役職者や勤続年数者、子会社従業員を含めるなど様々に設定できますが、重要な点は従業員持株会の設立目的に沿って決定することです。例えば、福利厚生や経営参加を目的とする場合には、対象を広げるのが望ましく、事業承継を目的とする場合は、一定の地位にある従業員に限定すべきです。
また、事業承継や相続税対策の一環として従業員持株会を設立する場合、後述のとおり、オーナーや後継者が株主総会の特別決議(会社法308条2項)を単独で可決させられるよう、議決権の3分の2以上を確保しておくことが望ましいとされます。もっとも、中小企業では譲渡可能な株式数が限られている場合も多いため、従業員持株会に拠出できる株式数にも制限があり、全従業員を参加対象とした場合には、希望者全員が参加できない事態も生じ得ます。したがって、参加資格者を決定する際には、拠出可能株式数とのバランスに十分配慮する必要があります。
また、従業員であっても大株主と税務上同族に該当する者は、配当還元価額で株式を購入すると高額な税負担が生じる場合があるため、原則として参加資格を与えるべきではありません。同様に、使用人兼務役員も会社法361条に基づく役員報酬規制の対象であるため、一般従業員と同様に持株会へ入れ込む(奨励金の支給や福利厚生の便宜を与えるなど)ことは法的リスクを伴います。したがって、これらの者にも原則として参加資格を与えないのが適切です。
Ⅲ 株式購入資金の準備方法
従業員持株会の購入資金の拠出形態には、組合員が定期継続的に毎月の給与や賞与から一定額を積み立てて株式購入資金を準備する「定時積立方式」と第三者割当増資などにより一時的に相当数の株式を購入するための資金を一括で準備する「一時分譲方式」があり、両者を併用する方式もあります。
非上場会社においては、発行済株式数が少ないため、オーナーは支配権を維持したまま従業員持株会を組成することを望むのが一般的です。そのため、支配権に影響を与えない程度(株主総会の特別決議を単独で可決できる議決権の3分の2以上を確保した状態)のオーナー保有株の一部譲渡や、第三者割当増資により、参加従業員に株式購入資金を一括で拠出させる一時分譲方式が多く採用されます。
しかし、一時分譲方式では、たとえ配当還元価額に基づき比較的安価に購入できる場合でも、従業員持株会規約上の最低出資額や株式の評価額によっては、従業員が資金を用意できない可能性があります。そのため、従業員持株会の設立にあたっては、会員の資金負担を考慮して臨時賞与の支給や会社貸付による資金援助など、従業員の負担軽減措置を講じ、誰もが参加できる取り計らいが重要です。
一方、株式の取得方法が定時積立方式の場合には、参加従業員の給与の一定額を天引きすることで積み立てることができますので、従業員と会社の間で天引きに関する合意があれば特段の問題は生じません。
なお、会社が従業員に無利息で資金を貸し付けた場合には、適正利息相当分が給与とみなされて課税されるリスクや、従業員持株会による株式取得が自己株式の取得とみなされる法的リスクもあるため、貸付に際しては消費貸借契約書を作成し、適正な利息を設定する必要があります。
Ⅳ 譲渡制限ルール
非上場会社の従業員持株会制度の下では、退職等により従業員資格を喪失した場合、持分やそれに相当する株式を出資額と同額で会社の指定する者などに売り渡す旨を、従業員持株会規約や合意書であらかじめ定めておくのが一般的です。
仮に、このような譲渡制限を設けずに持株会を設立した場合、退会時の払戻資金が高額となって運営が困難になったり、社外への株式流出リスクが生じたりするため、非上場企業ではこうしたルールの取り決めが不可欠です。
なお、この譲渡制限ルールの有効性については、判例・裁判例上、従業員持株会の設立目的の合理性、当該会社株式の市場性の有無、取得価額と譲渡価額との乖離の程度、譲渡ルールについての従業員の認識、配当の実施状況・配当利回り・配当性向等を判断要素として判断されています(最判平成21年2月17日)。
非上場会社における従業員持株会においては、とりわけ従業員の認識と適切な配当実施が重視されます。そのため、発足時には譲渡制限ルールの内容を十分に説明し、発足後も会社が利益を出している限りは一定の配当を継続することが重要です。
Ⅴ 従業員に保有させる株式の数及び種類
従業員持株制度を導入した場合、オーナーの議決権割合は株式の一部譲渡や第三者割当増資によって必然的に低下します。
したがって、従業員持株会に株式を保有させるとしても、会社の円滑な経営のためには、会社・オーナー側の安定した支配権・経営権を維持することが不可欠ですので、定款変更や組織再編といった重要事項の決定に際して必要となる株主総会特別決議(会社法309条2項)の成立要件である総議決権の3分の2以上の議決権については、オーナー側が確保しておくことが望まれます。少なくとも、株主総会普通決議(会社法309条1項)の成立に必要な過半数の議決権はオーナー側に残しておくことが重要です。
他に、従業員持株会に保有させる無議決権株式(会社法108条1項3号)とする、またはあらかじめオーナー側に拒否権付種類株式(会社法108条1項8号)を発行するなど、種類株式を活用することで、経営権・支配権維持に備えることも検討に値します。
Ⅵ 制度設計にあたってのその余の留意点
従業員持株会も株主である以上、株主代表訴訟の提起(会社法847条)や各種閲覧謄写等請求権(会社法318条4項、会社法371条2項、会社法442条3項、会社法433条等)、株主提案権(会社法303条乃至305条)などの権利を行使されるリスクがあります。
特に、譲渡制限ルールによるキャピタル・ゲインの制限、議決権の制約、配当の不実施など、不当な制度設計や運用がなされている場合には、税務リスクだけでなく、従業員から制度の有効性を争われたり、株主権を行使される可能性もあります。したがって、制度設計にあたっては従業員持株会の本来の目的に沿った、バランスの取れた運用が求められます。
「会社内部紛争を防止するための非上場会社の株主管理・株主対策」従業員持株会・役員持株3
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