【目次】 1 株主間契約とは 2 株主間契約の活用の場 3 株主間契約の活用に関する留意点と対応 ➡4 株主間契約の具体例 ➡5 まとめ |
4 株主間契約の具体例
Ⅰ 持株比率維持のための株主間契約
安定的に株主総会決議を成立させるためには、持株比率を維持し、株主間契約から離脱する自由を制限する以下のような条項を設けることが考えられます。
⑴同意条項
当事者のいずれかが第三者に保有株式を売却しようとした場合に、一方当事者の承諾を必要とする条項です。
会社の発行する全株式が譲渡制限株式の場合であっても、その売却当時の取締役会の構成又は株主構成によっては、譲渡承認が行われるリスクを避けることが可能です。
ただし、売却の事由が制限され、投下資本を回収する機会が失われやすいというデメリットがあります。
⑵先買権条項
当事者のいずれか一方が株式の処分を希望する場合、他方当事者に対し事前に通知し、当該株式を買い取ることが可能な条項(「先買権」)を設けるものです。
株式の処分を希望する当事者は、投下資本の回収を図ることが可能である一方、他方当事者も代金を支払うことで持株比率を従前のまま保持することが可能となります。
⑶売渡強制条項
一方当事者に一定の事項が生じた場合に、その株主は他の株主等に対し所有株式を売り渡す義務が発生する旨を定めるものです。
例えば、当事者双方が個人である場合、いずれの当事者にも相続が発生することがあります。相続人が株主間契約に関する事情を知らず、会社の運営に関心がない場合、他方当事者は、合意に従って相続人が議決権を行使するかどうか不明確であり、不安定な立場に立たされます。
このようなリスクを避けるため、売渡強制条項を設けることを検討します。
⑵先買権条項にも共通する事項ですが、買取価格の不合意により、買取りを実現できない場合に備え、あらかじめ代金又は代金額の決定方法についても条項に入れておくべきです。
Ⅱ 議決権行使のための株主間契約
議決権拘束契約では、①どの議案について対象とするのか、②履行請求等実効性確保のためにどのような手段を想定しているのかを明確に定めることが重要です。
裁判例では、当事者意思の解釈により、株主間契約を限定的に解釈される傾向があり、また当事者が全株主か一部株主かで差止請求の可否が分かれるとの裁判例(前掲名古屋地決平成19年11月12日)が存在することから、条項の文言や当事者の範囲を慎重に検討する必要があります。
典型的な議決権拘束の対象は、取締役の選解任で、持株比率に応じた選任枠を定める条項が考えられます。
もっとも前述のとおり、裁判例では、株主全員が当事者となっていない株主間契約では、株主間契約に基づく議決権行使の差止請求を認めないものが存在する一方、株主全員が当事者であるとの要件を不要とする見解もあります。
そのため、実効性確保の手段については、後に否定される可能性を踏まえつつも、差止ね・株主総会決議の取消・履行強制等あらゆる手段を想定して広く規定しておくことが望ましいでしょう。
また、差止請求等が認められない場合に備え、違約金条項を設けておくことも検討に値します。株主間契約への違反抑止効果が得られるだけでなく、取締役の選任や解任のように、違反した場合の損害額の立証が困難である場合でも、所定の金額を請求できるため、実務上有効です。
5 まとめ
以上のとおり、①当事者の意思解釈から合意が限定され得ること、②株主間契約において議決権の行使の方法を定めた場合であっても、履行請求や差止請求、株主総会決議の取消請求が可能であるかどうかが不明確であるという2つの問題があります。
①については、合意の内容が一義的に明確になるよう合意書を作成することで一定程度対応することが可能ですが、②については、裁判例・学説ともに錯綜しており、現時点で履行請求等が可能な要件を明確にすることはできません。
また、株主間契約に違反があった場合に、違反による損害をどのように算定するのかという問題もあります。
そのため、履行強制等の強制手段が否定される場合や損害の立証が困難であることに留意し、違約金条項を設けることを積極的に検討するべきです。これに代わり、株主間契約に違反した場合には、違反当事者に株式売渡を強制する条項を設けることも、違反に対する抑止効果があるといえます。
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