加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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新型コロナウイルス感染症対策と契約関係①

はじめに

 新型コロナウイルス感染症の感染拡大により,令和2年4月に緊急事態宣言が発令され,5月にも緊急事態宣言が延長され,人との接触や外出の自粛が要請されており,経済活動にも様々な影響が及んでいます。本稿を始めとする一連の記事では,新型コロナウイルス感染症の感染拡大による影響や,感染拡大防止のための対策により,契約関係において生じうる法的問題及びそれに対する対応の典型例を簡単にご紹介致します。

 本稿では,新型コロナウイルス感染症の影響により商品の納入が納期に間に合わない場合に,当該企業がどのような法的責任を負うか,契約書上に定められた不可抗力条項との関係でお話しします。


参照記事

 新型コロナウイルス感染症対策と契約関係②

 新型コロナウイルス感染症対策と契約関係③


新型コロナウイルス感染症の影響と契約上の不可抗力

 例えば,商品を製造し,販売,供給する企業においては,新型コロナウイルス感染症の影響により,従業員の出勤を制限せざるを得なくなったり,取引企業の営業停止や自粛により原材料や部品の入手が困難となったりしたことが原因で,売買契約で定めた納期までに,相手方に商品を納品できなくなってお困りの企業もあることでしょう。このような場合に,当該企業は,何かしらの法的責任を負わなければならないのでしょうか。

 当該企業の法的責任については,契約書に定めがある場合にはその定めにより,契約書上何らの定めもない場合には民法に従うことになります。


契約書の不可抗力条項について

1 不可抗力条項の例

 契約書において,例えば「地震,台風,津波その他天変地異...重大な疾病...その他不可抗力による本契約の全部又は一部(金銭債務を除く。)の履行遅滞又は履行不能については,いずれの当事者もその責任を負わない。」といったように,不可抗力による履行遅滞や履行不能の場合に債務者は損害賠償責任等を負わないと定められている場合があります。

 どのような事由が不可抗力にあたるかについては,いくつかの例を列挙した上で「その他不可抗力による」というように包括的に定められている条項が多く見られます。


2 感染症等が不可抗力事由であると明示されている場合

 感染症や疾病の蔓延,感染拡大が不可抗力事由として明示的に挙げられている場合には,新型コロナウイルス感染症の感染拡大についても,不可抗力事由に該当すると判断されるでしょう。


3 感染症等が不可抗力事由であると明示されていない場合

 感染症等が不可抗力事由として明示的に挙げられていない場合,新型コロナウイルス感染症の感染拡大が不可抗力事由に該当するか否かは,当該契約の内容,債務の履行が遅延又は不能となった具体的な事情,経緯等から判断されるため,事案により判断が異なるといえます。

 一口に,新型コロナウイルス感染症の感染拡大により納期までに商品の納入ができなくなったといっても,商品が納入できなくなった直接の理由,経緯は事案ごとに様々です。


(1)海外企業の部品製造停止を理由とする製造の遅延

 例えば,商品に必要な原材料や部品の一部を,海外企業から輸入していたところ,海外企業の生産,製造等が停止したため,当該原材料,部品を輸入することができなくなったために,商品を製造することが困難となった場合が考えられます。

 このとき,商品を納入できなくなったことが不可抗力といえるか否かを判断するにあたって,例えば,他の企業等から当該原材料,部品を入手することが容易にできたか否かという事情も,その判断に影響を与えることでしょう。

 また,事前に当該原材料,部品の入手が困難となることを予期でき,備蓄しておくことができたにもかかわらずそれを怠ったとすれば,商品を納入できなくなったのは不可抗力とはいえないと判断する方向に傾く事情であるといえるでしょう。

 反対に,原材料の性質からして入手後すぐに加工する必要があり,事前の備蓄が不可能であったとすれば,商品を納入できなくなったのは不可抗力であると判断する方向に傾く事情であるといえるでしょう。


(2)従業員の出勤制限による製造の遅延

 その他にも,緊急事態宣言の下,政府により,人の接触を減少させること,特に職場に現実に出勤する従業員の数を減らすこと等が求められたことから,企業において,従業員の健康管理のためにも,従業員の出勤を一部制限したところ,商品の製造等が遅れたため,納期に間に合わなくなった場合も考えられます。

 この場合も,例えば,職場に現実に出勤する従業員の数を減らしたとしても,職場に出勤しない従業員に自宅でのテレワーク等で作業を行わせることで,商品の製造等が遅れないようにすることが可能であったかどうかといった事情が考慮されるでしょう。

 今回の新型コロナウイルス感染症の感染拡大による影響は,日本全国に緊急事態宣言が1か月発令された上,更なる延長も決定されており,世界では封鎖された都市も存在していることから,もはや深刻かつ大規模なものであるといえるでしょう。

 また,新型コロナウイルス感染症は,人と人との現実の接触機会が増えれば増えるほど感染リスクが高まるという性質を持つ感染症で,感染拡大防止には,人との接触そのものを回避することが非常に有効であり,そのような対策を講じることが世界的に推奨されています。

 このような新型コロナウイルス感染症の影響の重大性や性質に鑑みれば,新型コロナウイルス感染症の影響により納期までに商品の納入が不可能となった場合,それが不可抗力によるものと判断される場合が多いであろうと考えられます。


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