加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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辞任・解任等退任した取締役の退職慰労金①

【目次】

➡1 退職慰労金の決定方法

➡2 退職慰労金請求権の発生

➡3 退任取締役の退職慰労金支給にかかる救済

 4 株主総会

 5 事業報告

 6 使用人兼務取締役

1 退職慰労金の決定方法

退職慰労金は、在職中の職務の対価であり、報酬の一種として定款に定めがない限り、株主総会決議が必要とされます(会社法361条1項)。実務上は、定款において退職慰労金について定める例は少なく、通常は株主総会決議によって支給が決まります。つまり、実際には株主総会を開催していない中小企業であったとしても、株主総会決議がない場合、退職慰労金の権利は発生しないとするのが判例(最判昭56年5月11日)の立場です。また、株主総会決議を経ずに退職慰労金が支払われた場合であっても、事後の追認決議があれば、原則として、支払いは適法とされています(最判平成17年2月15日)。

実務上、株主総会において、一定の支給基準に従って退職慰労金を支給することのみを定め、具体的な支給金額、期日ないし方法は取締役会の決定(取締役会非設置会社の場合は取締役の過半数による決定)に一任する決議を行うのが一般的です。判例(最判昭和39年12月11日等)も、①退職慰労金規程等の内規や慣行によって一定の支給基準が確立していること、②当該基準が株主に推知し得るものになっていることを条件として適法と解しています。

さらに、株主総会から内規を基礎として退職慰労金の金額等の決定を一任された取締役会が、さらに代表取締役に再一任することも最高裁は許容しています(最判昭和58年2月22日)が、裁量幅が広すぎる場合は違法の疑いがあるとの下級審裁判例も存在します。

また、内規を定めている会社であっても、これに定められた支給基準に拘束されるものではなく、株主総会は独自にその額を決定することができます。

2 退職慰労金請求権の発生

定款又は株主総会で定めない限り、退任した取締役は退職慰労金を受ける権利を有しません。内規がある場合でも、定款又は株主総会決議が存在しない場合には、取締役は退職慰労金を請求できないとするのが裁判例の傾向です。

また、取締役会に退職慰労金の金額等の決定を一任する旨の株主総会決議がある場合でも、直ちに退任取締役の退職慰労金請求権が発生するわけではなく、取締役会が金額を具体的に決定して初めて、退職慰労金請求権が発生すると考えられています。

ただし、内規により功労加算金部分を除く基本部分の金額が客観的に算定可能であり、減額や不支給の定めがなく、支給時期についても具体的に定められている事案において、取締役会の決定前でも基本部分の退職慰労金請求権を認めた裁判例が存在し(東京高判平成20年9月24日)、学説上も支持されています。

3 退任取締役の退職慰労金支給にかかる救済

前述のとおり、退職慰労金は、在職中の職務の対価であり、原則として報酬の一種として定款に定めがない限り、株主総会決議が必要とされます(会社法361条1項)。この点、定款又は株主総会の定めがないこと等を理由として退職慰労金が支給されない退任取締役の救済策が論じられてきましたが、その救済を求める裁判例も見受けられます。以下、いくつかの場合における退任取締役の救済について解説します。

⑴ 定款・株主総会決議がないが、全株主の同意がある又は実質的にみてそれと同視し得る場合

会社法361条1項が定款又は株主総会決議を要求したのは、取締役等による「お手盛り」防止のためであるから、定款又は株主総会決議がなくとも、株主全員の同意がある場合には、退任取締役は退職慰労金を請求することができるとされています。

さらに、同族会社のような閉鎖的な会社では、支配株主である代表取締役から退職慰労金の支給を約束されていた退任取締役が、定款や株主総会決議の不存在を理由に退職慰労金を請求できないことにつき疑問が呈されています。そのため、救済を認める法理が議論され、裁判例や学説の多くは、株主全員の同意がなくとも、実質的にこれと同視し得る場合には、会社が支払いを拒むのは信義則上許されないとする立場をとっています(最判平成15年2月21日等)。

⑵ 定款・株主総会決議がないにもかかわらず支給した退職慰労金の扱い

定款の定め又は株主総会決議がないにもかかわらず支給した退職慰労金について、会社は退任取締役に対し不当利得として返還請求することができるのが原則です。

しかし、同族会社のような閉鎖的な会社では、株主総会が開催されていないことも珍しくありません。このような場合に、すでに支給された退職慰労金につき不当利得返還請求が認められれば、退任取締役にとって酷な事案もあります。

株主全員の同意がある場合、又は実質的にみてそれと同視し得る場合には、会社が株主総会の決議がないことを主張して退職慰労金の返還を求めることは信義則に照らし許容されないと解されます(3のⅠ参照)。また最高裁も、実質的に株主総会決議と同視できる状況で退職慰労金が支給されたにもかかわらず、会社が約1年後に返還を求めた事案について、これを認めた原審の判断を違法とし、会社の請求は信義則に反すると判断しています(最判平成21年12月18日)。

⑶ 任用契約において退職慰労金支給特約があるにもかかわらず株主総会決議がなされない場合

前述のとおり、通常は、定款に退職慰労金の定めはないため、取締役会(取締役会費設置会社においては取締役)が退職慰労金贈呈議案を株主総会に付議しない限り、退職慰労金は支給されないこととなります。

株主総会にどの議案を付議するかは原則として取締役会の裁量に委ねられますが、取締役任用契約に退職慰労金支給特約がある場合、退任取締役は抽象的な請求権を有するため、取締役会には退職慰労金贈呈議案を付議する義務が生じます。

取締役会が合理的な期間内に正当な理由なく議案を付議しない場合、取締役は善管注意義務・忠実義務違反に問われる可能性があります。近時は、退任取締役が取締役に対し不法行為または会社法429条1項に基づく損害賠償を請求できるとする見解が有力であり、会社についても会社法350条の適用または類推適用により責任が認められる可能性があります。

また、近時では、退職慰労金に関する内規の存在や支給慣行などから黙示の特約を認め、代表取締役が株主総会に議案を付議しなかった行為を違法と判断した裁判例もあります(福岡高判令和4年12月27日)。

株主総会に退職慰労金贈呈議案を付議しなかったことが違法と判断された場合でも、損害賠償が成立するには、議案が付議されていれば同額の退職慰労金が支給されたと認められる相当因果関係が必要です。株主総会には退職慰労金の支給につき裁量があるため、通常相当因果関係は容易には認められません。

もっとも、前掲福岡高判令和4年12月27日は、代表取締役が支配株主グループを形成していた事実を踏まえ、内規に従う決議がなされたと判断し、相当因果関係を肯定して損害賠償責任を認めています。実務上、閉鎖会社における同種事案においては参考となる裁判例といえるでしょう。

⑷ 株主総会において一任決議があったにもかかわらず、取締役会が支給を決議しなかった場合

退職慰労金について株主総会で一任決議がある場合、取締役は委任の趣旨に従い合理的に支給額を決定する義務を負います(会社法355条)。合理的理由があれば一定期間の支給留保は許されますが、期間経過後も決定を怠ると取締役の任務懈怠となり、損害賠償責任が生じることになります。

⑸ 取締役会が不支給又は内規よりも減額した額を決定した場合

退職慰労金について株主総会で一任決議がある場合、取締役は株主総会の委任趣旨に従い、合理的に退職慰労金の支給額を決定する義務を負いあます。したがって、内規等に減額・不支給の定めがあり、かつ該当する具体的事実が存在する場合には、その定めに従って減額・不支給とすることが認められます。

しかし、内規にそのような定めがない場合や、減額・不支給に当たる具体的事実が存在しない場合には、取締役会が裁量により自由に減額・不支給とすることは許されません。

それにもかかわらず、取締役会が内規等を無視して正当な理由なく退職慰労金を減額・不支給とした場合、取締役は善管注意義務・忠実義務に違反し、損害賠償責任を負うこととなります。

実務上も、不法行為または会社法429条1項(旧商法266条の3第1項)に基づき、代表取締役等の責任を認めた裁判例が多く見られます。

さらに、会社についても、会社法350条またはその類推適用により、退職慰労金の不当な減額・不支給に関して損害賠償責任を負うと解されています。

<続く>
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