加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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M&Aにおける会社分割② ― 吸収分割の手続①

第1 吸収分割の手続の流れ

 吸収分割の手続は,以下のとおりの流れで行われます。これらの手続を全て行うには,1か月半から2か月の期間を要します。その中でも最も期間を要するのは,債権者保護手続です。

 本稿では,吸収分割の手続のうち,吸収分割契約,分割会社及び承継会社における株主総会による承認について説明します。

第2 吸収分割契約

1 吸収分割契約において定めるべき事項

 吸収分割に際し,分割会社と承継会社は分割契約を締結します(会社法757条)。株式会社が承継会社となる場合,分割契約において,次の事項を定める必要があります(758条)。

①分割会社および承継会社の商号および住所

②承継会社が承継する資産,債務,雇用契約その他の権利義務に関する事項

 免責的に承継会社に承継されるか,重畳的に承継されるか,分割会社の債務として残るのか明示する必要があります。

 分割会社に対して承継会社の株式を交付するときは,承継会社の資本金および準備金に関する事項も記載します(会社法758条4号イ)。

③承継会社に分割会社または承継会社の株式を承継させるときは,その株式に関する事項

④承継会社が分割会社に対して交付する金銭等について次に掲げる事項

 イ 承継会社株式であるときは,当該株式の数(種類株式発行会社にあっては株式の種類および種類毎の数)またはその数の算定方法並びに承継会社の資本金および準備金の額に関する事項

 ロ 承継会社の社債であるときは,当該社債の種類および種類毎の各社債の金額の合計額又はその算定方法

 ハ 承継会社の新株予約権であるときは,当該新株予約権の内容および数またはその算定方法

 ニ 承継会社の新株予約権付社債であるときは,当該新株予約権付社債についてのロに規定する事項および当該新株予約権付社債に付された新株予約権についてのハに規定する事項

 ホ 株式等以外の財産であるときは,当該財産の内容および数若しくは額又はこれらの算定方法

⑤承継会社が分割会社の新株予約権者に対して当該新株予約権に代わる承継会社の新株予約権を交付するときは次に掲げる事項

 イ 承継会社の新株予約権の交付を受ける分割会社の新株予約権者の有する新株予約権(吸収分割契約新株予約権)の内容

 ロ 吸収分割契約新株予約権の新株予約権者に対し交付する承継会社の新株予約権の内容および数またはその算定方法

 ニ 吸収分割契約新株予約権が新株予約権付社債であるときは,承継会社が当該新株予約権付社債についての社債に係る債務を承継する旨並びにその承継に係る社債の種類および種類毎の各社債の金額の合計額又はその算定方法

⑥⑤の場合,吸収分割契約新株予約権の新株予約権者に対する承継会社の新株予約権の割当てに関する事項

⑦効力発生日

⑧分割会社が,効力発生日に次に掲げる行為をするときはその旨

 イ 分割会社株主に対し全部取得条項付種類株式の取得対価として承継会社株式を交付すること

 ロ 分割会社株主に対し剰余金の配当として承継会社株式を交付すること

 これらは,人的分割(分割型分割)を実施する際の定めです。剰余金の配当等に関する財源規制の適用はありません(会社法792条)が,別途剰余金の配当等の手続を行う必要があります。人的分割の場合,承継会社又は承継会社の子会社が分割会社の株主であっても,自己株式の取得規制,親会社株式の取得規制には違反しません(会社法155条13号,会社規則27条2号,3号ホ,会社法135条2項5号,同規則23条5号,6号ヘ)。

2 会社分割により,承継会社による自己株式の取得が生じる点について

 承継会社が,分割会社が保有する承継会社株式を承継すると,承継会社にとっては自己株式の取得となりますが,分割契約に明示することにより,許容されます(会社法758条3号)。承継会社である子会社が親会社株式を取得することも許されます。

 また,分割会社が保有する自己株式を承継会社に承継させることは,自己株式の特定の相手方への処分ともいえますが,分割契約に明示することにより,許容されます(会社法758条3号,760条3号,同計算規則40条)。

第3 分割会社における分割契約の株主総会による承認

1 株主総会特別決議

 分割会社は,分割契約について,効力発生日の前日までに,株主総会の承認を受ける必要があります(会社法783条1項)。承認には株主総会特別決議を要します(同法309条2項12号)。

2 株主総会特別決議が不要な場合

(1)略式分割

 承継会社が,分割会社の特別支配会社である場合には,分割会社の株主総会決議は不要です(会社法784条1項)。ここで,特別支配会社とは,その会社の総議決権の10分の9以上を所有している会社をいい,その所有には100%子会社等による間接保有も含まれます(会社法468条1項,会社規則136条)。

(2)簡易分割

 吸収分割により承継会社に承継させる資産の帳簿価格の合計額が,分割会社の総資産額の5分の1を超えない場合には株主総会決議は不要です(会社法784条2項)。

 ここで,吸収分割株式会社の総資産の額とは,算定基準日(吸収合併契約の締結日)における①から⑧までに掲げる額の合計額から⑨に掲げる額を減じて得た額をいいます(会社規則187条)。

 ①資本金の額

 ②資本準備金の額

 ③利益準備金の額

 ④会社法446条に規定する剰余金の額

 ⑤最終事業年度の末日(最終事業年度がない場合にあっては,吸収分割株式会社の成立の日)における評価・換算差額等に係る額

 ⑥新株予約権の帳簿価額

 ⑦最終事業年度の末日において負債の部に計上した額 

 ⑧最終事業年度の末日後に吸収合併,吸収分割による他の会社の事業に係る権利義務の承継又は他の会社(外国会社を含む。)の事業の全部の譲受けをしたときは,これらの行為により承継又は譲受けをした負債の額 

 ⑨自己株式及び自己新株予約権の帳簿価額の合計額

第4 承継会社における分割契約の株主総会による承認

1 株主総会特別決議

 承継会社は,分割契約について,効力発生日の前日までに,株主総会の承認を受ける必要があります(会社法795条1項)。承認には特別決議を要します(同法309条2項12号)。

 承継する資産の中に,承継会社の株式があるとき,すなわち自己株式の取得となる場合には,取締役は,株主総会においてその旨を説明しなければなりません(会社法795条3項)。

 また,承継会社に分割差損が生ずる吸収分割の場合にも,取締役は,株主総会においてその旨を説明しなければなりません(会社法795条2項)。

 ここで,分割差損が生ずる場合とは,以下の場合をいいます。

 ①承継会社が分割会社から承継する承継債務額が承継資産額を超えるとき(同条同項1号,会社規則195条)

 ②承継会社が分割会社に対し交付する承継会社の株式等を除く分割対価の帳簿価額が承継資産額から承継債務額を控除して得た額を超えるとき(同条同項2号,規則195条)

2 株主総会特別決議が不要な場合

(1)略式分割

 分割会社が,承継会社の特別支配会社である場合には,承継会社の株主総会決議は不要です(会社法796条1項)。特別支配会社とは,その会社の総議決権の10分の9以上を所有している会社をいい,その所有には100%子会社等による間接保有も含まれます(同法468条1項,会社規則136条)。

 ただし,承継会社が公開会社でなく,かつ分割会社に対し承継会社の譲渡制限株式が交付される場合は,承継会社の株主総会の特別決議が必要です(同法796条1項但書)。

(2)簡易分割

 ①分割会社に交付する承継会社の株式の数に一株あたり純資産の額を乗じた金額,②分割会社に交付する社債,新株予約権または新株予約権付社債の帳簿価格の合計額,および,③分割会社に交付する株式等以外の財産の帳簿価額の合計額が,承継会社の純資産の額の5分の1を超えない場合には株主総会決議は不要です(会社法796条2項)。

 ここで,承継会社の「純資産の額」とは,算定基準日(吸収合併契約の締結日 )における①から⑥の合計額から⑦の額を減じて得た額(当該額が500万円を下回る場合にあっては,500万円)をいいます(会社規則196条)。

 ①資本金の額

 ②資本準備金の額

 ③利益準備金の額

 ④法446条に規定する剰余金の額

 ⑤最終事業年度の末日(最終事業年度がない場合にあっては,株式会社成立の日)における評価・換算差額等に係る額

 ⑥新株予約権の帳簿価額

 ⑦自己株式及び自己新株予約権の帳簿価額の合計額

 ただし,次に定める数のうちいずれか小さい数(会社規則197条)の株主が,株主に対する通知・公告(会社法797条3,4項)の日から2週間以内に,分割に反対の意思表示をしたときは,効力発生日の前日までに,株主総会の承認を受ける必要があります(会社法796条3項)。

①特定株式の総数×1/2×1/3+1

(特定株式とは,簡易分割に係る株主総会(会社法796条3項)において議決権を行使することができることを内容とする株式をいいます(会社規則197条1号)。)

②簡易分割に係る決議要件として一定数以上の特定株主の賛成を要する旨の定款の定めがある場合において,特定株主の総数から株式会社に対して簡易分割に反対する旨の通知をした特定株主の数を減じて得た数が当該一定の数未満となるときにおける当該反対する旨の通知をした特定株主の有する特定株式の数

③簡易分割に係る決議要件として上記以外の定款の定めがある場合において,簡易分割に反対する旨の通知をした特定株主の全部が簡易分割に係る株主総会(同法796条3項)において反対したとすれば当該決議が成立しないときは,当該行為に反対する旨の通知をした特定株主の有する特定株式の数

④定款で定めた数

(例)特定株式=総株式であり,定款に簡易分割に係る決議要件に何ら定めがない場合

総株主の1/6を超える株主の反対する旨の通知があった場合に,株主総会決議を省略できません(①)。

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