加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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辞任・解任等退任した取締役の競業行為を理由とする損害賠償請求の可否

【目次】

1 取締役退任後の競業避止義務

2 競業禁止特約の有効性

1 取締役退任後の競業避止義務

会社法は取締役に対して、競業避止義務(会社法356条1項1号・365条1項)、善管注意義務(会社法330条、民法644条)及び忠実義務(会社法355条)を課しています。しかし、これらはいずれも在任中の職務遂行を前提とする規律であり、退任後の者に当然に適用されるものではありません。したがって、退任した取締役が自己の知識・経験・技能を活かして会社と同種の事業を営むこと自体は、原則として自由です。その結果、会社と利害が衝突したとしても、それは基本的には自由競争の問題として処理されます。

もっとも、退任後であれば常に自由というわけではありません。社会的に相当と認められる範囲を逸脱するような態様で競業行為を行い、会社の利益を侵害した場合には、不法行為責任が成立し得るとされています。たとえば、会社の営業秘密を利用する場合や、会社に帰属すべき取引機会を流用する場合、あるいは取引社会のルールを逸脱した方法で会社の事業上の利益を侵害する場合など、特段の事情が認められるときには、不法行為に該当する可能性があります。裁判例では、取締役らが突然一斉に退職して競合会社を設立し、旧会社と同一・類似の商品を旧会社の得意先に販売した事案について、不法行為の成立を認めた例があります(東京地判昭和51年12月22日)。

2 競業禁止特約の有効性

前述のとおり、会社法上取締役に課されている義務は退任後の取締役には及ばないため、退任後も競業を制限したいのであれば、会社と取締役との間でその旨の合意をしておく必要があります。実務では、取締役任用契約書に退任後の競業禁止特約を設けたり、退任時に誓約書を作成させたりする例が一般的です。

もっとも、競業禁止特約は退任した取締役の職業選択の自由を制約するものである以上、無制限に有効とされるわけではありません。社会通念上相当と認められる範囲を超える過度な制限は、公序良俗に反して無効となります。その有効性は、①競業取引を制限する必要性の程度(退任取締役の地位・役割、営業秘密・得意先維持等の必要性等)、②禁止期間の長短、③禁止される場所的範囲、④禁止対象となる職種の範囲、⑤代償措置の有無といった事情を総合的に考慮し、会社の利益保護の必要性と退任取締役が受ける不利益とを比較衡量して判断されます(東京地決平成5年10月4日金判929号11頁、東京地決平成7年10月16日判時1556号83頁)。

裁判例では、「退任後2年間、会社と同一または直接・間接に競業する業務に従事する会社等の役員や従業員の地位に就任しない」という旨の特約について、退任した元代表取締役が営業面で大きな役割を果たしていたことから顧客流出のおそれが高いこと、競業禁止期間が比較的短期であること、会社が全国展開しており場所的限定のない義務を課す必要があること、特約の趣旨上、会社の事業と目的物および市場(特に顧客)が競合する業務に限定されると解されること、さらに直近4年間で約1億8000万円の役員報酬および約1億円の退職慰労金を受領しており競業避止による不利益が一定程度軽減されていることなどを理由に、合理的範囲内の制限として有効と判断した例があります(東京地判平成21年5月19日判タ1314号218頁)。また、「退任後2年間、競業関係にある同業他社への就職や競合会社の設立など事業の創設を行わない」という旨の特約について、場所的範囲に限定がなく代償措置も認められない事案であっても、会社の事業が第三者に代替されやすい業種であること、制限期間が退職後2年に限定されていること、当該取締役が営業部門全体を統括していたことなどを踏まえ、不合理な制約とはいえないと判断した例もあります(東京地判令和2年3月26日LEX/DB25584325)。

これに対し、「退任後5年間にわたり競合関係にある同業他社への就職や競合会社の設立等を禁止する」という特約については、当該取締役が営業責任者の立場ではあったものの、営業以外の分野において広範かつ重要な会社秘密に接する立場にあったとはいえないこと、会社が約束した報酬を支給しておらず競業避止による不利益に対する十分な代償措置が講じられているとはいえないことなどを理由に、特約の効力を否定した裁判例もあります(東京地判平成21年2月16日2009WLJPCA02168008)。

▼更に詳しいことをお知りになりたい方は書籍「リーガル・フロンティア 取締役の辞任と解任」(商事法務)をご覧ください。

加藤&パートナーズ法律事務所(大阪市北区西天満)では、関西を中心に会社法関係訴訟・非訟・仮処分、コーポレートガバナンスに関するご相談・ご依頼をお受けしております。

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