【目次】 ➡1 株主間契約とは ➡2 株主間契約の活用の場 ➡3 株主間契約の活用に関する留意点と対応 4 株主間契約の具体例 5 まとめ |
1 株主間契約とは
株主間契約とは、複数の株主が会社の運営等について合意する契約をいいます。典型的には、合弁会社設立時の株主間合意や、既存の会社に出資する際に、既存株主との合意に株主間契約が用いられます。
また、会社の支配権の維持や閉鎖性の確保のために株主間契約を用いることもあります。
会社の運営の在り方等に関する合意については会社が当事者となる場合もありますが、以下では、主に株主間における合意について説明します。
2 株主間契約の活用の場面
会社法では、定款により議決権行使に制約を設ける制度設計をすることも可能ですが、定款変更を行うには特別決議が必要です(会社法466条、309条2項11号)。また、定款による場合でも、強行規定に違反する(会社法105条2項、295条3項、331条2項、402条5項)、あるいは会社の根本規範としての定款の性質にそぐわない場合は、無効とされる場合があります。
これに対し、株主間契約は、株主の合意のみで成立し、特別決議を必要としないので、持株比率に拘わらず議決権の拘束を実現することが可能となります(もっとも、合意当事者の持株比率を合計しても、過半数に満たない場合には、通常合意を締結する必要性がないと考えられます。)。
また、議決権拘束を内容とする契約を株主間で締結した場合、一般的には債権的に有効な契約であるため、定款では無効となる合意であっても、株主間契約を用いることで有効に定められることがあります。
したがって、株主間契約を用いることで、会社法上では認められない制度設計や、会社法上の手続きを経ずに、同様の効果を簡易に実現することができ、柔軟な制度設計が可能となります。
3 株主間契約の活用に関する留意点
Ⅰ 合意の有効性
株主間契約について当事者の合理的意思の解釈の観点から、効力を制限している裁判例があります。例えば、東京高判平成12年5月30日は長期にわたる株主間契約について、「議決権行使に過度の制限を加えるもの」として、相当の時間を経過した後においては効力を有しないものと判断し、合意時から10年を超える部分を無効としました。
また、東京高判令和2年1月22日は、合意当事者の相続人が取締役選任議案に賛成する旨の意思表示を求めたが、裁判所は相続が発生した場合においては株主間契約の効力は消滅する旨の合意であったと認定し、前掲東京高判平成12年5月30日と同様に、当事者の意思解釈の観点から、合意に限定を加えています。
Ⅱ 実効性確保
株主間契約は債権契約として有効に成立しますが、その実効性をどのように担保するか、とりわけ履行強制や議決権行使の差止請求を認めるかについては争いがあります。伝統的には否定的見解が有力でしたが、近時では一定の要件のもとで認める余地を肯定する見解や判例の動きも見られます。
名古屋地裁平成19年11月12日決定は、株主間契約に基づく議決権行使の差止めは原則認められないとしつつ、①株主全員が当事者である議決権拘束契約であること、②契約内容が明確に議決権不行使を求めるものであることの2要件を満たす場合に限り例外的に認め得るとしました。本件では②を欠くとして差止めを否定しましたが、傍論において差止請求の可能性自体は肯定しました。
また、前掲東京高裁令和2年1月22日判決は、取締役選任合意に基づく議案賛成意思表示の請求を棄却しましたが、それは契約当事者に履行強制の意思を認める根拠が乏しいと判断したためであり、当事者の合理的意思解釈の問題として扱ったものです。このことからすれば、契約の合意内容が一義的に明確であり、履行強制を行う意思が明確に読み取れる場合には、履行強制が認められる余地を残したものと解することも可能です。
学説上も、合弁契約のように株主全員が当事者となる場合には、①総会議長が契約違反の提案を付議しないこと、②契約違反に基づき成立した決議を定款違反と同視して取消事由とすること(会社法831条1項2号)、③契約内容が明確である場合に限り、意思表示に代わる判決(民法414条1項ただし書や民事執行法177条)を求め得ることなどの可能性を肯定する見解が存在します。
株主間契約の実効性を高めるためには、①契約内容を書面化し、合意が一義的に明確になるようにすること、②履行強制や差止請求といった実効性確保手段を契約条項として明記すること、③契約期間を長期に設定するなど契約当事者の意思を明示しておくことが望ましいといえます。もっとも、履行強制や差止請求の可否については未だ定説がなく、裁判上必ず認められるとは限らない点には留意が必要です。
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