加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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近年の役員責任追及訴訟について-会社提訴事件編-②

 近年の役員責任追及訴訟の動向を把握するため、平成14年以降の会社が提訴した役員責任追及訴訟(株主が共同訴訟参加したものを除く)を調査した。

 この調査では、島田邦雄ほか「新商事判例便覧512号」(商事法務1618号36頁(2002年))から本村健ほか「同797号」(商事法務2404号65頁(2025年))までの「新商事判例便覧」に掲載された、平成14年以降の裁判例を調査対象とした。上級審判決があるものについては、実質的判断がされた上級審を掲載することとした。

 本記事では、平成26年以降の裁判例をまとめた表を掲載する。

No.

裁判所

年月日

結論

事案の概要

21

東京地裁

H26.4.10

否定

外国法人である完全子会社に対する建設機械の売却及び金員の貸付けについて、代表取締役の善管注意義務違反を否定した。
〔ジー・トレーディング善管注意義務違反事件〕

22

東京地裁

H26.12.18

肯定

取締役が開催した記者会見に関し、会社に対する善管注意義務違反、会社及びその親会社に対する名誉・信用毀損による損害賠償責任を認めた。
〔読売巨人軍GM事件〕

23

東京地判

H28.3.28

肯定

有価証券報告書の虚偽記載等に起因する課徴金・第三者委員会費用その他につき、会社創業者取締役に対する損害賠償請求の一部を認めた。
〔クラウドゲート第三者委員会費用・課徴金等に関する役員責任追及訴訟〕

24

東京地裁

H28.4.18

肯定

株主総会の承認を経ずに原告会社が経営していた串カツ店のうちの1店を取締役自身に事業譲渡し、また、取締役が原告会社に事業譲渡していたはずの串カツ店の営業を個人事業として行っていた行為について任務懈怠による損害賠償責任を認めた。
〔串カツ店事業譲渡・競業行為違反事件〕

25

名古屋高裁

H28.7.29

肯定

上場会社において、職務権限基準表により取締役会決議とされた事項について取締役会決議を経ずに行った取引及び会社にとって必要性の認められない複数の取引について、取締役の任務懈怠責任ないし不法行為責任を認めた。
〔ゲオホールディングス役員不正支出事件〕

26

東京高裁

H28.10.12

肯定

業務実態のない報酬を外部に支払った元取締役に対し、株式会社からの善管注意義務違反を理由とする損害賠償請求を認めた。
〔シグマ・ゲイン損害賠償請求控訴事件〕

27

東京地裁

H29.1.26

肯定

代表取締役による財産処分行為につき、自己及び第三者の利益を図る目的で行われたこと等を理由に任務懈怠と評価した。
〔石井式国語教育研究会代表取締役責任追及事件〕

28

水戸地裁土浦支部

H29.7.19

否定

元代表取締役が代表取締役に在任していた際に取締役会決議を経ずに原告会社が土地を合計1150万円で購入したことについて、総株主の事前承認がある場合には、当該取引が重要な財産の処分に該当するかを判断するまでもなく、取締役の忠実義務違反に当たらないとした。

29

東京高裁

H29.12.4

肯定

銀行である原告が、訴外会社への融資が回収可能性のない著しく不当な融資であるとして、融資を推進した代表取締役らに対して損害賠償請求をした事案で、代表取締役らに善管注意義務ないし忠実義務違反があるとして損害賠償責任を認めた。
〔東和銀行事件〕

30

東京地裁

H30.1.22

肯定

株主総会の決議も全株主の同意もなく報酬を受領した元代表取締役に対する報酬相当額の損害賠償請求は、信義則に反し権利の濫用として許されないとした。
〔有限会社大宝事件〕

31

東京高裁

H30.5.9

否定

元代表取締役が、上場会社である原告会社の買収が株主共同の利益に反する可能性があると判断したことに相当の理由があるとして、元代表取締役が、会社乗っ取りへの防衛策のために複数の法律事務所に対して法律事務を委任したことについて善管注意義務・忠実義務違反を否定した。
〔伊豆シャボテンリゾート弁護士費用損害賠償請求事件〕

32

東京高裁

R1.9.25

否定

一人株主であるB組合の意思決定に基づいて、原告会社が、B組合からA社が発行する株式を取得した5ヶ月後、当該株式を取得額の約半額でA社に売却したことについて、取締役の善管注意義務違反を否定した。

33

東京地裁

R2.1.30

肯定

原告会社の元代表取締役が、幹部を名乗る人物から送信された送金の依頼を内容とする偽の電子メールを誤信して送金の必要性についての確実な情報収集をすることなく、部下に指示をして送金をさせたことは、取締役としての善管注意義務に違反するものであるとして、会社法423条1項の損害賠償責任を肯定した。
〔ドルチェ・アンド・ガッバーナ・ジャパン事件〕

34

東京高裁

R3.9.28

肯定

(1)海外への子会社設立の一環として同子会社用の設備を購入した取締役の行為につき善管注意義務違反が認められた。
(2)会社の資金を利用して自己の利益を得るために取締役の報酬を増額した取締役の行為につき善管注意義務違反が認められた。

35

東京地裁

R4.4.20

肯定

取締役の経営判断の内容は著しく不合理ではないものの、その判断過程について、親会社取締役会等での虚偽説明があり、著しく不合理であったとして、取締役の善管注意義務違反が認められた。
[ロッテサービス事件]

36

東京高裁

R4.9.15

肯定

買収および買収先に対する貸付に関する弁護士資格を有する取締役による助言につき、善管注意義務違反が認められた。

37

東京地裁

R5.12.7

肯定

金商法違反の取引推奨行為をした事実を会社に報告しなかった取締役は、それにより会社がストックオプションを無償取得する機会を逸したことで被った損害について、任務懈怠責任を負うとされた事例
[ドンキホーテHD事件]

38

静岡地裁

R6.4.25

否定

取締役が代表者を務める一般財団法人への寄付は、CSR目的であり、合理的な範囲を超えるものとは認められず、取締役の任務懈怠責任が否定された。

39

東京地裁

R6.6.26

肯定

取締役の競業避止義務違反による任務懈怠責任を認めた。

40

東京地裁

R6.10.10

肯定

(1)連結子会社とすべき会社を持分法適用関連会社とした連結計算書類を取締役会で承認し、株主総会に提出した取締役の任務懈怠責任が認められた。
(2)子会社に対する貸付について取締役の任務懈怠責任が認められた。
〔エフエム東京不正会計事件〕

41

東京地裁

R6.11.13

肯定

事後的に取締役会の承認を受けた利益相反取引に関して取締役の任務懈怠責任が肯定された事例

42

東京高裁

R7.3.19

否定

引当金の計上に関する会計処理について、違法性を認めなかった。
[東芝・東芝株主による元取締役・執行役に対する損害賠償請求事件]

川上修平

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